道路構造物ジャーナルNET

第64回 あえての、トリアージ

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦 氏

公開日:2021.05.16

1.はじめに

 まだまだ、新型コロナウイルスが猛威を振るってます。緊急事態宣言も出てますし、非常に動きづらいですね。温泉にでも行って、のんびりしたいのに。
 ここにきて、講演の依頼が増えてきた。だいぶ時間差はあるが、さすがNHK効果である。それを期待して発信したのであるが、コロナの影響と世の中の感覚のずれであろうか、反応はまだまだである。また、「植野塾」を地方でやってほしいという要望もあるが、なかなか実現はしない。やってくれとだけ言われてできるものではない。

2.先月のトピック

 皆さん、このコロナ禍で、仕事も大変だと思う。WEBの会議をやって、移動時間は確かにないが、かえって疲れる。1日に2件もあると疲れてしまう。3件もあれば、かなり疲弊する。
 先月のトピックは、沖縄でNPOグリーンアースからの依頼によるもので、JICA沖縄研修所での、「道路維持コース」の中で「橋梁マネジメント」について毎年講義している。ここ、数年間にわたり年に1度やっている。2020年度の研修生たちは、やはりコロナの影響があり自国でWEB形式で研修を受けた。今回は、前年度の研修の評価会であった。先に提出されたレポートと当日の発表を聞き、講師陣が質疑をしていくのであるが、皆さんなかなか、熱心であった。


沖縄と言えばシーサー(JICA研修所の食堂玄関)

 国は、ベリーズ(3名)、パプアニューギニア、東チモール、フィリピン(2名)、1名脱落(?)であり、皆さん各国の官僚や公務員である。かなり、真剣に取り組み真面目であった。皆さんが残念がっていたのは、本来研修では実習で現場にも行くのだがそれができなかったことである。また、対面での講義を希望していた。皆さんが一様に、興味を示していたのが、ドローンの活用と、3次元図化(BIM/CIM)、モニタリングシステムであった。これは、日本の技術者と同様である。インフラのメンテナンスに関しては、重要性に関しては認識を示しつつも、今後の課題としていた。とにかく、まじめに画面に向かって訴えていたのが印象的で、さすがは、各国の代表である。日本ではモニタリングの重要性がいまいち理解されていないような気もするが、早めに設置しておく重要性を彼らは理解できていた。
 日本は、こういった国々に支援してODAやJICA事業で橋などを作ってきたが、今後はメンテナンスの技術も支援していく必要がある。しかし、今の状況で、日本の技術力が通用するのかは心配なところである。現在の国内の状況を見ているとどうも違った方向に向かって行っているような気がしてならない。
 さらに、翌日NPOグリーンアースの主催のセミナーで1日、6時間、1人舞台を行った。80人ほどの対面だったが、キャンセル待ちとのことで、地元の熱意が感じられた。講義中、寝ていたのは私が確認できた限りでは1名のみであった。皆さん熱心に聞かれて、話していると肯いて聞いていてくれる方が多かったのが印象的であった。やはり、マスクは付けても対面が良い。話しているほうも、会場の感覚が良くわかる。私は、自分の講演では、「どうぞ寝たい方はどんどん寝てくれ。中途半端は体に悪いからしっかり寝たほうが良い。」と言っている。寝られるのは話し手にも責任がある。

 こういう中でも「植野塾」の地元での開催の要望もあり、可能であればやっていきたい。しかし、私の富山での成果は、「橋梁トリアージ」と「植野塾」の印象が強いようである。新型コロナウイルスの影響で、仕事も出張も選別しなければならない。しかし、もともと、私は基本的に「断らない」。少し前に「断らない女」と言うのが話題になっていたが、私は飲み会は断るが、仕事は基本、断らない。対応できそうであれば対処する。

3.あえての、トリアージ?

 やはり「トリアージ」と言う言葉は強すぎるのか? 日本人には向かない言葉なのかもしれない。しかし、取捨選択は当たり前で、すべてを残す。助けるというのは不可能である。日本人は、順番をつけるのが好きである。しかし、肝心な時には付けられない。すべてに対応できれば美しいが、それは財政上無理。ここで、よく言われるのが、住民の同意、合意形成である。そこが実際には難しい。皆さん、簡単に言うが実際に対応しているほうはそんなに簡単ではない。よくコンサルさんもそういうが、じゃああなた方が行って住民の同意を取ってこられるのか?そこができるとすれば市民の代表である議員さんか、そこで生まれ育って住民感情にも精通し、責任を持って対応できる職員しかいない。あとは、独裁者だ。100%同意と言うのは独裁主義でしかありえない。

橋梁トリアージの考え方 

こうした橋をどうしていくか(当サイト既掲載)

 多くの方々が期待して、聞かれるのが「トリアージで実際に撤去できたか? その時の住民との合意は?」である。至極当たり前な話である。しかし、これが難しい。住民感情は簡単単純ではない。富山の場合は、先に「コンパクトシティ化」が実施されている。これが、住民感情を逆なでしている。結局は、公共施設がコンパクトシティ化で統合や廃止を余儀なくされている。その地域と、橋梁トリアージの地域が合致するのである。これは、冷静に考えれば当たり前の話である。しかし、感情は「何で自分たちばっかり。」なのである。これは気持ち的には理解できる。しかし、冷静に判断していくと、実際には、そうなるのである。

 納められた税金は、公平に再配分されなければならない。どこにどういう風に使うかであるが、人口の多いところに当然のごとく使うべきであろう。様々な意見があり都合もあるだろうから、なかなか進まないのが公共事業であり、特に撤去となると、かなり難しいが、これもやるべき時にやっておかないと、事故が起きる可能性が高い。この時に責任を取るのは管理者である。ある特定の意見によって、事業が進まなかった場合、きちんと議事録を残し、誰が反対したのかと言うことを明確にしたほうが良いと思う。仮に議員さんが反対したのなら、その議員さんの名前も残しておき、なぜ、できなかったのか?を明確にしておくことが自分の身を守る。忖度ばかりが身を守るのではなく、的確な判断、専門的判断が阻害された場合は、それを記録に残すことも重要である。作る時代には、反対が多ければ、事業をやらなければよかったが、守る時代では、それが事故へとつながることもある。公務員も賠償責任を負う時代である。私も、現役時代は3億円の賠償請求保険に個人で加入していた。何があるかわからない。

 あえて書くが、老朽化問題は新設と違って、計画設計と施工は完ぺきに行われたという前提のもとに行われている。しかし、果たしてそうであろうか?計画の甘さはなかったか?設計ミスはないか?施工のミスもなかったか?完璧に出来上がっているのか?否!どうも怪しいものが多々ある。それをどうする?そうなってくると前提が崩れ、「長寿命化」などと言うのは、世迷言である。そもそも、「長寿命化」とは何なのか?最近、何度か点検し、ひび割れの出方がどうも不思議だった橋梁に関して、昨年度詳細調査を実施したので、3次元解析も実施し、現存する計算書・図面等と突き合わせて照査したら、とんでもない結果になった。応力オーバーが数か所見つかった。施工ミスなのか手抜きなのか?問題があるので詳しくは書かない。職員もコンサルも、何かひび割れが出ていると「ASR」で済ましてしまう。しかし、ひび割れの出方、大きさなどでそうではない場合もある。中間検査や完了検査を実施しているはずなので、そこでみつからなかったのか?と言う気もするが、知識が無かったり、甘い検査をすれば見逃される。さらに、しょっちゅう条件を変更する設計が行われた場合(これは発注者の力量と性格による)ミスが発生しやすい。しかし、それが実態である。これまで、所定の位置まで鉄筋が入っていない橋脚などは見てきた。会計検査をよく気にしているが過去はどうだったのか?肝心のところはどうなのか?

 さあ、このような不安定な構造物をどこまで、対応するのか? 今後、見ものである。

4.まとめ

 2030年度には、かつての橋梁の寿命と言われた50年を経過する橋梁の数は56%になると予想さ
れている。そして、現在、評価Ⅲは、7万橋、評価Ⅲの予備軍と言える、評価Ⅱは35万橋であることか
ら、インフラの老朽化対策は、終わりなき戦いであり、膨大な予算を今後必要とし、人材も必要になってくる。これらの、国難と言うべき危機的状況を解決するためには、新たな「しくみ」とその仕組みを理解できる「人材」が必要である。

 コロナ同様、インフラ老朽化も戦いである。ひたひたと押し寄せる圧倒的物量に対しどう戦うのか? ここには、戦略が必要である。皆さん簡単に戦略、戦略と言うが、何を戦略と言うのか? 時代が変われば、考え方も戦い方も変化する。戦略の基本は「敵を知り、己を知ること」であるが、どれだけ敵を知っているのか? さらに、己をどれだけ知っているのか? また、戦略の基本は、最悪の状況を想定し、限られた資源(ヒト・モノ・カネ)で闘う方策を練ることである。

 私が一番恐れているのは、前述したが、潜在的不良橋梁である。そして同様に不良構造物。計画も十分な検討計画されているか? 設計ミス。施工ミス。手抜き。理解不足で作られてきたものが相当数あると感じている。「長寿命化」とは言うけれど、生まれつき欠陥を持ったものを長寿命化できるのか?する価値はあるのか? コストは? さらに、全体の財政に与える影響は?数の脅威、数のリスクも存在する。安易に「すべて残す」というのは、美しいが無理がある。
 現在の我々は、将来の子孫に負債を回してよいのか?だからの「トリアージ」なのである。SDGsと言うことが盛んに言われるようになっている。すべての人々に持続可能な社会をと言うことである。持続可能な社会を実現するには、負債をどうしていくかである。しかし、この中にも、矛盾はある。物事を実現するためには優先順位を決め、犠牲にしなければならないものも出てくる。きれいごとでは持続可能な社会は訪れない。

 インフラのマネジメントは、まだ未成熟の分野であり、様々な視点から検討が行われている。国土交通省の社会資本整備審議会の中では、インフラのメンテナンス分野において特に「新技術新工法の導入」「PPP/PFI、包括管理などをにらんだ、民間活力導入」に着目して新たなWGが設置されている。これらがキーワードであることは間違いない。対処法として、やらねばならない。コロナは、ワクチンと治療薬が開発されていくだろう。けれども100%ではないが効果が出てくるだろう。しかし、インフラの老朽化に関しては、有効な対処法はいまだない。コンクリートのひび割れの補修は完璧化? 何年の耐久性があるのか? 本当に補修になっているのか? 確認はできていない。

補強五輪イメージ(井手迫瑞樹撮影)

 それを評価してみようと「補修オリンピック」と言うものを富山で始めたが、賛同者は少ない。
 本省の会議でも言ったら「頑張ってください。期待しています。」だった。評価してくれたのか? 逃げられたのか? と思った。(次回は2021年6月16日掲載予定です)

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