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⑭防護柵の重要性~重大事故を教訓として~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2020.11.01

(4)しまなみ海道 伯方島内トラック衝突炎上事故 

 2010年5月23日(日)、しまなみ海道伯方島内下り線を走行中の4t貨物トラックが路肩ガードレールをなぎ倒し、その後、本線に軌道修正後、約200m暴走し、炎上停車した、という事故が発生。丁度、阪神高速道路神戸管理部調査設計課長を終え、本四高速に復帰した頃であった。道路担当課長より依頼があり、事故原因の究明に当たったので紹介する。
①事故概要 
・日時 2010年5月23日(日) 22時10分頃
・場所 愛媛県今治市伯方町(しまなみ海道大三島IC~伯方島IC間下り線)
(図-4.1,4.2参照)

・発生状況(写真-7.1、7.2参照)  下り線を走行中の4t貨物トラックが路肩防護柵に衝突→のり面ブロックに接触後、軌道修正して本線に再進入→約200m暴走し停車炎上
・被害 運転手重傷
・事故原因 不明(原因究明時点では)

②事故原因究明
 原因究明に当たっては、1)防護柵に関する現況構造・諸元の整理、2)防護柵の構造性能(衝撃度等)の整理、3)防護柵の必要性能、4)支柱損傷から推定される現況構造の強度と荷重照査、5)支柱支持力の照査、6)まとめ、のステップで行った。今回は、途中の計算結果は省いて必要な情報だけ説明する。
 1)ガードレール配置とトラック突入角度
 現状の損傷痕跡から貨物トラックの突入角度等を推定した(図-5参照)。通常想定している15°を遥かに超える36°程度と推定された。また、損傷したガードレール、支柱の状況を写真-8に示す。
 2)事故原因の推定
 事故原因は以下の通りと推定
 〇ガードレールの支柱埋め込み深さ不足
 必要長1.65m→事故後実測0.7m (切り盛り境の岩部で施工欠陥)
 〇防護柵の性能(強度性能・変形性能)が発揮されない構造
 維持管理(除草等)の為にあと施工されたシールコンクリート施工により、ガードレール支柱の変位が拘束され、期待されている変形性能を失う。また、支柱の損傷状態から
全塑性破壊と判定。全塑性モーメントから支柱に作用した水平力は3t以上と推定。


 ③事故原因の特定
 事故原因は以下の通りと特定
 〇ガードレールの支柱埋め込み深さ不足
 〇防護柵の性能(強度性能・変形性能)が発揮されない構造

 ④事故後の対策の提案
 事故後の対策としては、①ガードレール支柱の所定の埋め込み深さを確保すること、②シールコンクリートを撤去し、変形性能が発揮できる構造とすること、③②はこの現場に限らず、全本四道路ですること、と提案した。①に対しては、事故後の現地調査の後、削孔してガードレール支柱を設置(写真-9,10参照)済みであった。

 ⑤担当役員の判断  事故後の原因究明を一人で粛々と進め、その報告書をとりまとめ、担当部長に説明した。担当部長から担当役員に説明し、上記③の提案通りに担当部が現場管理事務所に指示して作業は完了したものだと思っていた。

 しかし、内情は違っていた。
 当時の担当役員の見解
 今、シールコンクリートを取るのはまずい。この案件が沈静化したら施工することにする。

 この決定は何を意味するのか。つまり、「相手方(事故車両側)と交渉中(事故賠償)であり、目立った動き(補修工事等)をするとこちらの非を認めることになる」、ということである。「利用者の安全第一」は、どこにいってしまったのか。本当に情けない限りである。
防護柵等路上施設に関係する事故は多種多様だ。何でこんなことが起こるのか、どこが悪かったのか、他に同種構造の箇所は無いのか、どのように改良すればよいのか、という議論になり、調査・点検・検討・対策という流れで進む。都市高速道路や高速道路の様にマスコミに取り上げられる機会が多い組織では当たり前のことである。こういう事故の発生、原因究明、検討や対策実施が社内情報として共有されない会社は人も育たないと私は思う。

(5)最後に

 防護柵に関してこれまで関わったことを述べた。高速道路、自動車専用道路、一般道路(国道、県道、市町村道)等、全国に約1,200千キロ整備されている。防護柵は、車両の路外逸脱による重大事故の防止や二次災害の防止に大きく貢献している。本四などの海上橋では落下事故を防止することを目的としてビーム型防護柵(支柱;H型鋼、水平梁;ボックスビーム)を設置している。現在、路上安全施設については「防護柵の設置基準・同解説(日本道路協会)」により設計が行われている。設計者は、現在から将来にわたる道路の運用(暫定や完成)の変化やロケーション等を十分に検討し、必要な防護柵の設置を進めて頂きたい。重大事故は考えられない様な条件下で起きる。基準で前提とする条件の下での事故はほとんどない。
  最後に、防護柵設置基準や改訂版を作るのは大いに結構なことだが、何か忘れていないか。防護柵メーカーに配慮するのが仕事ではないはずだ。改訂に至った経緯や発端となった重大事故や防護柵構造等に紐づけた内容にすべきである。
(2020年11月1日掲載、次は12月1日に掲載予定です)

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