道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊴

「350委員会を通じた学んだひび割れ抑制・品質確保・耐久性確保」

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授

細田 暁

公開日:2020.10.29

3.ひび割れ抑制の難しさ

 実構造物のひび割れ抑制は難しい。発注者が構造物群のひび割れ抑制をマネジメントすることはさらに難しいと思う。ひび割れが構造問題であり、ひび割れの発生やひび割れ幅に影響する要因はそれこそ無数に存在するからである。そして、その難しさを知らないプレーヤーが無数にいることこそが、問題の難しさなのである。
山口システムは、システム内における「有害なひび割れ」を抑制することに成功したと言えるだろう。ひび割れ抑制対策が複雑でなかったことも成功の一因と思われる。しかし、山口システムをそのまま環境作用や材料事情の異なる各地域に適用して上手く行くのかは分からない。委員会報告書4.2でも述べたが、山口県内のコンクリートの熱膨張係数に大きなばらつきが無かったことが成功した要因の一つなのかもしれない。成功したとしても、成功に満足してしまうのではなく、貪欲に成功の理由を分析することにも意義がある。機械学習により山口システムのデータベースを分析したが、ひび割れ抑制対策にはもっとバリエーションがあり得るし、無駄な対策が行われている場合もありそうである。ひび割れは奥が深い。
 東北地方の高耐久RC床版のひび割れ抑制対策からも多くのことを学んだ。委員会報告書4.1に対策を構築する考え方を記したが、まさにひび割れが構造問題であることを肌で感じた(写真3)。大事なのは現実のRC床版のひび割れが抑制されることであり、事前の対策の検討はなるべく簡易であることが望ましいと考えた。湿潤養生終了後の乾燥収縮の影響も明示的に考慮できていないし、1ヶ月程度の湿潤養生期間は長すぎるようにも思うがこれを短くするための根拠を整備するのは容易ではない。ひび割れによって、我々人間が鍛えられると思って格闘していくしかない。

4.品質が確保されない、という状況が許されるのか

 品質確保、という言葉があるのは、品質が確保されないという状況が生じるからである。極めて高価なコンクリート構造物というインフラの品質が、施工時に確保されないという状況は、一般市民にしっかり伝えると信じがたい状況かもしれない。高価な商品の品質が十分でない、ということの重みは今一度真摯に受け止める必要がある。我が国では、指名競争入札制度で品質を間接的に担保してきた経緯もある。しかし、我が国では入札時に体系化された応札図書が提出されるシステムでなく、契約成立後に施工者から提出されるシステムとなっており、品質確保機能が極めて希薄な調達方式であると言える。このような認識を持って、350委員会で検討してきた品質確保システムの意義を考え、問題解決の行動を重ねていく必要がある。
 設計段階はいくら想像をたくましくしてもあくまでfictionであり、現実の施工段階では、使用するコンクリートや施工条件がrealityとして具現化し、その条件の設計で想定した構造物を造れるように品質を確保する必要がある。特に、設計で想定した耐久性が発揮されるように、かぶりの品質を確保することが重要であり、そのための仕組みを、環境作用や材料事情の厳しさに応じて適切に構築していく必要がある。厳しい条件においては、本チャンの前の試験施工が有用であることを東北の高耐久RC床版の取組みで実感した。

5.耐久性確保の難しさ

 ひび割れ抑制、品質確保も容易ではないが、耐久性確保は検証に時間がかかるのでなお難しい。人間が、発症に時間のかかる成人病について対策を怠りがちなのと似ている。なぜ、目の前にあるルールを超えてまで、耐久性確保の取組みをしなければならないのか、という発想に人間は陥るのである。
 耐久性確保は、適切な耐久設計と施工時の品質確保の両輪により達成される。適切な設計とは、これまでの実構造物での失敗から得られた知見を反映した知恵の集積と言えるから、構造物の劣化の実態からの学びを耐久設計に反映する必要がある。適切な耐久設計とは、維持管理の現場からのフィードバックを必要とするダイナミックな取組みであり、従来より性能をアップさせる場合には当然にコスト増にも直面する。耐久設計の改善は、構造物を管理する発注者こそが行うべき取組みであり、産官学協働で総力を注ぐべき重要事項である。

6.おわりに

 冒頭に述べたように、ひび割れ抑制、品質確保、耐久性確保は永遠のテーマであろう。筆者が品質確保に取り組んできたこの10年ほどの間にも、我が国の地域の疲弊は加速し、もはやコンクリートの安定供給すらままならない事態に陥りつつある。「真っ当に」国家を運営していくのであれば、国土の均衡ある発展のための各地域のインフラの整備は不可欠であるし、それらのインフラが厳しい環境条件の中で十分な耐久性を発揮することも必要であろう。そして、ひび割れ抑制、品質確保、耐久性確保は、維持管理においてこそさらに重要性を増すであろうことを強調して、350委員会の哲学が将来に渡って実践され続けることを祈念したい。(2020年10月29日掲載、次回は11月中旬に掲載予定です)

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