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③橋面舗装(鋼床版)について

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2019.12.01

(1)本四橋の鋼床版舗装

 本州四国連絡橋(以下、「本四橋」という。)の海峡部長大橋は、死荷重軽減を目的として「鋼床版」を採用している。鋼床版はコンクリート床版に比べて、①剛性が低いため輪荷重による局部的な変形が大きい、②気温の影響を受けやすいため温度の変動範囲が広い、等の特徴がある。
 鋼床版舗装に要求される品質は、①平坦性、②鋼床版の変形に対する追従性、③耐久性、④不透水性、⑤薄層・軽量、等である。
 平坦性については、鋼床版上面に多少の凸凹が残ることは避けられず、この凸凹に対しても平坦性を確保する必要がある。「本四橋、橋面舗装基準」(以下、「舗装基準」という。)では、鋼床版のトラフリブ間の平坦度2mm、現場溶接の余盛りや吊りピース残存部の高さを5mm以下と規定している。
 鋼床版の変形に対する追従性については、鋼床版がコンクリート床版より剛性が低く、特に輪荷重による局部的なたわみにより、その上面の舗装にひび割れが発生することが懸念される。特に、縦リブ上や縦桁上では上に凸となり、舗装自体に引張応力が発生する。このため舗装基準では舗装の設計に当たっては、鋼床版の曲率半径20m、縦リブ間の局部たわみ0.4mmを考慮している。また、鋼床版の設計に当たっては、縦桁上におけるデッキプレートの局部変形を小さくするため、縦桁を極力レーンマーク直下に配置する、横リブの間隔を2mを標準とする、等の構造的配慮を行っている。
 耐久性については、特に夏季の高温時における流動・摩耗によるわだち掘れ、冬季低温時のひび割れに対する耐久性が要求される。舗装の耐久性の目標として、路面温度-10℃~60℃、5t換算輪荷重で3.4×106台/年・方向載荷されるとした時の舗装の耐用年数を20年と想定している。
 不透水性は、鋼床版デッキプレートの防食の面から不透水性が要求される。
 薄層・軽量については、長大橋がゆえに軽量化により経済性を追求している。本四の橋面舗装仕様について概説すると次の通りとなる。表-1に各道路会社の舗装厚を示す。


表-1 各道路会社の標準舗装厚

 舗装厚は、大鳴門橋・しまなみ海道が65mm、明石海峡大橋・瀬戸大橋が75mmとしている。大鳴門橋・しまなみ海道の舗装厚65mmは、経済性・耐久性を考慮した舗装の最小必要厚60mmに、継手部の溶接構造を前提として鋼床版上の凸凹及び吊りピースの跡等を考慮して+5mmを加えている。
 明石海峡大橋・瀬戸大橋については、交通量が多いこと(特に、瀬戸大橋については最初に全通するルートであること)、海峡部橋梁が多く将来の補修等を考慮して75mmとしている。舗装材料については、一般国道16号長浦試験舗装の結果等から決定した。表層には動的安定度が大きく、流動抵抗性が高い改質(Ⅰ型)アスファルト混合物を、基層には防水層を省略できるグースアスファルト混合物を採用している。
 供用後の橋面舗装調査では、「ブリスタリング」が大鳴門橋、伯方大島大橋で確認された(写真-1にブリスタリング参照)。原因は、滞留水分、油脂類の付着等、である。また、「花咲き現象」と呼ばれる赤錆による無数の赤い斑点が南北備讃瀬戸大橋で確認された。主な原因は、骨材中の硫化鉄(FeS2)の存在に起因しているようである。表-2に橋面舗装の施工実績を示す。


写真-1 ブリスタリング

表-2 橋面舗装の施工実績

(2)関西国際空港連絡橋の鋼床版舗装

 関西国際空港連絡橋(以下、「連絡橋」という。)の橋面舗装は、私が関空会社設計係長出向時に担当したので詳述する。連絡橋は、大阪府泉南沖約5kmの海上に建設された空港島とりんくうタウンを結ぶもので、海上中央部は道路・鉄道併用のダブルデッキトラス橋(3径間連続トラス橋、橋長450mのものが6連)、両サイドは道路・鉄道それぞれ単独の箱桁橋である。
 海上中央部の1連は、航空法による空域制限で頭を押さえられていること、また、海上航路を確保するために下を抑えられていることで非常に桁高等、無理をした設計となっている。図-1に連絡橋の標準断面を示す。


図-1 標準断面図(トラス部)

 連絡橋の舗装設計条件が従来の本四橋等の鋼床版舗装の設計条件と大きく違うのは次の点である。①鋼床版の構造条件の問題、つまり、ブラケットの張り出し長が大きく(約5m)、横リブ間隔が広いことから輪荷重載荷時の鋼床版の局部変形が非常に大きいこと、②空港連絡橋のため、大型車混入率が約19%と大きいこと、③冬季の飛来塩分量が多いことによる舗装等の劣化の問題があること、である。
 図-2に活荷重載荷時におけるデッキプレートの局部変形概念図を示す。


図-2 舗装表面に発生する局部変形概念図

 関空会社では舗装に対して非常に過酷な設計となることから、「関西国際空港連絡橋舗装委員会」(以下、「委員会」という)(委員長;多田宏行氏)を設置して各種検討にあたった。この中で実施した何点かについて紹介する。

 連絡橋の場合、空域制限・航路限界の設計条件からトラスの桁高を抑えるために、鋼床版とトラスの上弦材を一体とした合成鋼床版(トラス主構上弦材と鋼床版を一体化した構造、主桁作用と床版作用を担う)としている。
 同じ形式としては、本四橋の斜張橋である櫃石橋、岩黒島橋がある。図中の上弦材腹板から右側がトラスの主構上弦材、左側が張り出し部鋼床版となる。つまり、主構上弦材腹板(ウエブ)の剛性に比べ張り出し部鋼床版の剛性が小さいことから③の位置で曲率半径が小さくなる。この部分が舗装の最弱点部となるのである。

 ①連続鋼床版橋の舗装調査
 空港連絡橋と同様な構造、つまり、張出し長が大きい鋼床版を有する橋として、片上大橋(岡山県)(4径間連続鋼床版箱桁橋、橋長477m、最大支間長160m)、海田大橋(広島県)(3径間連続鋼床版箱桁橋、橋長547m、最大支間長250m)、門崎高架橋(本四橋)(3+4径間連続鋼床版箱桁橋、橋長1,009m、最大支間長190m)、等について橋面舗装の状況を調査した。いずれにおいても剛性の急変する張り出し付け根部付近において舗装にクラックが発生していた。一例として、片上大橋のひび割れ対策事例を示す(写真-2参照)。


写真-2 片上大橋のひび割れ対策事例

 ②基層混合物の健全性調査
 国道43号線(西大阪線)の鋼床版舗装で昭和40年代後半に基層にグースアスファルト混合物を施工した箇所の健全性(デッキプレートと基層の接着や水密性の確保)調査を実施した。当時の施工が良好だったことからかブラスト+カチコート(接着層)+グースアスファルト混合物仕様で付着力は十分に取れており、水密性も確保されていた。

 ③舗装ひび割れの検討
 本橋の鋼床版は、上弦材付近に大きな局部変形とそれに伴い直角方向に大きな曲げひずみが生ずることが予測された。つまり、舗装は鋼床版の大きな局部変形により供用後早期に特定位置にひび割れが発生することが懸念された。このため、解析と実載荷試験を実施して「ひび割れ発生位置の特定を行った(詳しい内容は、「月刊アスファルトVol.38 NO.187」、P29~P35「関西国際空港における橋面舗装」(角和夫著)を参照)。

 ④表層温度の低減化検討
 舗装ひび割れの発生原因は、上弦材腹板直上での大きな曲げ歪の発生と夏季高温時における舗装のスティフネス(弾性係数)の低下、によるところが大きい。このため、舗装スティフネス低下の要因でもある舗装体の温度低減を期待した骨材調査を実施した。一般的に使用されているのが「明色骨材」で白~灰色を呈している。「明色骨材」は、阪神高速道路東大阪線等で実績がある。東大阪線では、照明灯の効果を上げることが主目的(路面の輝度を確保)である。
 明色骨材の効果は、舗装の表面温度を2℃程度下げる程度であり、不採用とした。

 ⑤基層の耐流動性向上策の検討
 連絡橋は大型車混入率が高いことからグースアスファルト混合物表面に6号砕石のチッピングを施工することとした。

 ⑥鋼床版表面処理工法
 鋼床版舗装の基層に用いるグースアスファルト混合物は非常に高い水密性を有している。一方、鋼床版表面は、工場製作時から舗装施工時までの間、確実に防錆されていなければならない。このため、本四橋では鋼床版表面に無機ジンクリッチペイント50μを施工し、製作・架設期間中の防錆対策としている。また、架設用の吊りピース切削跡(5mm残し)や現場溶接部については厚膜型エポキシジンクリッチペイント60μを舗装施工までの防錆対策としている。
 表-2の鋼床版研掃工で示す通り、本四橋では1種ケレンから4種ケレンまでが施工されている。これは、鋼床版表面の無機ジンクリッチペイントや厚膜型エポキシジンクリッチペイント(補修)の状態の良し悪しで使い分けている。
 この結果、大鳴門橋(4種ケレン)や伯方・大島大橋(3種又は1種ケレン)では舗装施工後にブリスタリングが多数発生している。ブリスタリングとは、グースアスファルト混合物のように高温(230℃程度)で舗設する場合、錆に含まれる水分が蒸発し、その蒸気圧により舗装が膨れる現象である。
 大鳴門橋では本線部、路肩部に多くのブリスタリングが発生したことから本線部について補修が行われた。つまり、発錆が見過ごされていたわけである。2004年頃、大鳴門橋の表層打替えが行われた。この時、供用開始時から放置されていた路肩部のブリスタリングの補修を行った。幸いなことに鋼床版には少数の発錆があった程度で腐食までは至っていなかった。これらのことを鑑み、関西国際空港連絡橋舗装基準(以下、「連絡橋舗装基準」という。)では鋼床版表面処理は「ブラスト工法による1種ケレン」とした。

 上記①~⑥等の検討を基に連絡橋舗装基準を策定した。以下に、簡潔に示す。
 ①舗装構成は、基層にグースアスファルト混合物(35mm)、表層に改質アスファルト混合物(35mm)、基層表面に6号砕石によるプレコートチップとする。
 ②鋼床版表面処理は1種ケレン(ブラスト)を施工する。
 ③ひび割れ防止目地(幅6mm、深さ30mm)をひび割れ発生予測位置(トラス上弦材直上付近)に施工する。
 図-3に車道部の標準舗装構成を、図-4にひび割れ防止目地の構造、を示す。


図-3 車道部の標準舗装構成

図-4 ひび割れ防止目地の構造

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