道路構造物ジャーナルNET

③アルカリ骨材反応

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2019.11.01

 もう少し一般的な話を続けようと思いましたが、読むほうが退屈になるかもしれないということで、それは途中に少しずつ加えることにして、今回からは、私の経験を中心に話を進めます。鉄道構造物は、100年程度の径年の構造物も多く現役で使われており、環境と生まれが良ければ劣化するものではないことがわかります。
 劣化するものには原因があるということです。その劣化原因ごとに、私の経験と、今はどのようにして劣化原因をなくしているかについてお話します。最初はアルカリ骨材反応についての話です。

1.アルカリ骨材反応を最初に知ったのは

 長い間、アルカリ骨材反応を起こす骨材は日本にはないと信じられていました。私が最初に国鉄構造物設計事務所に勤務した1973、74年ごろ、広島付近の高架橋の柱の多くに縦ひび割れが発生し、原因と対策の議論が行われていたのを思い出します。また、その頃PC枕木にひび割れと、ゲルが浸みだすという現象が多く発見されました。
 私は軌道の設計を担当していたので枕木の問題にもかかわることになりました。問題となっている枕木を見せられた時は表面がゲルで黒光りしていて、気持ち悪いという印象が残っています。かなり多くの枕木にゲルの発生ということが起こっていました。この原因の調査委員会が国鉄内に学識経験者を集めて行われてもいました。セメントの粉末度がどんどん細かくなってき、行き過ぎていろいろ問題が生じたので、また少し粗くしたことなど、各材料や養生方法など、様々な調査が行われ、議論がなされていたのを、事務方で聞かせてもらっていました。委員会の途中で新幹線の建設現場に転勤したので、最終結論は記憶にありませんが、アルカリ骨材反応という明確な結果ではなかったと思います。今思うにこれらはアルカリ骨材反応だったのですね。
 その後、アルカリ骨材反応が関西中心に話題になり、全国的に起こっていることも明らかにされました。かつて骨材は、川砂利と、川砂であったものが、建設が盛んになり、また河川から砂利や砂を取ることが規制されたことで、岩石山から砕石を骨材に使い始めたことが、アルカリ骨材反応が国内で多く発見されようになった原因といわれました。  

2.変状構造物 

 アルカリ骨材反応の対策がなされない時代に造られた、構造物の変状の状況を写真-1に示します。この構造物には、冬の間雪が積もるので、列車の走行に支障することのないように、温水を撒いて雪を解かすことが行われています。そのため冬の間は構造物表面は滞水している状況です。最初に私に相談が来たのは、この付近にあるPC桁が上に反り、その反りの量が大きくなり、プレストレスを逆算すると鋼材が降伏することになってしまい大変だということでした。このころは、アルカリ骨材反応という事象は知られており、この付近の構造物がアルカリ骨材反応を起こしていることはわかっていました。
 構造物の安全性は大丈夫かとの相談を受けたので、安全性は心配いらないと答えました。これは、上面が滞水しているので、上面側がアルカリ骨材反応で膨張し、下側は膨張していないのでそれでそりが生じたので、PC鋼材の応力度が大きくなったのではないので、鋼材の心配はしなくてよいと話しました。しかし桁のそりは大きく、軌道をまっすぐに修正するのに現地では苦労していました。図-1は桁のそりの経時変化です。

 
図-1

 雪を解かすための散水期間の冬季に、PC箱型桁の外面を見ると、桁のウエブの上の方はゲルで真っ黒になっており、下側は乾燥した灰色のコンクリートの色をしています。毎年少しずつ反りは進んでいました。心配している現地の担当者には、中立軸付近まで反応が進んできたので、そのうちに中立軸以下も反応が始まり膨張しだすと反りは進まなくなるでしょうと話したこともあります。その付近の鉄筋コンクリートの高架橋もアルカリ骨材反応の状況で、高架橋のスラブ下面を見ると冬の間は真っ黒になっています。同じ骨材を使っているので、この付近の構造物は、かなりの延長で同様な状況となっています。夏の間は、散水しないので、冬の間黒くなっていた表面は、乾燥してコンクリート色に近い色に戻っています。

 
写真-1 ASRによる損傷 ①高架橋を下から見る

3.JISのアルカリ骨材対策後の構造物に変状が生じる

 日本各地でアルカリ骨材反応による変状があることがわかり、国としての対策が行われました。それは生コンのJISの規定の中に、セメントのアルカリ総量の規定や、骨材の膨張量の測定を義務つけ、測定の膨張量の結果に応じ対策をとるようにしたことです。しかし、アル骨対策がJISにてなされた後に造られた構造物に、アルカリ骨材反応によると思われる損傷がいくつか発見されてきました。特にプレストレストコンクリート橋に生じる事例が多くありました。東北地方のPC橋梁で生じたアルカリ骨材反応では、凍害との複合劣化が生じ、補修が必要となりました。初めは、プレストレスに平行なひび割れが入っているだけであったので、塗装をするなどの処置をしていましたが、塗装はコンクリートのひび割れ箇所ですぐにわれてしまいました。


アルカリ骨材反応の生じたPC桁に対策として塗装したが、その塗膜が割れてしまっている状況

 小さなひび割れを塗装で隠しても、コンクリート表面の日々の温度変化でひび割れが息をするので、すぐに塗装は疲労破壊をしてしまうのだと考えられます。ここからの水分が凍結をすることなどを繰り返すことで、表面付近のコンクリートが土砂化というような状況になってきたので対策をすることが必要となりました。ひび割れが息をしても疲労破壊しないものということで、水を遮断するシートでコンクリートを巻く方法を採用しました。


水を遮断するシートでコンクリートを巻く

次ページ 4.補修費はだれが負担するべきか、JISは補修費を負担しない

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム