道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉘

二つの品質確保システム~発端の異なる山口システムとJR東日本システムの比較~

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授

細田 暁

公開日:2019.04.05

 原因の分析結果を受けて、以下のような対策が採られることとなった。ここでは、採られた対策のうち、本論に関係する主だったものを掲載する。
【設計段階】
(1) かぶりの施工誤差を考慮し、当時のコンクリート標準示方書の中性化による耐久性照査方法に基づいて、かぶりと水セメント比を決定した。中性化抵抗性に劣るという理由から、地上の構造物には高炉セメントを用いないことを原則とした。
 → ただし、その後の検討により、ASRの抑制に高炉セメントB種が有効であること、実構造物における高炉セメントB種の中性化の進行は、普通ポルトランドセメントの場合とほとんど変わらないこと、を理由に地上構造物に対する高炉セメントB種の制限は解除されることとなった。さらに、2017年の示方書の改訂により、中性化に対する抵抗性に換って、水分浸透現象が前面に出された照査方法へとなったのは読者もご存知のことと思う。

(2) 水切り部でのかぶり不足等を解消するための、水切り構造の改善

 

【施工段階】
(3) 高架橋や橋梁上下部工等の特に重要な構造物については、コンクリート工事の施工管理者の資格を見直し、その資質向上を図った。
(4) コンクリートの単位水量の上限値を175kg/m3とし、コンクリート受け入れ時に静電容量方式による単位水量試験を実施することとした。
(5) 少量の合成短繊維を添加することとした。様々な検査も基本は抜き取り検査であり、万全を期す意味である。そのため、合成短繊維の添加量は極めて少量とした。

【検査段階】
(6) 非破壊試験による最外縁鉄筋のかぶりの検査を導入した。

以上のように、JR東日本の品質向上施策では、施工段階での品質管理や、竣工検査が強化されることとなった。

〇 性善説? 性悪説?

 筆者は本論にて、どちらのシステムが優れているかを論じるつもりはない。すべてのシステムには長所短所があるものであり、またシステム構築当初は良くても、時間の経過とともにシステムが劣化しで機能しなくなることもしばしばある。真に何が良いかは、長い時間をかけた検証のみが教えてくれる。
 しかし、ある見方をすれば、山口システムは性善説、JR東日本システムは性悪説に立っていると見ることもできる。ただし、山口システムでは建設に関わるプレーヤーの意識が重要であり、人に頼ったシステムと言うこともできる。JR東日本システムでは、検査が強化されており、地方自治体も含めた津々浦々の工事に適用できるシステムであるかは分からない。
 付け加えさせていただくと、同じく1999年の事故を契機に、徹底的に検査を強化したJR西日本では、確かに品質は向上したが、検査書類は膨大になり、JR西日本で建設工事に関わる技術者のモチベーションが向上したかと言われると疑問である、という大阪工事事務所の幹部技術者もおられた。それもあって、土木学会の「コンクリート構造物の品質確保小委員会」(350委員会)には、JR西日本からも技術者が参加しており、山口システムの考え方やツールも試行的に取り入れて、JR西日本独自の品質確保システムの構築に取り組んでいるようである。

〇 「協働」の行く先

 筆者は2009年から山口システムに関わり、2012年後半からは東北復興道路の品質・耐久性確保システムの構築に関わるようになり、それなりの年月が過ぎた。一過性の取組みではなくなったと感じるが、これらをどう発展・定着させ、国全体の動向と連携や融和をしていくかを模索していく段階にあると考えている。
 先に、山口システムは「人に頼ったシステム」と言うこともできる、と論じた。私自身は、結局すべてのシステムは人によると思っている。なるべく人の力に頼らないシステムの方が良い、という考え方もあろうが、人は頼られてこそ真価を発揮するものである。人に頼ったシステムという言い方を改めるなら、「人が育つシステム」が良いと私は思っている。
 システムに関わるそれぞれのプレーヤーに役割・本分があり、それらの協働によりシステムが真価を発揮する、というのが私がこれまで学んできた山口システムの本質である。
 東北では、2019年3月3日の仙台での講習会にて、「東北地方のRC床版の耐久性確保の手引き(案)」の発刊を目前にした説明会が行われた。凍結抑制剤を大量散布する過酷な供用環境で耐久性を発揮するために、RC床版本体の高耐久化に留まらず、適切な防水工、将来の構造物の性能を考えた舗装の考え方にまで踏み込んだ手引きとなっており、筆者もこの手引きの制定に深く関与した(図-5)。次回以降は、この手引きの内容の紹介も行っていく予定である。

 

 「協働」の行き着く先はまだ見えないが、良いものづくりを通してこそ人が鍛えられる、という哲学を常に根幹に置いて前進を続けたい。

【参考文献】
1) 菅野貴浩:JR東日本におけるコンクリート構造物の長寿命化への取組み,コンクリート工学,Vol.40, No.5, pp.74-81, 2002.5

2) 倉岡希樹,築嶋大輔:MARSデータの変状分析によるコンクリート構造物品質向上施策の検証,SED, No.52, pp.10-15, JR東日本,2018.11

3) 細田 暁:少量の合成短繊維での対策について-コンクリート片の剥落対策(JR東日本による原因分析と対策)-,コンクリートテクノ,Vol.26, No.6, pp.39-44, 2007.7

4) 石橋忠良,古谷時春,浜崎直行,鈴木博人:高架橋等からのコンクリート片剥落に関する調査研究,土木学会論文集,No.711/V-56, pp.125-134, 2002.8

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