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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊵コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その2) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.08.01

2.鉄筋コンクリート橋の健全度を悪くなる要因

 前回は、鉄筋コンクリート橋の健全度と経年の相関について分析結果を基に解説した。今回は、作用荷重(自動車荷重)の量、車両通行台数が健全度にどの程度影響があるか、置かれている環境、特に桁下条件の違いが健全度に影響があるかの2点について分析した結果を説明する。
 道路橋の設計は、①立地条件、②施工条件、③荷重条件(作用荷重)、④環境条件、⑤景観条件、⑥維持管理条件、⑦管理者条件(整備費用、供用開始時期など)を調査、検討し、構造形式や使用材料を決定し、具体的な構造解析、設計を行う。構造解析は、先の条件に対し、構造各部材に発生する曲げモーメント、せん断力、軸力などの断面力を適切な構造モデルを設定し、算出する。その後、断面力によって部材や構造全体に生じる「応力」や「たわみ」を求め、部材自身の「耐力」や「変形性能」及び構造物全体としての「耐荷性能」を算出する。設計は、構造解析で求めたデータに基づき、鉄筋コンクリート部材の所要断面寸法や鉄筋量を算出し、関連する基準との照査、基準に規定されている構造細目に適合するように詳細構造を決定することになる。道路橋の荷重条件の中で重要な活荷重(車両等荷重)は、現行の基準(平成6年以降)ではB活荷重とA活荷重である。しかし、今回分析した鉄筋コンクリート道路橋の多くは、設計年次が平成6年以前である箇所が多く、ほとんどが設計自動車荷重は20トン、14トンもしくは総重量43トンで設計されている。

 先にも示したが、鉄筋コンクリート道路橋は、自重と自動車荷重などの作用力によって部材断面に生じる引張応力を、鉄筋で補強した構造である。しかし、鉄筋コンクリート構造は、支間長を伸ばすと自重(死荷重)が増加し、長大化には限界があることは常識で、アーチ橋を除いて支間長30m以下(私がなぜここでアンダーラインを引いたのかが、この後ので述べる私の内容で分かる)が多くを占めている。また、鋼橋と異なって死荷重応力度が占める割合の大きい鉄筋コンクリート橋は、鋼橋と比較して余力が大きいことから、供用中の道路橋も厳しい塩害条件や多量の融雪剤を散布する地域を除けば、重大な損傷は少ないと考える。視点を変えて、車両荷重が直接乗る床版を考えてみる。鉄筋コンクリート床版の設計は、以前から床版厚さについて、表‐1のように1方向当たりの大型車計画交通量で割増係数を使って割り増しを行っていた。この考え方基本として鉄筋コンクリート道路橋の設計を考えていれば、少なくとも供用期間や交通量による明確な差異は生じないと考えるのが普通である。それでは前回に引き続き、定期点検(定期点検を始めて6回目の実施分)を行った道路橋から鉄筋コンクリート橋445橋を抽出し、分析した結果について説明しよう。

1)車両交通量及び大型車交通量の影響

 図‐3に桁橋、床版橋及びラーメン橋の健全度と車両通行台数の関係、図‐4にカルバート及びアーチ橋の健全度と車両通行台数の関係の分析結果を示した。ラーメン橋と床版橋は、いずれも車両通行台数が増加しても径間別健全度には大きな変化は見いだせなかった。桁橋の場合は、赤線楕円枠で示すように車両通行台数が増加すると健全度も悪化する傾向があるように見える。これもあくまで定性的な考えでの話ではあるが、写真-3は、田園地域の清水の流れる水路を跨ぐ道路橋で、建設後85年経過、通過交通量は、9,459台/日(大型車混入率15.6%である。発生している変状は、写真-4で明らかなように、桁端部、支承部付近に発生した顕著な鉄筋露出及びはく離現象である。写真-5は、山間部の生活道路に架かる道路橋であり、先の事例と同様な建設後85年経過、通過交通量は、5,237台/日(大型車混入率5.9%)である。当該橋梁には変状は殆ど無く、健全度はAランクの健全との評価となっている。



 ここで私は、桁橋の場合は、多少交通量による差異あると考えた。カルバートやアーチ橋は桁橋とは異なって、コンクリート部材に作用する力として圧縮力が大きいためか、支間長が長くなっても健全度に大きな変化があるようには見えない結果となった。桁橋の分析結果から、自動車荷重による影響があるとすれば、T荷重、特に輪荷重の大きさに着目して分析すれば、より差異が明確になると考えた。この考え方を進めると、私は大型車の通行量が多ければ当然、疲労による変状や伸縮装置を通過する際の衝撃荷重も多いと思った。そこで、大型車両の多い路線に架かる道路橋の健全度と供用年数の関係について、分析してみた結果が以下である。図‐5が大型車の通行量が2500台/日以上ある鉄筋コンクリート道路橋の分析結果を示す。調査した構造別全てを捉えた傾向は、供用年数が長くなると健全度が悪化するように見えるが確定は出来なかった。カルバートを除く、桁橋、床版橋、ラーメン橋及びアーチ橋は、供用年数が長くなると健全度が悪化するように見えるので、取り纏めた結果を使って統計処理(回帰分析)したところ、予想に反して相関係数は低い値となった。以上が、鉄筋コンクリート道路橋の自動車交通量及び大型車交通量の影響を分析した結果である。

2)桁下条件による影響

 一般的に鉄筋コンクリート道路橋は、河川(特に、水路)を跨いでいる場合が多い。横断する水路は、川幅が短いことから桁下高さも低くなり、流水に浸かったり、湿気が籠ったりし易い環境といえる。また、市街地の場合は、水路に家庭の雑排水が流れ込む場合も想定され、健全度を悪化させる要因の一つとしてあると考えた。図‐6は桁下が河川(水路を含む)の鉄筋コンクリート橋を分析した結果である。赤の破線はアーチ橋、青の破線(線形)は床版橋の傾向を示したものであるが、いずれの場合も相関が高いとは言えない。全構造を対象とした傾向は概ね青色破線楕円弧と理解されたい。この結果から健全度が悪化するのは、やはり経年によることが支配的と考えられる。

 次に、桁下が道路の場合の分析結果を図‐7に示した。

 桁下高は、建築限界からある程度確保されているとは思うが、径間長が短いことから自動車から排出されるガスの影響が想定される。全体の傾向は、青の破線で示すように経年による健全度悪化が見られるがこれも断定できるほどではなかった。ここで鉄筋コンクリート道路橋と言うよりもトンネル構造物とする方が相応しい事例を紹介しよう。写真-6は、幹線道路のアンダーパスであるが、構造形式はボックスカルバート、道路と交差することから適合する基準は道路橋示方書を使い、一等橋として設計された道路橋扱いとなっている。橋長は、147.0m~58.5m、幅員は25.4m~13.6mの中柱のある鉄筋コンクリート2ボックス構造である(一般的なボックスカルバート道路橋とは、規模、使用環境が大きく異なっている)。道路橋として使われているのは、全面積の40%程度で、残りは緑地帯等として使われている特殊な構造体である。当該箇所を含め同一路線の同構造の橋梁は、供用開始後55年経過し、作用荷重の変更(TL-20からT-25)やひび割れ、漏水等の変状発生から鋼板接着工法によって補強した。
 写真-7及び写真-8で明らかなように、補強された鋼板の継ぎ手部や断面変化点付近で遊離石灰の析出が顕著で、一部に鋼板の腐食や空洞などが確認されている。都市内構造物として、種々地域で数多く見られる構造形式ではあるが、外観からトンネンル構造に近いためか道路橋として認識されずに、発生している重大な変状を見落としがちな事例が多い。図‐8は、桁下が鉄道の場合である。鉄道を跨ぐ鉄筋コンクリート橋の数は少ないが、電化の進んだ現状では、昔の様に機関車から排出される煤煙による影響は無く、周辺環境による健全度悪化が主と思われる。図‐9は、桁下が公園や駐車場として使われている場合の分析結果である。桁下の環境が良好であることから、当然健全度の悪化勾配は青色の破線で示したように低く、他の桁下環境と比較して劣化速度は遅いと言える。




3)径間長が長くなると健全度は悪化するのか

 一般的に道路橋の場合、支間長が長くなると自動車荷重(活荷重)の影響を受けやすいと言われている。そこで、構造別の最大支間長橋梁を抽出し、健全度との関係を分析した結果が図‐10である。図‐10で明らかなように、支間長が長くなると採用される構造はアーチ橋やラーメン橋が多くを占め、床版橋は10m未満が圧倒的である。最大支間長に着目した分析結果は、私が予測したようにはならず、支間長が長くなると健全度が悪化する傾向とはならなかった。
 以上が、供用中の鉄筋コンクリート道路橋を対象に通過交通量及び桁下条件と健全度がどのように関係しているのかを分析した結果である。次回は、対象橋梁の中から変状が発生している橋梁を抽出し、現地調査を行った結果等について主として説明する。最後に、桁下が道路のカルバート構造の道路橋について、特殊な使い方環境等で大きな疑問が残ったので、再度資料を見直し、劣化予測した結果を説明する。

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