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高耐久性を追求するために

NEXCO中日本 凍結防止剤散布に伴う塩害に対する更新床版の耐久性照査の取組み

中日本高速道路株式会社
技術・建設本部
環境・技術企画部 構造技術チーム
サブリーダー

若林 大

公開日:2018.01.16

3.塩害に対する耐久性照査方法と課題

 塩害に伴う鋼材腐食に対する耐久性照査の手法は、コンクリート標準示方書(土木学会)等3)4)で規定されており、式(1)により照査できる。

 この照査方法は、エポキシ樹脂塗装鉄筋、ステンレス鉄筋、並びに混和材(高炉スラグ微粉末、フライアッシュ)などを使用したコンクリートに対しても適用可能であるが、コンクリート表面における塩化物イオン濃度C0の設定方法が確立されていないため、設計での適用が難しいことが課題であった。なお、式(2)に用いるその他の設計用値や各安全係数については、文献5)に詳述しているので参照されたい。

4.床版コンクリート上面における表面塩化物イオン濃度の設定方法

 既設橋では、既設床版上面の塩分量データを取得できるため、実状に近い条件でコンクリート表面の塩化物イオン濃度を設定することが可能である。このことから、照査に用いる表面塩化物イオン濃度C0の設計値は、床版取替えの対象橋梁において凍結防止剤散布による環境作用の影響を適切に評価できる十分な量の調査データに基づいて設定することを基本とした。一方で、これまでに実施した塩分量調査結果に基づき、当面の間、設計で使用するための標準値についても別途定めることとした。
 図-2は、平成27~28年度に実施した塩分量調査データに基づき、床版上面(表面)の全塩化物イオン量の頻度分布について整理した結果である。この調査データは、NEXCO中日本が管理する中央道、北陸道、名神などの雪氷区間において実施されたものであり、調査データの条件は、次のとおりである。
・調査箇所の橋梁は凍結防止剤散布区間であり、平成27年度の冬季において、(1シーズン合計散布量)/(管理延長×2)で算定した凍結防止剤散布量は、11.6~23.1(t/km)である。
・調査箇所の路線は、昭和39年~昭和58年に供用開始した区間である。
・調査データ数は、212橋、1209箇所であり、1橋あたりの調査箇所数は、3~8箇所である。
・大多数の調査箇所で床版防水は実施していない。
・床版面は舗装下にあるため、中性化の影響で表面塩化物イオン濃度が低下する現象は見られない。
・表面塩化物イオン濃度の代表値として、床版上面における表面(0~20mm)のデータを集計している。
・本調査は床版更新の計画立案を目的として実施されたものであり、調査箇所の詳細位置は指定していない。このため、調査箇所は、横断勾配が低い側の路肩や車線が比較的多いが、その他の部位もあり、無作為である。

 調査結果を分析したところ、調査箇所、凍結防止剤散布量、縦横断線形の違いなど、環境条件の違いによる傾向は確認できなかった。また、大半のデータにおいて、全塩化物イオン量は1kg/m3前後であったが、中には突出して高い値を示すデータもあり、その要因は現時点で不明である。
 そこで、耐久性照査に用いる表面塩化物イオン濃度を設定するにあたり、安全側の設定となることに十分配慮しつつ、極端な特異値は除外することとし、全調査データの「平均値+3×標準偏差」の値を算出した。統計処理した結果を表-1に示す。

 この調査結果に基づき、1シーズンあたりの凍結防止剤散布量が上下線別で10(t/km)程度以上となる雪氷区間においては、当面の間、設計に用いる表面塩化物イオン濃度の標準値を、C0=5.0〖kg/m〗^3と設定した。なお、10t/km/年程度を下回る環境の路線においては、過大な設定となる恐れがあるため別途調査・分析を行い、路線特性に応じて設定することを基本としている。
 また、塩分量調査を別途実施し、表面塩化物イオン濃度C_0を定める場合の設定方法及び調査箇所の選定は、(a)~(f)によることを基本としている。

(a) 凍結防止剤散布量が同等とみなせる路線・区間の調査データを1つのグループとして統計処理を行うものとし、複数の橋梁を選定するのを原則とする。これは、特異値を評価してしまうことを避けるためである。
(b) 統計処理を行う場合の標本数(データ数)は30点以上とし、標本数は多いほどよい。
(c) 全調査データの分布に対し、「平均値+3×標準偏差」とした値をコンクリート表面における塩化物イオン濃度C0の設計値とする。これは、上述した分析結果と同様に安全側の設定となるように配慮したものである。
(d) 調査箇所は、横断勾配の低い路肩側(地覆端から500mm程度)を基本とする。(図-3)
(e) 土砂化が進行した箇所や、コンクリートに浮きや過度なひび割れが生じている箇所など、劣化が著しく進行した箇所のデータは用いない。これは、劣化箇所の塩化物イオン濃度は、浸透拡散とは別の要因で塩分が蓄積されると考えられ、こうしたデータはPC床版の耐久性照査に用いるべき環境作用の影響を適切に評価していないと考えたためである。
(f) 調査方法は、コア採取によるのを原則とし、表面塩化物イオン濃度の評価は、0~20mmのデータによることを基本とする。これは、既往の調査データによると表面から20mm程度までの塩分濃度分布差が少ない傾向であったためである。ただし、深部方向への拡散状況を把握するため、表面深さ100mmまで20mm間隔で塩化物イオン濃度を算出する

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