道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉚『メンテナンスの扉』が開きましたか?

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.10.01

小橋梁をないがしろにするとしっぺ返しを受ける

3.橋梁を維持管理することとは
 橋梁を維持管理することは、大変だとお思いの方に考えていただこう。私は聞きたい、橋梁は、何のために架かっているのですか?と。橋梁が必要となるのは、渡るのが困難な箇所、橋梁が架かっていなければ相当な距離を迂回せざるを得ない箇所、船舶等でしか渡れない箇所などが思い浮かぶ。水路を跨ぐ橋梁であれば、桁下高さが抑えられているので、水路に入り這いつくばらなければ本体を見ることが出来ないのは当然の理屈である。長大橋でも小橋梁でも点検する箇所は異なってはいるが、維持管理する考え方は同じであること、同じでなければいけないことを肝に銘じてほしい。小橋梁をないがしろするとしっぺ返しを受けますよ。管理困難橋としたのは貴方なのだから。

少し隙間を設ける気配りの大切さ

 ここで、なかなか馴染みのない北欧、デンマークの道路橋の話を少ししよう。
 デンマークの道路橋、グレートベルト・リンク(Storebæltsforbindelsen)の吊り橋について第一に説明しよう。明石大橋完成の前年に完成させ世界一となるはずであった有名なグレートベルト・イーストブリッジ(Østbroen  1998年建設、橋長:6,790m、最大支間長:1,624m)の吊り橋・鋼箱桁の中には、近年話題となる桁内の腐食を抑える目的で桁内除湿装置(写真-11参照)が取りつけてある。この装置は日本に学び、本州四国連絡橋を参考にして取り付けたと聞いている。また、重要な支承には、その移動量と変位を測定する装置(写真-12参照)も付けられている。支承移動量等のチェックが重要であることは国内外共通なのだ。私がここで紹介したいのは、グレートベルト・イーストブリッジの除湿装置やモニタリングシステムのことではない。グレートベルト・イーストブリッジの海上部に設けられたアンカレッジ、テニスコートのような平面上に設置されている落下防止柵の一寸した工夫なのだ。


 写真-13でお分かりのように、材料は腐食を想定してステンレス鋼材を使っているが、海上であること、飛来塩分や飛沫が降り注ぐことなどからコンクリート面から少し隙間を空けた構造になっている。この気の配りが素晴らしい。長く使うには、細やかな配慮が必要であることを教えられる。見逃しそうな小さな配慮を見ると、他の種々な箇所、例えば、アンカレッジのケーブル定着部や鋼床版の閉リブ溶接部、機械式点検装置など数えきれない。

維持管理に必要なのは「空間の確保」
 忘れ去られた「扉」の意味

 次に、同じ写真-14でお分かりのように美しい景観を創り出すデンマークの斜張橋・ファロー橋(FARO BRIDGE 1985年建設、橋長:1,726m、最大支間長:290m)は、先のグレートベルト・イーストブリッジより13年前、同様な桁内除湿装置が設置され、桁内湿度が40%に保たれている著名な長大橋である。私はデンマークの道路橋を紹介するのが今回の趣旨ではない。今から32年も前に建設されたファロー橋には、橋台に写真-15に示すようにメンテナンス用の扉があり、中に入ることが可能となっている。ヨーロッパを初めとして、世界で活躍する北欧の橋梁技術者の技術者魂、橋梁設計だけではなく、メンテナンスにも世界に誇れる技術の原点はここにあるのだ。重要なポイントは、現地(現場)に行って起こっている現象等を見なければならないこと、維持管理にはそれを行うための必要な空間確保が必要なことは橋梁技術者であれば常識だ、そして、その扉を開けることこそがメンテナンス(維持管理)の扉を開けることにつながる。北欧の橋梁を見るたびに私は感じる優れた技術者魂を。
 一方、日本の事例、河川を跨ぐ道路橋(写真-16参照)にも、特殊構造であること、将来のPC緊張力や定着装置等の確認のために写真-17に示すようにメンテナンス用扉が設置されている。素晴らしい、先の北欧の技術者に引けを取らない。しかし、肝心の管理者がその趣旨を正しく理解していなかったのか、何の扉かも理解しておらず、扉開けて中に入った経験が全く無いようであった。私が現地で聞いても、何の扉か、何の目的で設置された扉かも全く説明がなかった。とても、残念でもあり、これでは国内のメンテナンス(維持管理)扉が開くことは永遠にないと痛感した。これには後日談がある。実はここに紹介した扉を開けて橋台の中に入ると、その内部には、当該橋梁の設計図書一式が保管されているらしい。保管環境は、先のデンマークの橋梁のように除湿されていることも無く、私が見る範囲では塵埃が被った状態であったこと(後に写真で見た)は、これら貴重な設計・竣工図書の将来どのようになるのか不安を覚えた。

 維持管理が重要だ、維持管理に必要なツール開発に熱を入れるのは分かりますが、もっと重要なことを忘れてはいませんか? 現場に行きましょう、汗をかきましょう、汚れましょう、真の維持管理・メンテナンスを行うために。この状態が続く限り『メンテナンスの扉』が開くことはありませんよ! 日本には。読者の皆さん分かっていますか!?
(次回は11月1日に掲載予定です)

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