道路構造物ジャーナルNET

画像やレーザーを活用した橋梁点検とモニタリング手法の提案

国際航業株式会社
技術サービス本部 社会インフラ部
橋梁マネジメントグループ

伊礼 貴幸

公開日:2017.07.01

3 各手法の詳細な内容と実証結果

 前章で紹介した3つの技術を適用した点検手法について実証試験を行った。以下にその手法の詳細と実証結果について報告する。

(1) 正射投影画像によるRC床版のひび割れ点検の合理化
 本技術は、RC床版下面を分割撮影した高解像度の画像と、対象面に設置した標定点をもとに正射投影画像に合成・正規化し、ひび割れを判読するものである。
〔実験対象橋梁〕
・橋種:3径間鋼単純鈑桁橋(橋長88.0m)
・主桁本数:5本
・桁下の地上部から床版までの距離:約5m
〔点検の手順〕
 撮影からモニタリングまでの手順は、図3のとおりである。以下に手順に沿って手法の詳細と実証の評価を説明する。

①撮影
 撮影は、市販の一眼レフカメラと単焦点レンズ、LEDライトを用いて行う。画像の合成や正規化のために、3次元座標をもつ4点の標定点を照射する装置を併用し、カメラと同期をとって撮影する。なお、我々の事前の試験では、高精度の画像を取得するため、(3m×5m)程度のRC床版1パネルでは4分割撮影を行えば良いと判断している。

②正規化処理
 撮影された画像データと4点の標定点から先ず画像合成を行い、その後、床版を直下から見た正射投影画像に変換する(図4 参照)。

③ひび割れ判読
 正射投影画像データからひびわれ形状や幅を判読し、ひび割れデータを取得する(図5 参照)。なお、図でも分るように0.1mmのひび割れ幅まで確認可能であった。

④分布図の作成
 床版1パネルごとに判読したひびわれの分布データをRC床版の全容が見える平面上に整理しシステムに格納する。システムでは、任意の1パネルを抽出し拡大表記できるような仕様とすればよい(図6は、弊社の地理情報システムに格納した例)

⑤ひび割れ進度解析
 今回取得したひび割れデータは、所定の平面に投影された座標付きのベクトルテータである。そのため、点検時期や撮影ポイントが違ったとしても同一平面上でかつ同一縮尺で重ねて比較検証できる。よってひび割れの幅や分布状態の変化を把握でき、また、任意メッシュのひび割れ分布率のような数値パラメーターとしても管理可能である。今後、撮影者の技能や撮影ポイントのずれの影響度を検証する予定である。
 実証試験で得られた知見は、表1のとおりである。

(2) スマートグラス(AR)を用いたリモート点検
 本技術は、弊社で開発した双方向の音声・画像通信システムによって、スマートグラスを通じて点検作業者と専門技術者のリアルタイムなコミュニケーションを支援するものである。点検作業者から送られてくる点検箇所のカメラ画像、それを見た専門技術者がその画像上に指示する図やテキストデータ、会話の音声データがドキュメントとして記録できるのが特徴である。
 実証試験を行った橋梁は、橋脚の高さが20mを超えており、橋梁点検車では橋脚のすべての範囲を近接目視することができない。よって、本技術を活用したロープアクセスによる点検を実施した(写真5 参照)。

実証試験で得られた知見は、表2のとおりである。

(3) レーザースキャナを活用した復元図の作成
 本技術は、地上レーザースキャナにより3次元点群データを取得し、その点群データをモデル化して図面復元の効率化を図るものである。通常、復元図を作成する際には、人が各部位に近づいて計測を行うが、本技術ではレーザースキャナの据付位置を移動して計測することにより、短時間で橋梁形状の点群データを取得することができる。実証試験は、床版ひび割れの計測を行った橋梁を用いた。
表1に「定期点検時」「補修設計時」「耐震補強設計時」の3つの用途別の3段階レベルの復元図作成要領を整理した。また、参考例としてレベル3のサンプル画像を図9示す。

実証試験で得られた知見は、表4のとおりである。

4 おわりに

 「正射投影画像によるRC床版のひび割れ点検の合理化」「スマートグラスを用いたリモート点検」「レーザースキャナを活用した復元図の作成」の点検合理化のための3つの新たな手法を提言し、その実証結果を報告した。これまでの課題であった点検作業のコストダウンや点検内容の品質向上さらに作業環境の改善に大きく寄与できたと考えている。特に、床版においては、今後の点検方法やモニタリングの新たな方向性を見出せたと思う。
 なお、実証試験を通して得られた手法別の課題は以下のとおりであり、今後の技術開発の大きなテーマとしたい。

①正射投影画像によるRC床版のひび割れ点検の合理化
 船上などの現場条件でも確実に画像データを取得可能にすることや、ひびわれの自動判読の実現
②スマートグラスを用いたリモート点検
 点検者の位置特定やスマートグラス通信環境の安定性確保
③レーザースキャナを活用した復元図の作成
 作成手法の改善によるコストダウンや計測データのみを格納し必要に応じて画像化するツールの開発など

 おわりに「正射投影画像によるRC床版のひび割れ点検の合理化」「レーザースキャナを活用した復元図の作成」の実証試験では富山市建設部の方々に、「スマートグラスを用いたリモート点検」では国土交通省中部地方整備局沼津河川国道の方々に多大なるご協力とご評価やご助言を頂いた。紙面をお借りして深く感謝したい。

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