土木研究所集中連載③
既設橋の液状化被害を防ぐための橋梁基礎の耐震性能評価方法と耐震対策技術の開発
国立研究開発法人 土木研究所
構造物メンテナンス研究センター(CAESAR)
橋梁構造研究グループ
上席研究員(管理システム・下部構造担当)
七澤 利明 氏
共著者
同上席研究員(補修技術・耐震技術担当)
大住 道生 氏
1.はじめに
液状化が生じる地盤上にある既設橋の中には、大地震によって重大な被害が生じるおそれのある橋がある。この様な橋を合理的な評価手法を用いて抽出し、効率的に耐震対策を進めていく方法を構築することは、道路ネットワークをレジリエント(強靱)なものにするために重要である。
このため土木研究所構造物メンテナンス研究センター(CAESAR)では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つである「レジリエントな防災・減災機能の強化」に位置づけられた、液状化地盤における橋梁基礎の耐震性能評価手法と耐震対策技術の開発を平成26年度から開始している1)。本稿では研究項目とこれまでの検討状況、実施体制について紹介する。
2.研究項目
2.1 液状化地盤における基礎の地震時挙動の解明と橋の耐震性能評価技術の開発
これまでの震災経験等に基づき、橋の耐震性能(地震後の橋としての安全性や通行機能)に大きな影響を与える液状化による被災形態を明らかにするとともに、大型模型の振動実験等を行い、耐震性能評価手法を構築していく際のベンチマークデータを得ていく。また、被災事例や振動実験の再現解析による検証等を経て、液状化地盤における橋の耐震性能評価手法を開発していく。
(1)既往の大地震における被災事例の分析
既往の大地震において液状化が生じた地盤における橋の被災事例(38 事例)を抽出して被災状況を分析することにより、橋の耐震性能に影響を与える被災形態を次の3つに分類している2)。
①液状化に伴う側方移動が影響して生じた橋脚や橋台の損傷
②液状化が影響して生じた橋脚や橋台の沈下や傾斜
③液状化による橋台背面の沈下
本研究ではこれらの被災形態のうち、通行機能に支障を生じるような被災事例が比較的多く、かつ、既往の研究事例が少ない①の橋台の被害を検討対象として最初に取り上げ、実験や解析による検討等を行っている。
(2)大型模型による振動実験
液状化時の地盤流動、古い基礎の地震時挙動等を検証することを目的として、土木研究所の三次元大型振動台(写真-1)を用いた液状化地盤上の橋台に対する振動実験を実施した。
これまでに適用基準および背面盛土形状をパラメータとして表-1に示す3 ケースの実験を行った。ここでは、旧基準5)(Case1)および現行基準6)(Case3)の2 ケースの結果について紹介する。なお、Case2 についてはCase1 と類似した結果となっている。図-1は、振動実験に用いた模型の概要を示したものであり、模型の縮尺は1/10 である。いずれも橋台高さ8m、液状化層厚10m を想定して模型を設計した。入力地震動については、橋軸方向の水平一方向に入力することとし、道路橋示方書6)におけるレベル2 タイプI 地震動の動的解析用時刻歴波形の中から、事前解析結果で最も大きな変状が生じた地震動(I-I-3:新晩翠橋)を選定した7)。
Case1 における加振後の模型地盤の変形状況を写真-2に示す。橋台背面ではあまり変形が生じず、前面で大きな変形が生じていることがわかる。また、Case1 における地盤内(図-1中の赤丸位置)の過剰間隙水圧比および振動台加速度の時刻歴を図-2に示す。前面地盤では約35 秒で過剰間隙水圧比が1.0 に達したのに対し、橋台背面の液状化層の過剰間隙水圧比は最大でも0.35 程度であり、前述の地盤の変形状況と整合している。杭頭の曲げひずみは、前面地盤に液状化が生じた35 秒付近より大きく変化した。その前後で比較的大きなピークを示した時刻として、旧基準(Case1)では加振開始後33.29秒および38.20 秒、現行基準(Case3)では33.00 秒および38.22 秒における模型杭の曲げひずみ分布を、また橋台に生じる変位と背面土圧の大きさを示す模式図を図-3に示す。旧基準の基礎では著しい塑性化に相当するひずみが発生する一方、現行基準での発生ひずみは限定的であった。また、橋台と桁との遊間量の違いも杭の塑性化の程度や曲げひずみの分布形状に影響することを確認した。この様に、橋台基礎の耐震性評価や補強の検討に際しては、基礎本体の抵抗力だけでなく遊間の影響を考慮する必要があることが判明した。
(3)解析技術の開発
実際の被災事例や(2)の振動実験等に対して再現性を有する液状化地盤における基礎の解析技術を構築することを目的として、東京工業大学高橋章浩教授との共同研究を実施している。現在、橋台および地盤をソリッド要素、杭をはり要素とした三次元有限要素モデルによる動的解析にて検討を実施している。図-4に(2)のCase3 の背面地盤位置における時刻歴加速度波形を実験値と解析値で比較した結果および液状化が生じた後(加振開始から40 秒後)の変形図を示す。今後、さらなる実験結果等に対する検証を経て、精度の高い評価技術を構築していく予定である。また、道路橋の設計実務への適用を考慮した簡易な解析モデルの開発についても併せて進めていく。
2.2 液状化地盤における基礎の耐震対策技術の開発
液状化地盤における基礎の地震時挙動や被害の生じるメカニズムを踏まえ、さらに供用中の道路橋であるという施工上の制約条件をも考慮した上で、基礎に対する合理的な耐震対策技術について検討する。そして、動的遠心力載荷試験や大型模型の振動実験による検証結果を踏まえ、対策技術とその評価手法の開発を行っていく。
(1)基礎の補強工法・構造の提案
これまでに、鋼管杭・鋼矢板技術協会(JASPP)との共同研究により、基礎の地震時挙動や被害の生じるメカニズムに対する有効性、補強工事に際しての交通阻害の回避(既設橋であるため)、桁下空間など狭隘な施工ヤードに対する施工機械の適用性等の観点から実現可能な工法・構造を検討した。その結果、次に示す3工法を検討対象とした(図-5)。
①鋼管矢板壁による補強工法(側面に設置してフーチングと一体化)
②斜杭による補強工法(側面に設置してフーチングと一体化)
③鋼管矢板壁による補強工法(前面に設置してフーチングと分離)
(2)対策技術に関する動的遠心力載荷試験
既往の地震における橋台基礎被災事例の分析9)によると、図-6に示すように橋台高さや液状化層厚が大きくなるほどランク3、4といった供用性に影響を及ぼす大きな被害が生じる傾向があることから、これらを実験パラメータとした。また、対策工法の有無や準拠基準の違いもパラメータとして、合計12ケースの動的遠心力載荷試験を実施した(表-2)。実験は土木研究所が所有する大型動的遠心力載荷試験装置を用いて実施し、入力地震動や実験供試体の構成(橋台躯体、基礎、上部構造)、盛土形状や液状化層の地盤材料等は2.1(2)で示した実験と同様である。実験に用いた模型の縮尺は1/60 である。
ここでは、橋台高さ12m、液状化層厚10m の無対策(Case8)および補強3 工法(Case9~11)の実験結果を比較して示す。図-7は杭頭曲げひずみおよび地盤内(図-7中の赤丸位置)の過剰間隙水圧比の時刻歴である。各実験結果を比較すると、液状化が発生した際の杭の曲げひずみ抑制等の観点から、Case11 の鋼管矢板壁(側面一体型)による補強の効果が相対的に高いことがわかる。
今後、2.1に示す大型振動台や2.3に示すE-ディフェンスでの検証実験を行い、地震後に求められる性能や施工性なども考慮したうえで、補強工法・構造を確立していく予定である。
2.3 E-ディフェンスを活用した検証
2.2で示す遠心力載荷実験では、1/60 縮尺の模型であり、実験時の観察、データ計測量に限界があることから、液状化~基礎の挙動の関係を詳細に把握できないという課題がある。また、2.1で示す土木研究所が所有する三次元大型振動台を用いた振動実験では、1/10 縮尺の模型であり、実橋に即した基礎構造の模型化が困難であることから、基礎が塑性化した後の地震時挙動の検証ができないという課題がある。このため、実橋に即した基礎構造を約1/4 縮尺で模型化し、基礎の塑性化後の挙動も含めた液状化~基礎の挙動を明らかにするために、代表的な地盤条件および補強条件に対して、防災科学技術研究所が所有する実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)(写真-3)を用いた大規模実証実験を行う予定である(平成29 年度に実施予定)。