道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑨

「コンクリート構造物の品質確保の手引き(一般構造物編)の制定 -走りながら考える-」

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.06.01

2. 走りながら考える

 筆者らの品質確保の取組みの原点である、山口県のひび割れ抑制システムの創始者である二宮 純氏は、2016年3月に博士論文「地方自治体が建設するコンクリート構造物の品質確保システムの構築に関する研究」を取りまとめ、博士号を取得された(審査委員会の主査は筆者)。まさに、山口県の取組みの端緒から将来への課題までをすべて含む内容となった。その第5章は「システムの説明手法」と題され、山口システムの特徴を説明するときに二宮氏が用いた比喩がいくつか紹介されている。その一つが、「歩きながら考える」である。以下に、二宮氏の博士論文の5.2「比喩の活用」の5.2.1「歩きながら考える」を引用する。

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「歩きながら考える」
「イギリス人は歩きながら考える。フランス人は考えた後で走り出す。そしてスペイン人は、走ってしまった後で考える。」という言い習わしは、笠信太郎の著書で、国際連盟事務局長を務めたスペインの外交官マドリーヤーの言葉として紹介されている2)。
 これを参考にして、本県のシステムの進め方は「歩きながら考える」タイプであると説明している。
 ひび割れ抑制システムは、第2章で述べた2005年度の試験施工と、第3章で述べたひび割れ抑制対策システムの2006年度の運用試行から得られた検証結果によって抑制対策を決定し、運用を開始した。検証に用いたデータ数は十分とは言えないが、暫定的に定めた対策により運用を開始し、引き続き実構造物の施工データを収集・検証することによって対策を見直していく、「運用しながら(歩きながら)抑制対策を見直していく(考える)」ことを採用した。
 地方自治体が何らかの課題について対策を構築して実施する場合、検証にもっと時間をかけて、長期間見直しが不要な対策を確立してから運用を開始することが一般的であり、これは「考えた後で走り出す」に当てはまる。地方自治体の業務では多くの場合、この進め方が適切であるが、このシステムでは採用しなかった。
 実構造物の施工で抑制対策を検証する試験施工の効果として、施工由来のひび割れが減少し、協働意識が醸成できるという効果が得られた。運用すること(歩くこと)で得られる効果が高く、その効果を県内全域に広げるために、暫定的な対策によって運用を開始すること、いわば「およそ正しい方向に歩きながら考え、方向を見直していく」ことを選んだ。
 本県においては、コンクリート構造物にひび割れが発生すると、責任の所在は混沌としたまま、施工者がほとんどのケースで調査・補修を負担しており、施工者に不満や不信感が高まっていた。これは、発注者が「考えてから走る」ことができず、「考えがまとまらないので走れない」という状況に陥っていたと言える。
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 復興道路では、「およそ正しい方向である」と関係者が同意して、「走り出した」。「歩きながら」というよりは、「走りながら」が実感に近い。何もしないよりは、品質が少しでも向上し、大切なインフラの耐久性が向上することにつながるであろうと考え、現場で品質確保、耐久性確保の取組みを実践してきた。
 特に、東北地整の道路工事課長であった佐藤和徳氏が南三陸国道事務所長に赴任してからは、南三陸国道事務所管内を中心に、品質確保、耐久性確保の取組みが大々的に実践された。取組みの方向性が正しいであろうことは、多くの関係者が感じていたであろう。施工者も数々の工夫を行い、多くの産官学協働の勉強会で知見が共有された。そして、2015年度の後半に入る直前に、いずれ必要になることは分かっていた、品質確保、耐久性確保の規準類の策定に着手することとなった。決断したのは、佐藤和徳氏であった。

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