道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑬「有事に機能する真の技術者集団とは―現場で得る知識は100の技術書を読むより有益―」

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2016.05.01

はじめに

 地震に関心のある技術者であればお分かりと思うが、地震予知レベルの低い九州を恐れていた大地震が襲った。未だおさまらない平成28年(2016年)熊本地震である。地震は、4月14日午後9時26分頃熊本県熊本地方、震源の深さ約12km、モーメントマグニチュード6.2の規模で発生、熊本県益城町等において気象庁震度階7を観測した。地震発生を自宅のテレビで知り、「椅子から転げ落ちる」ほど(残念ながら椅子には座っていなかったが)の衝撃が我が身を走った。

 なぜか?実は2年前(2014年1月31日)に機会があって九州・福岡で講演した際に「皆様の多くは、九州地方に桜島や霧島などの噴火を繰り返す火山があり、噴火による災害対応は想定内と断言されると思います。しかし、多くの方々は大地震発生の確率が低いと考えているのでは、本当に大地震は起こらないのでしょうか、私は心配です」。
 続けて「私は地震学者ではないので、大地震発生の根拠はと聞かれると困ってしまいますが、これから数年以内に大きな地震が福岡地方の下、熊本、大分あたりで起こる可能性が高いと思っています。このパワーポイントを見てください。今後の九州においては、地震を対象とした防災・減災、耐震対策、危機管理が必要なのでは」とリスク回避と安全確保について(副題)講演していたからである。
 私は、地震を予知した訳でなく、当時発災レベルの低い関西に兵庫県南部地震が襲った時に多くの人々が受けた衝撃を九州の人々にも伝えたかっただけである。特に関西地方には大地震は起こらない(私が一部の人から聞き誤解していたのかもしれないが)と信じていて生活していた神戸に大地震が襲い、その破壊力が想像を超えるほど凄かったからである。と言うのも私が発災後直ぐに大坂に調査で入ったからである。武庫川、西宮、ポートアイランド、長田での体験はそれまでの地震による被災の考えを180°転換する惨状であった。密集する市街地で大地震が発生するとはどのように恐ろしい事なのかを目のあたりにし、膝が震えた。今でも忘れることができない悲惨な街の状況、あれほど強いと考えていた鋼桁や鋼製橋脚が、実験室で破壊試験作業を行っているかのように飴のように大変形し、形をなしていない状況であった。埋め立て地の港湾区域においては、橋梁等の構造物の前後は大きく沈下し、いたるところで噴砂した砂が盛り上がり液状化現象のすごさ、忘れられない場面が多々ある。その衝撃的な事態を回避するためにリスクマネジメントの有効性を説き、大地震が発災しないと思っている九州の人(このような事態を生んだのは我々技術者の責任であるかもしれない。
 その根拠は、道路橋示方書・同解説では、地震活動度の地域特性として地域別補正係数が熊本県熊本市等は平成24年においても0.85と東京や大阪の1.0を低減している。先に示した道路橋示方書・同解説には、6つの観点から検討を加えたとの表現で、工学的に実用性のある地震活動度の地域特性として、①資料に含まれる地震諸元の精度、②地域ごとに得られる情報の均質性、③資料の数量、④マグニチュードの震央距離から、最大地震動を求める計算式の妥当性、⑤得られた最大地震動の値の頻度分布から、任意の再現期間に対する最大地震動を予測する方法の妥当性、⑥結果の表現方法の妥当性と記述し、ある期間に対象地域において、どの程度の地震がどれくらいの頻度で平均的に発生するかを表現する量が地震活動度・・・としている。)に、危機管理を直ぐにと考え話した事が現実となったからである。
 熊本地震の特徴は、前震(私は初めてこの言葉を聞いたが、気象庁は以前にも同様な表現を使ったようである)が4月14日熊本市益城町の限られた範囲での強震(益城町役場:6.6)、本震が4月16日熊本県及び大分県の非常に広範囲にわたる強震(益城町役場:6.7)と前震から2週間が経過した今でも終息が見えない強い余震であろう。


写真1 益城町惣領近く、県道28号沿いの倒壊した家屋(井手迫瑞樹撮影)

 今回私の話題提供は、地震等自然災害に関連する技術者についてである。私の限られた経験の中でお話しすることから、個人的な考えと願いが主となるため、これから示す内容に異論をお持ちの方がいられると思うが、ご容赦願いたい。
 まずは、行政に関係する人々の多くが耳にタコができるほど言われている「危機管理」についてである。

1.危機管理とは?

 私が危機管理について社会基盤施設を対象として考えると、図-2にも示すように平時のリスク管理と有事のリスク管理を総称してリスクマネジメントと考え、その一つとして話すことが多い。しかし一般的には、危機(Crisis)とは、既に起きた事象や事故を指し、危機管理とは起こった危機に対して、我々が受けるダメージを可能な限り減らそうとする施策、行動などであり、どちらかと言うと受動的である。自然災害発災時などの危機に対する行政側の対応を問う時は、危機管理体制はどうなっているのか、発災時の対応が悪いと危機管理意識に欠けていると世間からキツイお叱りを受けることになる。同様な表現にリスク(Risk)があり、危機・クライシスとは区別している場合もある。リスクとは、危機と異なって未だ発生していないダメージ、例えば、身体的、財政的な損失や危険等を指している。リスクマネジメントと言う言葉が巷には溢れているように感じるが、これは、これから発生するリスクに対し、ダメージを最小限、若しくは損失を受け無いように予測し、それらに計画的に対応する能動的な施策、行動等である。
 私がいつも話している図に示したリスクマネジメントに戻るが、平時のリスクはリスクの発生確率と影響度によって分類し、対応処置としては、リスクが大きく影響度が計り知れない場合は、リスクを削減するようにマネジメントする。リスクが大きくても他に移したり(例えば、保険をかけるなど)、受ける対象から逃げることが可能であればリスクを移転したり、回避するようにマネジメントすることとなる。また、リスクが小さく、影響度も受容範囲内であれば保有する、要は影響もほとんどないからキャパシティの範囲内と理解し、起こりうる事象を考えないとすることである。以上のように平時のリスクマネジメントを解説している。
 さて有事のリスク、災害や事故が起こった時に行政の対応を問われる危機管理である。有事のリスク管理には、エマージェンシープラン(Emergency Plan)、コンティンジェンシープラン(Contingency Plan)、リカバリープラン(Recovery Plan)の3つに分けられる。
 エマージェンシープランとは、災害時の人命救助等に必要な緊急連絡網や対応表などの計画を策定することである。コンティンジェンシープランとは、災害や事故などが発生した場合に起こる予期されない出来事に対し、備えて取るべき行動計画を策定することである。最後のリカバリープランとは、災害が発生した後にどのように原状回復するかの計画を事前に策定することである。有事のリスク管理には、ハザードマップなどが有効に機能することになるが、直近の被災事例と対応を見ると確立されているとは言えない。社会基盤施設を対象とする有事のリスク管理には、自然災害だけでなく、管理瑕疵となる事故や建設時に発生する事故(建設中の事故が発生、対応を問われているが)の対応も含まれる。今回九州を襲った熊本地震に対する有事のリスク管理は、十分であると言えるであろうか?自宅から避難勧告を受けて行政が指定した避難場所に移った人々に対し、避難場所が危険な状態に陥ったと説明され、雨の降りしきる中移動せざるを得なくなった事実や、何度となく避難訓練をシミュレーションし、十分に機能すると信じていた道路網や鉄道網の破綻は行政技術者の甘えが露呈したのではないだろうか?茨城県常総市の有事の際の避難場所である市役所水没も同様であり、熊本地震でその経験が活かされたのか。多くの住民は、以前説明されたハザードマップ、避難訓練・・・は何だったのか、行政は信頼できないと思い始めたのでは。
 また、多くの構造物が2度以上の強い揺れで破壊したが、平時のリスク管理は十分であったであろうか?以前から一部の学者がこの事に対し何度も注意喚起していたことに聞く耳を持たなかった結果がこのような事実を生んだと私は理解しているが。一般的な構造物は、地震によって損傷(外観では見えない損傷でも)すると固有周期等が変化し、2度目の地震で大きく損壊することは種々な実験で明らかにされている。例えば、一般的な道路橋の場合、健全であれば固有周期が0.5秒前後であるが、地震によって損傷すると2~3倍程度となり、その後発生する地震動が対象構造物の固有周期と合致すると最悪倒壊する事態となる。熊本地震では高速道路を跨ぐ橋梁が倒壊し、道路を塞ぐ状態となった。


写真2 高速道路を塞いでしまった跨道橋(編集部判断挿入:幸佐賢ニ・九州工業大学教授提供)

 平成8年度以降全国的に進めてきた国の施策では、跨線橋・跨道橋に対する耐震補強が最も重要で最優先と分類されていたはずであり、倒壊した跨道橋も既に耐震補強が終わっていたのではないのか?もし、耐震補強が終わっていたのであれば、これはまた別の議論になるし、どちらにしても大きな問題である。東北地方太平洋沖地震では、津波による被害が大きく報道され、2度目の地震によって被災した構造物の話題(2度目の地震で被災した構造物があった)は少なかったと記憶するが、ひょっとしたらその時既に熊本地震における最悪の被災状況を天の声が警告していたのかもしれない。熊本地震については、これから多くの技術者が種々な立場で検証を行うことになるが、次の大地震への有益な警告を発し、今回のような事態を回避してくれるものと期待をしている。しかし、私は、心の隅に熱しやすく冷めやすい日本人の体質を再び問われる最悪の事態となるのではと危惧もしている。
 次に、発災後に行う災害復旧における技術者の能力について話題を提供する。

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