道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑪「想像力と博打根性」

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2016.03.01

2.ユニークなアイディアとアピール力

 もう一つの事例は、木製横断抑止柵に関係する事例である。近年、間伐材を使用する道路附属物等の事例は多種多様である。私が紹介するのは英国大使館前の内堀通りを主としたエリアに間伐材を使った横断抑止柵を設置した事例である。話の始まりは、『電線類地中化(今や多くが目玉事業となっている?スタートの時期)と連携して環境対策の一環で新たに打ち出せるアイディアは無いのか?髙木君』との幹部からの要望への対応から始まった。地球環境に優しい、材料を造る際に二酸化炭素を出さない、多くの人々から賛同を受けやすい・・・そのような物が何処にあるのか。今日のようにテキストマイニングでもあれば楽であったかもしれないが、当時にはそのような便利な機器はない。何かないかと数年間の一般紙及び専門紙の新聞や関連しそうな雑誌を見ていて「多摩産材」に関連する記事、『間伐された樹木の処理に困っている』と書かれている、これだ!と閃いた。牧場や公園で使われている木製の柵をイメージし、一寸加工させえすれば道路に使っている抑止柵(ガードパイプ)の代用品として使えるのではないか、遊具としても使っているので利用者の抵抗感はない。思いついたらすぐ行動、多摩の木材組合に急場で創った「間伐材横断抑止柵製造・設置構想」を持ってヒヤリング。組合長は冷たく、『材料はあるけど加工がね~、間伐材あるけど山から降ろすのにも金がかかるし、多くの需要があれば対応できるけど無理かな・・・折角お見えになったのだから組合の中で相談しますよ』とのそっけない返事。
 ヒヤリング後1週間待っても組合長から全く返事が無いのでこれは無駄だったか、他の案を考えようと取り組み始めた時に『髙木さん、間伐材の件、何とか協力できそうですよ』との明るい返事、そこからが「思いつき」以上に大変なことになった。形はイメージできたが、第一に間伐材を使う横断抑止策をPRできる最適な場所があるか、第二に間伐材を使った横断抑止柵が必要とする強度と耐久性があるかである。
 まずは、行政マンが考えなくてはならない第一の必要事項、PR効果の高い設置場所があるのかである。新聞記者、テレビ等報道が食いつく場所を考えると、都心、それも多くの人が注目する場所が何処かである。
 あった!最適な場所が、英国大使館前の内堀通りである。春は「桜」と「英国大使館」、皇居一周マラソンコース、千代田区の公園が目の前にあり「半蔵門」にも近い、国道や千代田区との連携もできる私の考えを活かす最適な場所である。現地を見に行って「これは駄目かも」その理由は、既にデザイン性高い特殊な抑止柵、街路灯等が設置してある。現地には、“皇居周辺道路景観整備計画・中村良夫教授委員長”で審議し、国、東京都と千代田区が連携して行った事業による、とPRプレートまで設置してある。
 最悪だ。しかし、ここで諦めては今までの苦労を無にする、元も子もない。景観整備計画委員会の委員長であった中村先生(当時・東京工業大学教授)、委員の篠原修先生(当時・東京大学教授)に直接会って直談判、当初は難色を示されたが私の熱意?に負けたのか、一か月間を要して『髙木さん試験的に一部ならどうぞ、でもデザイン性に優れた形状を』との回答を取り付けた。以前から篠原先生と何度か委員会でお会いしていて、自分で勝手に懇意であると思い込んだ結果の勝利とも言える。
 次に、強度と耐久性である。木製の施設寿命を延ばす含浸タイプの無害防腐液剤の調査と選定、間伐材の中を刳り抜いて鉄製の心材を入れる案を種々な資料を基に提案し、ようやっと第二の課題処理を終えた。
 その後、新宿・幡ヶ谷にある篠原先生グループの南雲勝志さん(南雲デザイン事務所)に、またまた直接アポイントをとり最短での横断抑止柵デザインを強力に依頼、強引ではあったがようやく間伐材を使った薄茶色の横断抑止柵(外形からは心材があると思えないように加工)デビューとなった。
 要は、与えられた課題に対して如何に自分の知識、経験を活かしてアイディア化ができるかが、そしてそれを強く推す勇気があるのかが勝負である。代数幾何学で世界的に著名な数学者・広中平祐先生の言葉に「ユニークなアイディア・独創のコツ」がある。それは、「第一には結果はどう出るか分からないにコツコツと努力すること。第二にはここぞという時に打って出ていく勇気、博打根性といってもよい、この二つが無いとせっかく持っている力も出し切れない」と技術者を諭している。ICT化が進み、全てが自動化となり機械に人が使われる時代になる、そうではない。機械やコンピューターには人のような想像力、博打根性を持ち合わせていない。ここに示した想像力、そしてアピールする勇気がこれからの技術者に必要である。

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