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中日本高速道路リレー連載⑦

高速道路トンネルでの大規模な修繕計画

中日本高速道路㈱ 
構造技術・支援部  トンネル担当主幹

中田 雅博 氏

公開日:2016.01.16

2.1.2 風化しやすい地山
 修繕の対象となるのは、「風化しやすい岩」で構成されている地山である。本ジャーナル「土工編」の中で紹介されている平成21年8月の駿河湾沖地震で崩壊した東名高速道路牧之原地区の盛土も、「脆弱化しやすい泥岩」が素因であったと指摘されている。
 「風化しやすい岩」について経験から少し説明を加える。
 私は、平成2年に山形道の一期線トンネル現場で、工事中という短期間に地山が塑性化し施工したばかりのインバートが隆起した。岩は風化するというより「水に溶ける石」と表現した方が見た感覚と一致する。
 その後平成15年頃、NHK番組「プロジェクトX~挑戦者たち~」のシリーズの一つとして、「名神高速道路 日本初のハイウェー 勝負は天王山」が放映された。その取材段階で、NHKから「天王山トンネルの溶ける石とは、どの様な石なのか見たい」との問い合わせを受けた。たまたま私が担当したトンネルの二本目(二期線)の工事が建設中であったので、「岩片を水槽に浸し一瞬にして溶ける現象をビデオに収められないか」と現場にお願いし、現場の方々の協力を得てビデオがNHKに送られた。まさに、水槽に岩片を浸けるとほぼ一瞬にして崩れ水に溶けていく石であった。このトンネルは、インバートが設置されている区間にも関わらず、開通後18年目に10日間で38㌢の急激な路面隆起が生じた。通常は年に数㍉~数十㍉の速度で隆起するので、このように急激な隆起は極めて異例のことであった。
 トンネルは掘削し空間を造ることで、地山は緩み岩盤の亀裂は開き、地下水に導水勾配が生じる。そして地下水の浸透を受け劣化が始まり、時間の経過とともに劣化と強度の低下が進み地山の変位がトンネルに変状として現れてくる。図-63)は、浸水による含水比の増加を示している。このケースでは2000時間(約3か月)程度で含水比が上昇し始めている。これでも相当早い変化であろうと思われ、自然界では「溶ける石」の即時のレベルから、もっと緩やかに数年~数十年を掛けて含水比の上昇と強度低下を起こす地山まで極めて変化に富んでいるものと想像される。劣化のし易さを知る試験方法として、乾燥と湿潤を繰り返す促進試験法はあるが、緩やかに劣化が進む地山の程度の評価するのは難しいため、表-1に示すことで劣化の程度に関わらず建設段階で対応することとした。

 風化しやすい岩は全国に分布し、ある地域に特有の岩石、例えば長野北部~新潟にかけての泥岩、北関東から東北地方に掛けての凝灰岩(新第三紀グリーンタフ)などが、それに該当し一般的に見ることができる。

3. 覆工に生じるひび割れ

 修繕計画の具体化の第一歩は、変状の現状や進行性のデータを基に、変状原因の推定と確定、緊急性のある変状か否か、対策工の施工期間や対策工の施工範囲を設定する作業である。 
 これらの作業には、現在の変状状態が記録されている覆工クラックの展開図が基本となる。ひび割れは、詳細点検として5年に一度の頻度で目視と打音による結果をひび割れ展開図(図-7参照)に「ひび割れの幅、長さ、位置や形態」などの情報が、「湧水の状況」、「対策工の履歴」の情報とともに記録されている。また、5年毎のひび割れの状況を比較することでひび割れ等の進展状況が把握できる。
 ひび割れ展開図から必要な情報を読み取り、その後の調査計画に反映する必要がある。その際にトンネルのひび割れについて次のことを考慮しておくことが必要と考える。
(1)原因推定は逆演算
トンネル構造物の変状と原因との関係を図-84)に示す。
この図は、原因と結果を「原因⇒結果」の方向で示されているが、現場で原因推定する作業は、これらの逆で「ひび割れ等」という結果から原因に関して一つの仮説を立て確定する道のりである。通常、原因(素因と誘因)という複数の未知数に対して、方程式は限られている。
 地山を主材料とする構造物は、基本的に地山の位置的・質的不均一性や劣化等の時間依存性に起因して、支保工や覆工に作用する「外力」、それを支える「構造系」(地山自体が主体的な構造系)、「構造部材の材料特性」を一義的に決定することが難しく、「仮説」と「調査」「検証」が必要となる。
(2)覆工のひび割れと劣化のメカニズム
 筆者の経験から、覆工に生じている現象の原因推定に関して、明らかな外力が作用する場合には特徴のあるひび割れパターンが生じる。図-95)は、塑性圧による変状の中でも横方向の力が卓越し側壁部付近の縦断方向に開口したひび割れが生じた状況を示している。このような例は、原因が特定しやすいが、風化や強度の低下が緩やかな場合には、特徴的なひび割れが生じるまでの長い間に、次に述べる初期の欠陥によりひび割れの生じ易い個所に沿って覆工にひび割れが生じる傾向があり、原因推定を難しくすると推測している。
 覆工は通常無筋コンクリート構造であり、鉄筋コンクリート構造物の劣化のメカニズムやプロセスとは異なる。例えば、凍害や地山の劣化はイメージし易いが、温度変化がひび割れの進展に作用するか否かは“覆工背面の拘束の程度(例:NATMの場合は背面の吹付けコンクリート)“とも言われ明らかにされておらず、劣化の外力やその進展プロセス等我々を含めて研究中の課題と認識している。

(3)施工に起因する初期の変状
 建設時点の施工法や施工自体が覆工のひび割れを誘発すると推定されるものが多く、それらによる初期の変状の可能性を念頭に置く必要がある。
 例えば、高速道路トンネルの標準工法は、昭和58年に従来の「矢板工法」から「NATM」に変更となった。図-10が示すように矢板工法では工法の宿命として支保工の裏に、上部の地山の緩みを助長し外力の一つとなりうる空洞が生じやすい。当時の、コンクリートの打込み機械や打ち込み方法により、コールドジョイントや巻厚不足が生じやすい。これは、工法の違いがもたらす変状可能性の違いの典型的な例である。

 覆工コンクリートは、二車線トンネルの横断面方向の周長は20m程度、縦断方向は一般的に10.5㍍と長く、乾燥収縮と背面拘束等によりひび割れが生じる可能性が高く、ひび割れを皆無とすることは容易ではない。仮にひび割れが入った場合でも、構造は多ヒンジのアーチに順次変化する安定した構造である。しかし、図-10に示すように、吹付けコンクリートと覆工の間には、防水シートと吹付けコンクリートによる拘束を減じるアイソレーションシートを設置しているが、ロックボルト頭部や吹付けコンクリート面を含め凸凹しているため、背面の拘束がゼロであるとも言えない。
 さらに、ひび割れ発生を誘発する施工に関連する事項が幾つかある。例えば覆工コンクリート打込みに関する要因を示す。

【ひび割れ発生の要因となりうる事項の例】
・コンクリートは打込み高さ、横移動により材料分離が生じひび割れが生じ易くなる。
・最上部の天端部のコンクリートはバイブレータでの締固めが難しい。
・型枠(セントル)をセットするジャッキアップやジャッキダウンする際に、操作が悪いと特
 定の箇所にひび割れが生じコールドジョイントとなることがある。
・セントル脱型は打込み終了後12~15時間で行い、例えば低温環境下でも所定の強度が確保されていたか、また脱型後の養生環境が十分であったか否かが確認されていない。

 現在、覆工コンクリートの打ち込みには多くの工夫と高い意識と努力がなされているが、依然として注意が必要な工事分野である。
 以上のように、これら工法や施工に起因するひび割れの可能性は、ひび割れのパターンを判別しにくくするので、点検結果から原因推定等を行う際に考慮しておくことが必要と考える。

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