道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑧点検はこれからが勝負

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2015.12.01

項目を埋めればよいというものではない

3.修繕計画策定は良いけれど見失っていませんか大事なことを
 次に修繕計画策定における大きな問題である。事例としてあげる団体は、平成19年度以降に橋梁長寿命化修繕計画策定事業の一環で急遽全橋の点検を実施し一回目の長寿命化修繕計画策定、公表していた。計画公表後、第二回目の定期点検を実施し、公表した計画の見直しを行うとのことである。実にすばらしい、多くの団体の種々な計画を見てはいるが点検結果によって見直しを行うとは私が期待する継続的な作業、PDCAサイクルが回りだしたと大いに期待した。
 しかし、それを担当しているコンサルタントの総合力の欠如に怒りを覚えた。第一回目の対策時期設定は、学会から公表されている劣化予測式(Y=1-aX2を使っていた。今回の対策時期設定には、定期点検を当該団体として2回目を実施したことから団体独自の劣化予測式を算定したとのことであった。劣化予測対象部材は、上部構造の鋼主桁、鉄筋コンクリート床版、鋼床版、鉄筋コンクリート下部工・・・と点検結果を回帰分析する手法で劣化予測式を導いていた。劣化予測式を導き出す考え方としてはオーソドックスで間違いはない。劣化予測が点検結果の精度によるとはいえ、統計分析法による確定的な劣化速度予測を行いたいとの考えは十分理解できる。

 しかし、内容を見て愕然とした。鋼主桁の劣化速度は、以前推定していた結果と比較すると30年以上eランク到達が遅くなったような結果であり、当該団体の維持管理レベルと飛来塩分等から考えると妥当であると感じた。また、鉄筋コンクリート床版については、以前の計画ではeランク到達が55年程度となっていたが、今回の分析結果から70数年と本当にこれが正しければPC床版はどうなるのかと思った。さて、鋼床版である。以前使っていた劣化予測曲線と比較して傾きは急となり、eランク到達年は90年弱から50年と以前の半分近くなっている。鋼主桁が70年でなぜ、鋼床版が50年なのか大きな疑問と同時に何か分析方法がおかしいと感じた。そもそも、当該団体が行っている橋梁関連事業、新設橋梁や架け替え橋梁は、桁下制限等から鋼床版を使う事例が多いし、今後の計画も鋼床版採用の考えであるとのこと。
 と言うことは、寿命の短い鋼床版と分かっていてわざわざ短命の部材採用の矛盾を認めているような結果である。私の疑問に対しコンサルタントの担当者は、「点検した結果をプロットし回帰分析しただけですから・・・何が悪いのですか?」との返答。鋼主桁と同じとは言わないが、同様な劣化曲線が妥当との考えが一般的なはずである。点検した結果によって劣化予測式を算定し、提案する考え方は良い。しかし、同じ周辺及び使用環境で、大型交通量も少ない路線に疲労亀裂は無いことから、なぜ鋼床版のeランク到達が桁より早いのか疑問に感じるのが普通ではないのか。鋼主桁の上フランジである鋼床版の劣化速度と主桁の関係を理解し、疑問を持たない、分からない技術者には呆れ返るばかりである。では何の損傷要素が影響してこのような劣化予測式となったのかと聞くと、「鋼材の腐食、若しくは防食機能の劣化です。」とのこと。「もし問題であるならば、機能を失った塗装を塗り替えれば劣化曲線も緩やかになりますが」との答えであった。これが、橋梁や構造物の設計、維持管理等の知識が無く、勉強中の行政技者を抱える団体に対し、国内有数の一流コンサルタントの専門技術者が行った業務結果かと呆れ果てた。
 要は、近接目視点検を行い、指定された点検項目を埋め、指定された4ランクを決めれば良いとの考え方と修繕計画を策定することが重要でその信ぴょう性や出した結果の影響度の大きさを全く理解しない今日の技術者姿であると感じた。
 国内の種々な社会基盤施設を対象に定期点検が始まり、それも詳細点検に近い近接目視も義務付けて行うことになったのは、大きな転機である。しかし、ここにあげたような事例が国内の多くの団体で起こっているのではないだろうか。技術者の常識や行政側の配慮も分からなくなった民間の専門技術者の姿を見て不安となるのは自分だけであろうか。

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