道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑧点検はこれからが勝負

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2015.12.01

熱しやすく冷めやすい
 物を大切にしない国民性

 前回はプレストレストコンクリート構造(PC軌道桁)の剥落とその原因について行政技術者のあり方、請負業者のあり方等を倫理観が欠如している実態を含めて論じた。今回は、昨年度から法制度化された橋梁など社会基盤施設を対象とする点検について1年経過した現状について考えてみたいと思う。
 国内は、確かに点検が法制度化され、点検・診断を行う専門技術者に関する国が民間資格認定を行い、国が主導となって地方自治体の職員等を対象に研修制度を開始、地方の技術拠点となるメンテナンス会議を継続的に開催等と盛りだくさんである。米国ミネアポリスの道路橋崩落事故で大きく舵を切らねばならなかったメンテナンス主流への道が予想通り尻つぼみとなり、不幸にして中央道・笹子トンネル天井板落下井事故が発生、貴重な人の命を多く失う結果となった。笹子トンネル事故を教訓に「メンテナンス元年」と銘を打ち、国内の多くがメンテンス主流とするような流れとなったと期待するが果たして実態はどうであろうか?これまでのこの業界に身を置いた経験からすると「熱しやすく冷めやすい国民性」「票稼ぎの答弁を繰り返す議会の体制」「物を大切にしない国民性」等から私は疑心暗鬼である。私の考えを裏付ける? 事例をあげ、メンテナンスの重要性認識が継続的に、そしてこれからが勝負と感じている意見を含め論じてみる。

近接目視さえすればOK……ではない
 遠望目視はなぜ必要か

1.「遠望目視は必要がない」と思っていませんか?
 国土交通省が道路法の省令・告示において「必要な知識及び技能を有する者」が「近接目視」によって「5年に1度の頻度」で点検し、「健全性の診断」を行い、告示に示される4段階の区分に分類することを必須としている。さらに、点検・診断した結果やその過程で得た構造物の状態に関する情報、講じられた措置は、その内容を適切な方法で「記録」し、当該構造物を供用している期間において「保存」しておかなければならないとしている。

 法で規定されたと言うことは、法の基本的な姿勢「何々をしてはならない」の考え方であり、必要な知識及び技能を有する者以外が、近接目視以外の方法で、5年に1度以上の頻度で点検・診断を行ってはならないとなる。となると、橋梁を事例にあげると、70万橋の点検が先走り、近接目視点検さえすれば内容はともかく全てがOKのような考え方が主流となってきている。点検・診断対象の数が先行し、物理的に5年間で70万橋を行うのは無理だ、それでは機械に頼ろう、その切り札がドローンによる点検であるとなっている。私は、ドローンを使うことを否定するわけではない。自然災害の現場、原子力施設、点検技術者が近寄れないような構造物等には有効に機能するし、これまで私も機会があれば活用してきている。しかし、喫緊な課題である「構造物の高齢化」「安全を危惧する構造物の増加」「新たな損傷の発生」に我々技術者は対応しているのであろうか?そもそも点検とは、何かである。点検は、対象となる構造物の外観で確認できる損傷や内在する変状を見つけ出し、早期に措置を行うことで事故を未然に防ぐこと、耐久性の向上等に寄与するためである。
 今、国内の各地で近接目視点検が行われている。私は危惧している。対象構造物の肌に触れるほど近くによって点検すれば全てが漏れなく確認ができるのであろうか?近接目視が第一に来るばかりで、「灯台下暗し」の事態に陥っていないのであろうか?もう一度点検とはどのようなことかを考えてみるのが今だと考えるがどうであろうか?私が3年前に報道で指摘したのは遠望目視点検を否定したのではない。国内各地で行われていた「概略点検」が安全性確保に寄与していない現状を国内の多くの人に知ってもらいたいことが主眼であった。点検・診断を行うことは、対象構造物を眺め、点検結果表を埋める作業、エクセルシートの穴埋め作業としてルーチン的に書類作成が重要で、構造物の異常には関係なく埋められ点検結果を専門技術者が確認さえすれば、点検・診断は完璧であると思い違いをした多くの技術者に警鐘を鳴らす意味で行ったことである。

 遠望目視点検の趣旨は、遠くから対象構造物を診て、建設当初、供用前に想定した縦横断勾配、橋軸方向の通りや外観に変わったとこは無いのかを確認することにある。遠望目視点検は、目だけでなく耳でも行うことである。例えば、橋梁の場合、製作時に縦断的には必ずキャンバーを付けている。橋軸方向の通りや縦断的な異常、雨水の滞水状態など遠望でなくては分からないことが多い。事例としてあげた都市内高架道路橋の事例は、大きなことではないのかもしれないが内在する事象は大きい。橋梁が逆キャンバー状態で供用することに何も感じないのは構造的な理解が不足していると考えてみても不思議ではない。このような事例は、床版打替えを供用しながら行った橋梁に多く、支承付近に想定外の力が作用していることになる。

 近接目視のみではこの状況を把握するのはかなり困難である。また、橋梁本体ではないが、附属物も同様である。橋梁を遠くから見ること、肌に感じることで日々吹き抜けている風によって橋梁灯や標識柱が揺れている状態であるならば、技術者として疲労亀裂の発生を予想すべきである。ここに掲載した橋梁等は、不幸にして街路灯専門業者が灯具の保守点検を行っていたが、疲労亀裂に関する知識が無かったのか定期的に行っていた点検では見逃されていた。対象橋梁の橋梁灯3か所に重大な亀裂(柱を半周する亀裂発生と風によって開閉する状態)を発見、即時撤去を行うことで事なきを得たのは幸いであった。このように遠望目視は対象構造物の状態を予測するために必要不可欠な点検方法であることを忘れてはならない。

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