道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」②

山口県のひび割れ抑制システムの構築 -不機嫌な現場から協働関係へ-

山口県
土木建築部
審議監

二宮 純

公開日:2015.10.08

3. 模索しながらのひび割れ抑制システムの構築
 産官学の協働でコンクリート構造物のひび割れを何とか抑制しようと努力を重ねた結果、一つのシステムが生まれた。最初からシステムの形を作ったのではなく、走りながら考えているうちに自然にシステムが出来上がった、というのが真相である。現在の日本は、ありとあらゆる場面において、とにかく形・システムから入る場合が多い。また失敗が許されない風潮が強い。現状に課題があるのであれば、とにかくベストを尽くしてやってみる、でよいのではないか、と筆者らは思う。失敗をしない無謬の人間はいない。失敗しながらも改善を重ねていくこと、状況に応じてベストを尽くし続けること、が大事である。

データの精度が鍵

 ひび割れ抑制システム(図-4、ただし平成26年からひび割れ抑制のみでなく、品質確保を目的としたシステムに拡張)では、施工者は、すべての打込みリフトにおいて、コンクリート施工記録を提出する。コンクリート施工記録には、構造諸元や、ひび割れ幅を抑制するための補強鉄筋の追加や膨張材の使用などの採用されたひび割れ抑制対策、コンクリート材料の情報、打込み時の諸条件、打込み後のコンクリートの温度履歴、発生したひび割れの諸情報などがまとめられている。コンクリート施工記録の提出は施工者に義務付けられている。施工者からの要請により始まった取組みでもあるため、コンクリート施工記録の提出の義務付けには特に異論は出なかった。なお、打込み後のコンクリートの温度履歴の計測は任意である。手間がかかるため、義務にするとデータの捏造も懸念されるからである。このシステムでは、データの精度が鍵であり、不正確なデータが紛れる可能性を極力排除する工夫がなされている。温度履歴の計測を施工管理に活用した施工者には工事成績評定で加点がなされる仕組みとなっている。

 コンクリート施工記録はデータベースとして山口県のHPで公開されており、このデータベースを分析した結果に基づいて、ひび割れ抑制対策を含む品質確保の情報が品質確保ガイドと名付けた規準書としてまとめられている。品質確保ガイドは特記仕様書によって参考資料に位置付けられており、これに基づいて新たな構造物を設計する際にひび割れ抑制の検討がなされる。ひび割れ抑制のために必要な、追加の鉄筋や膨張材等の材料費・施工費は発注者の負担である。信頼できる共通のデータベースに基づいて決定された対策であるため、発注者の責任で支払うのである。世の中の様々なシステムが真のWin-Winの関係に向かうためには、正しい方向に向かって、各プレーヤーが本分を果たすことしかないように思う。

27項目からなるチェックシート

 「施工状況把握チェックシート」という27項目からなる打込み時の監督員のチェックシートも日々の実務の中で活用されている1)。「施工の基本事項の遵守」をシステムとして達成するための重要な要素である。土木学会の示方書等に示されている遵守すべき基本事項は非常に多岐にわたり、現代の我が国の工事現場において、これらがすべて遵守されることを期待するのは困難といっても仕方ないであろう。しかし、山口県においては、それらの基本事項群から27項目を抽出し、監督員がこのチェックシートを持って打込みに立ち会う仕掛けを開発した。言わば、示方書と現場をつなぐシートである。チェックシートの内容は山口県のHPに公表されており、当然、施工者も把握している。施工者は、施工計画や施工の事前準備に活用することとなる。チェックされる内容が公表されており、発注者と施工者の双方にとってフェアなシステムである。山口県のシステムにおいては「公表」に種々の効果があることが分かってきている。今後、建設マネジメントを考える上で大いにヒントとなるであろう。
 基本事項が遵守された施工の記録が毎回取得されデータベース化されることの意義は非常に大きい。設計段階で協議して決定したひび割れ抑制対策の効果も、毎回検証されることとなる。これを分析すると多くの知見が得られるであろう。逆に、いいかげんな施工も多く含んだデータの束は、ガラクタかもしれない。コンクリート構造物は一般的な工業製品に比べるとまさに桁違いに供用される年数が長いのであり、まずはその品質が確保されるように関係者が全力で努力することが重要である。そして、適切に施工された構造物の記録を適切に分析することにより、ひび割れ抑制対策を含む、高耐久な構造物を構築するための様々な有用な知見が得られるものと信じている。

 なお、本稿で紹介している施工状況把握チェックシート1)やコンクリート施工記録の詳細については、この連載の後続の回にて解説する。

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