道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」①寺小屋から全国へ 

それはコンクリートよろず研究会から始まった「コンクリート構造物の品質確保とコンクリートよろず研究会」

徳山工業高等専門学校 
副校長 
土木建築工学科 教授 

田村 隆弘 氏

公開日:2015.09.16

350委員会の設立

8.学会活動(研究委員会)への発展
 山口県の成功例は、業界紙を通じて広く国内の研究者の知るところとなった。横浜国大の細田准教授、日大の岩城教授、八戸工大の阿波教授、東京大学の岸教授、山口大学の中村教授、そして、広島大学の半井准教授らは、いち早くこうした山口県の取組みに着目し、再三に渡って山口県に調査に訪れた。そして、彼らは調査結果に基づき「山口県ではコンクリートのひび割れを抑制しようとしたことで、コンクリートの品質そのものが良くなっている。」といったことを明らかにした。
 こうした一連の実績が評価され、平成23年4月には、日本コンクリート工学会(以下、JCI)に「データベースを核としたコンクリート構造物の品質確保に関する研究会(委員長:著者)」と、JCI中国支部に「打設管理記録に基づくコンクリート構造物の品質確保に関する研究会(委員長:著者)」が設置された。そこでは、山口県のシステムを分析し、より現場に実装するに相応しいシステムにてブラッシュアップすることを研究するなどして、こうした仕掛けを日本全国へ展開する方法について議論を重ねた。本研究委員会は平成25年9月には東京大学武田ホールにて報告会を開催し、その成果を発表した。
 さらに平成26年10月には、これらのJCIの活動を発展させるべく、土木学会コンクリート委員会にも3種研究委員会(以下350委員会)「コンクリート構造物の品質確保小委員会(委員長:著者)」が発足し、現在、多くの大学、企業の研究者の参加によって、まさに全国にコンクリート構造物の初期品質を画する活動を展開している(図4)。


図4 土木学会350委員会に参加している大学教員の状況(これにさらに企業の研究者が加わっている)

コンクリートのひび割れを防ごう。

9.おわりに
 安全性や耐久性についての設計や解析は、材料であるコンクリートの品質や施工が確かであること、理想に近いものであることを前提として照査をしている。しかし、そうした理想的な材料や施工とは、どのようなものなのか。おそらく現在の建設工事で確認されているコンクリート強度と空気量だけで決まるものではない。現在では、コンクリートの表層品質を調べる技術も多く研究されており、近い将来、そうした評価法も確立されるであろう。しかし、本当は、技術者自身がコンクリートを見る目を養うことが最も大切な品質確保のための取組みであるように思う。
 実は、コンクリート構造物の品質を高めようという声に最も敏感に反応したのは、生コン製造者であった。山口県内の生コン業界では、これを機会に意欲的にコンクリート主任技師の資格取得に向けて勉強する技術者が増え、約5年間でコンクリート主任技術者の出荷量に対する割合が全国でトップになるなどして活気づいた。
 今なお山口県では、著者との共同研究や頻繁に現場を活用した技術研修会を開催するなどしてこのシステムの高度化を図る努力を継続している。ひび割れ抑制システムの中で開発した「ひび割れ抑制対策資料」は、平成27年度からは「コンクリートの品質確保ガイド」にグレードアップして、いっそう内容を充実したものとしている。
 コンクリートよろず研究会に始まった「コンクリートのひび割れを防ごう。」という技術者の思いは、山口県でのひび割れ抑制システムとなり、日本コンクリート工学会や土木学会を巻き込んだ動きとなって、今や東北復興道路のコンクリート構造物群を初めとした日本全国の意識の高い自治体のコンクリート構造物の品質を高める動きに飛び火している。
 今後は、「より良い品質のコンクリート構造物をつくろう。」と言う機運が加速して、耐久性の高い構造物が当たり前のように出来上がるようになり、この国の豊かな文化の創生に寄与することを願ってやまない。

参考文献等
1)山口県/技術管理課/コンクリート品質確保・トップページ 

  http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a18000/hibiware/hibiwareyokusei.html

2)実構造物で行った“ひび割れ実験”,日経コンストラクション,pp.66-69, 2006.4.14

3)田村隆弘、山口県におけるひび割れ抑制試験施工(解説),コンクリートテクノ,Vol.25,No.9,pp.14-17 (2006.9)

4)田村隆弘,二宮純,前田勉,井口威生: コンクリートひび割れ抑制対策の実構造物試験施工について,土木学会, 「混和材料を使用したコンクリートの物性変化と性能評価」に関するシンポジウム, Ⅱ-7-12,(2007.3)

5)田村隆弘,二宮 淳:コンクリートのひび割れ抑制対策試験施工の成果と展開, セメント協会, セメント・コンクリート, No.726, pp45-50, (2007.8)

6)田村隆弘, 二宮純, 森岡弘道, 山口県におけるコンクリート構造物ひび割れ抑制対策について, 平成21年度「中国地方建設技術開発交流会」, pp.2-7

7)国重典宏,田村隆弘,二宮純,森岡弘道,山口県における「コンクリートひび割れ制御システム」について, 日本コンクリート工学会,コンクリート工学,Vol.49,No.5,pp.91-95,(2011)

8) Takahiro TAMURA,The Quality Secure Systemof The Concrete Structure Utilized The Past Construction Data,The 8th International Symposium on Social Management Systems SSMS2012,2nd-4th May,2012,Kaohsiung, Taiwan

9)細田暁,田村隆弘,二宮純,山口県のひび割れ抑制システムによる各プレーヤーの技術力の向上,土木技術,第67巻第10号,pp.33-38,(2012.10),ISSN 0285-5046

10)Takahiro Tamura, Research on practical use of a construction database for preventing cracks in a concrete structure, The Third International Conference on Sustainable Construction Materials and Technologies – SMTC3, CD-ROM, 2013.8.18-21

11)(報告)森岡弘道, 二宮 純,細田 暁, 田村隆弘, 地方自治体におけるコンクリート構造物のチェックシートを活用した品質確保の取組み, 日本コンクリート工学会, コンクリート工学年次論文集 Vol.35, pp.1327-1332, (2013.7)

12)細田 暁, 坂田 昇, 田村隆弘, 目視評価を活用した山口県のひび割れ抑制システムによる表層品質向上の分析, 日本コンクリート工学会, コンクリート工学年次論文集 Vol.35, pp.1837-1842, (2013.7)

13)田村隆弘, 細田 暁, 岩城一郎, 他,データベースを核としたコンクリート構造物の品質確保に関する研究委員会報告書・論文集, 日本コンクリート工学会, 2013.9

14)森岡弘道, 二宮 純, 細田 暁, 田村隆弘, チェックシートを活用した施行状況把握の品質確保の効果の検証, 日本コンクリート工学会, データベースを核としたコンクリート構造物の品質確保に関する研究委員会報告書・論文集,pp.33-38, (2013.9)

15)井林 康, 細田 暁, 二宮 純, 岩城一郎, 田村隆弘, コンクリートの施行状況把握チェックシートおよび施工後目視評価のタブレット端末への適用, 日本コンクリート工学会, データベースを核としたコンクリート構造物の品質確保に関する研究委員会報告書・論文集, pp.39-44, (2013.9)

16)廣川昭典, 二宮 純, 森岡弘道, 田村隆弘, 細田 暁,データベースを活用した設計段階におけるコンクリート構造物のひび割れ抑制対策の取組, 日本コンクリート工学会, データベースを核としたコンクリート構造物の品質確保に関する研究委員会報告書・論文集, pp.45-50, (2013.9)

17)細田暁, 二宮純, 田村隆弘, 林和彦:ひび割れ抑制システムによるコンクリート構造物のひび割れ低減と表層品質の向上, 土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造), Vol.70, No.4, pp.336-355, 2014

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