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-分かってますか?何が問題なのか- ⑤橋と景観

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2015.09.01

「芸者の厚化粧」 橋は構造美こそが売り

3.橋の装飾と化粧
 橋を架ける、そして維持管理での外観を変える時に必要なことは、最小限度の装飾を重要なポイントに意義のある装飾を加えることが重要である。華美で複雑、無意味な装飾や化粧を施すことは、橋本来の美しさを否定するものであり、意味の無いものである。橋の姿は、力学的な面で安定した感じを見る者に感じさせ、無駄の無い躍動感を感ずるように創ることがどのような状況においても必要である。建築物との差異は、建築物は平面上にあることから線上にある構造物として安定を感ずるが、橋は点の上にあることから不安定を感じやすく、橋の姿づくりにおいて如何に安定した姿とするかにある。
 また、建築物は、遠望から近傍から立ち止まって見るものであるが、橋は、動きの中で見る場合が多い。橋に凝りに凝った細部に亘る工夫や装飾を施したとしても、建築物とは違って動きの中で見ることになるので無意味となる場合が多いことを十分理解することが必要となる。
 橋は建設してから同じ姿で寿命を終えるものと時代の移り変わりの過程で大きく手を加えられるものとの2種類ある。時代の移り変わりで手を加えられると事とは、例えば、隅田川等に架かる著名な橋に装飾を施す施策であった「著名橋整備事業」が該当する。昭和の終わる50年代の後半から平成の初めにかけて東京都が進めた事業である。時はバブルの金余りの時期であるが、先に示した震災復興によって架けられた橋梁を中心に「東京都の著名橋」を有識者の集まる委員会によって選出、対象となった橋に対し、損傷部分を補修するだけでなく、新たな橋の姿づくりを行う事業である。事業の内容は、高欄を鋳物製で築造し直したり、歩車道境界に横断抑止柵や道路照明を装飾タイプの物を設置、歩道部分の舗装を天然石で化粧し直すなど多額の費用を投入する事業であった。事業を開始する背景には、維持管理時代への移行に際し、維持管理への注目度アップと管理部門事業を世に打ち出す施策を創る目的で私も当然のごとく参画し、種々な方面にPRして進めたことを今でもはっきりと覚えている。
 事業を開始して直ぐに著名な先生に言われたことは、「髙木君、隅田川の橋で進めているお化粧直し?だけど、あれ、君も関係しているの」「髙木君のために言うのだけど、橋の美しさは種々な装飾をゴテゴテ付けるのではなく、構造美が売りで、あのようなことを行うことは本来の美しさを無にする全く価値の無いことだよ」「要は、言い方は悪いけど『芸者の厚化粧』的で直ぐに止めた方がいいよ」と言われたことである。ある一定の事業費を十年以上確保し、組織と維持管理の将来のために必要な施策と考え、国内で初めて進める既設橋の大改修事業と誇らしげに思っていた自分が情けなくなったことを今でも忘れてはいない。


写真-5 著名橋整備事業で整備された駒形橋

 あの時の反省は、住民ニーズを調査し、本当に多くの住民の要望で進める施策は良いが、予算を獲得するための施策では、真の技術者や住民から反対を受けるのは当然であった。先人の残した資産に対し、価値を失うような改悪を行うことは今考えてみても好ましくはないことは事実である。時代が急速に移り変わった今日において、私も参画した「著名橋整備事業」の評価は低くなることはあっても高くなることは無いようである。

橋は簡素が一番

4.橋に求められる姿
 橋を構成する部材や構造の各部分は、やはり簡素が一番である。維持管理し易い構造の採用をよく言われるが、複雑な構造を採用すると製作・施工する過程だけでなく、供用後の維持管理において清掃作業、点検、落橋防止システムの設置等補強工事において大きな支障となり、変状を生み、進行度を早くする結果となる。
 橋を計画・設計する段階で忘れてはならないのは、可能な限り単純で安定した構造とすることである。複雑にすることは、製作に多大な労力を要するだけでなく良好な製作は望めなくなる。また、塗装が容易な構造でなければ、塗り残しの原因となり、滞水や漏水の原因を抱えた構造であることから耐久性にも大きな損失となることは明らかである。厚化粧と言われたり、装飾華美と言われない単純な構造の採用が良好な耐久性を確保するために必要であるだけでなく、橋の姿も美しいのである。
(次回配信予定日は10月1日です)

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