道路構造物ジャーナルNET

中日本高速道路リレー連載②

名古屋支社管内の高速道路における構造物の劣化と維持管理

中日本高速道路㈱名古屋支社
保全・サービス事業部
事業部長

池田 光次

公開日:2015.06.22

5.名古屋支社管内における最近の点検技術

 構造物において通常の点検では見えないところをどのようにして確認するかという観点から、現在、グループ会社の中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋(株)において活用もしくは活用に向けて検討している4つの技術について紹介する。

5-1.Easy Checkカメラ
通常では見ることができない高所や狭小箇所の状況を簡単かつ効率的に見ることを目的に開発したもので、軽量なロッドを組み合わせて先端に高解像度カメラを装着し、橋梁下や橋梁上から容易に構造物の状態を見ながら撮影することができる。(写真-8)

 

5-2.ロープアクセス
 足場設置が困難な箇所にロープアクセス技術を活用して、これまで近接目視点検が困難であった部位の点検・調査を行うものである。これにより、従来では近接が困難であった部位に検査車やリフト車が無くとも技術者が直接接近することが出来るので、近接目視ならびに触診や打音点検ができ、高精度の点検・調査が可能となった。(写真-9)
5-3.管内検査用リモコン式カラー撮影装置
 これは高解像度なカメラと照明を自走式装置と一体化し、操作機械と電源のケーブルを接続したもので、人が入って点検することのできない小さい管路や狭小部などの点検を可能としたものである。(写真-10、11)

 

5-4.診るコプター(カメラ付きラジコンヘリ)
 従来の点検手法では近接して見ることのできなかった部位や場所までドローン(無人飛行探査ヘリ)を飛行させ、撮影を行う技術である。これにより、高所作業車や橋梁点検車の利用が困難な場所や災害で近づけない場所の映像取得等が可能となる。(現在のところ重さ6㌔の機器まで搭載可能であり、実用化に向け有効性や利用条件などの検証中である。)(写真-12)

 

6.保全時代の技術者育成への取り組み

 社内外を問わず技術者の点検に関する知識と技術力の向上を図るため、実践的な体験・教育が可能な2つの研修施設を整備し運用しているので紹介する。

 

6-1.N2U-BRIDGE(以下、ニュー・ブリッジと呼ぶ)
 ニュー・ブリッジとは、名古屋大学とNEXCO中日本および中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋(株)が共同で名古屋大学構内に整備した橋梁保全点検技術の研修施設である。具体には、実戦に即した臨床的な橋梁点検研修が行えるように、実際に利用していた橋梁の劣化が進み更新等により撤去された上部構造や部材を全国から集め再構築した設備である。点検技術研修は、NEXCOグループ社員はもとより、一般募集による点検技術研修も実施しており、適切な点検・診断・評価を行うことができる人材育成に取り組んでいる。(写真-13)

 

6-2.E-MAC
 これは、グループ会社である中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋(株)が開設した技術研修センターであり、施設整備の目的は、現場に即した技術の習得や専門技術の伝承、安全への感性を高め常に安全意識を持ち、危険回避と異常発見能力を養うことである。土木技術については、技術習得用に実物模型や供試体を設け、打音点検や近接目視点検を実作業状態で体験させることで、現場での実践に必要となるスキル習得や技能の向上を目指しており、より安全に確実な点検が実施できる者を育成する。また、設備の中では3D映像により高速道路での交通流を再現した現場を作り出し、その中に身を置いて、そこに潜む危険を実体験し、その経験をもって現場における危険回避能力の向上に役立てている。(写真-14、15)

 

7.大規模更新事業への取り組み  

 名古屋支社管内の環境と変状要因の項で支社管内の概況に触れたが、改めて高速道路を取り巻く環境を整理すると、社会経済の発展と共に増加した大型車交通量や車両制限令の規制緩和による交通荷重の増加といった利用環境の変化や、冬期交通確保のため毎年の凍結防止剤散布などの維持管理上の問題、経過年数の増加に伴い高速道路の変状は急激に変化してきた。このため、高速道路ネットワークの機能を今後も永続的に活用していくことを目的として、高速道路3社において有識者による検討委員会を設け検討を行い、その結果を基に平成27年3月25日付けで国土交通大臣から特定更新事業の実施について許可を頂いたところである。これにより、従来の補修では長期的に機能が保てない構造物を再施工する橋梁の床板取り替えなどの大規模更新事業や、予防保全の観点から新たな変状発生を抑制して構造物の長寿命化を図る大規模修繕事業について、計画的に実施していくことが可能となった。
 名古屋支社における大規模更新事業は、橋梁床版の更新が多くを占め、損傷の要因として東名・名神や東名阪といった東西ルートでは重交通による疲労の影響、中央道や北陸道では塩害による影響が主要因となっている。現況は床版下面コンクリートの浮きやはく離の他、橋面舗装にはポットホールが多発し、舗装を補修してもすぐにポットホールが繰り返し発生する状況であり、進みすぎた床版の劣化に対し早急な抜本対策が必要な箇所が急速に増加している。
 ここで、最も対象の多い床版取り替え工事を実施する際の課題に目を向けると、
 ①従来工法では工事規制期間が長期に渡る
 ・床版取り替えは、対面通行規制を行い片側通行止めの中でも従来は1橋に数ヶ月を要してきた。
 ②交通量的に対面通行規制が難しい路線が多い
 ・管内各路線の交通量では片側通行止めによる対面通行規制は、社会的影響が極めて大きい。
・現状では集中工事(1車線規制)の2週間でも大渋滞となり膨大な苦情問合せをいただいている。
といった課題に対し、お客様への影響や社会的影響をできるだけ小さくする工事計画の策定が必要である。
 対策として、抜本的には、新東名や新名神、名二環西南部などの迂回可能なネットワーク整備後に着手するのも選択枝であるが、既にネットワーク完成を待っていられない損傷状況や迂回効果が得られない路線もある中で、1車線規制で片側の狭い幅員において仮設防護柵を設置して床版を半分づつ取り替える工法や、橋梁下面や側面に進入ルートを確保したり大型重機を活用して資材の供給をすることで工期短縮するなど、さらなる工夫が必要である。さらに、大規模更新対象箇所も各路線に多数あるため、社会的影響を考慮すると実施単位も1橋単位ではなく、IC間まとめて対面規制を行い、規制区間内の他の維持修繕工事や設備工事を行う事で、老朽化した路線のリニューアルも進めていきたいと考えており、放射状に多数の路線を抱える名古屋支社としては、15年間の限られた実施期間に対して、今年は路線毎に状況を再整理し、主たる橋梁の施工計画、並びに規制計画を含めた今後の進め方を検討したうえで、計画を十分練ってスタートすることとしている。なお、先行着手する路線としては損傷が進んでいる名神や中央道を検討している。

8.おわりに  

 名神高速道路が全通して半世紀が経過した。建設当時は我が国の最先端の技術で作り上げた高速道路も50年を経過し、東西を結ぶ大動脈として日本経済や沿線の発展に寄与してきたとともに、高速道路によって地域間の高速ネットワークは大きく拡大し、地域連携機能の向上を果たしてきた。この間に交通量は大幅に増加し、渋滞や事故の増加に対する対策の強化や環境問題への取り組み強化など、高速道路の管理運営方法も一緒に発展してきたが、24時間365日安全かつ安心・快適な高速道路を提供するという道路会社の使命は、今も昔も変わらない。
 一方で、大型車交通量の増加や車両制限令の規制緩和による交通荷重の増加といった利用環境の変化や、冬期交通確保のため毎年の凍結防止剤散布などの維持管理上の問題、経過年数の増加に伴い高速道路の変状は急激に増加している。このため、高速道路ネットワークの機能を今後も永続的に活用していくことを目的として、高速道路3社において有識者による検討委員会を設け検討を行ってきた。その結果を基に平成27年3月25日付けで国土交通大臣から特定更新事業の実施について許可を頂いたところである。
 これにより、従来の補修では長期的に機能が保てない構造物を再施工する橋梁の床版取り替えなどの大規模更新事業や、予防保全の観点から新たな変状発生を抑制して構造物の長寿命化を図る大規模修繕事業について、計画的に実施していくことが可能となったところである。しかし、実際の工事にあたっては長期間にわたる工事規制を必要とし、お客様への影響や社会的影響をできるだけ小さくする工事計画の策定が必要となり、工程の短縮や出来あがる構造物の長寿命化に向けた新技術・新工法の開発は不可欠である。
 今後、高速道路のさらなる安全性・信頼性の向上と、機能の向上に向けて取り組んでいきたい。

 

【参考文献】
1)名古屋支社管内橋梁保全検討委員会報告書(平成26年6月)

 

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