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【オピニオン】特殊高所技術について②

3つの要素からなる特殊高所技術の「安全」

一般社団法人特殊高所技術協会
代表理事

和田 聖司

公開日:2015.05.01

安全帯の2丁掛けは必須
 1系統になった場合、事故として扱う

4.多重安全作業システム
 「特殊高所 技術」においては、歩けるような場所であっても、墜落防止措置が必要な状態であれば、安全帯の2丁掛けは必須だ。安全帯等による自己確保が1系統になった場合、「特殊高所技術」では、事故として扱っている。 
 「ヒヤリハット」は事故である。という考え方だ。
 また、複数の支点設け、更にバックアップとして別の支点からの確保も行う。システムの各所にフェイルセーフ理論に基づいたバックアップを施すため、1つのヒューマンエラーによって致命的な事故に至ることはない。技術者自身の墜落だけではなく、工具や各種機材に対する落下防止処置を施し、落下物による事故の防止も徹底させている。 

人体に作用する衝撃荷重は6 kN以下に管理
4-2. 墜落衝撃荷重
 人体は大きな墜落衝撃荷重を受けると、もちろん負傷することになる。ハーネス型安全帯等で墜落衝撃荷重を全身に分散できる条件において、墜落衝撃荷重が人体に及ぼす影響(負傷の程度)は概ね以下の図のようであるとされている。

           図-1 墜落衝撃荷重による人体への影響

 この表から、全身型ハーネスを使用した場合、人体に対して係る墜落衝撃荷重が6kNを超えると、負傷および死亡するリスクが大きくなっていくことがわかるだろう。 
 現在、国内で一般的に使用されている胴ベルト型安全帯の場合は更にシビアだ。であるにも関わらず、日本の安全帯の規格では、衝撃荷重を8kNまで許容している。これは、米国の基準が衝撃荷重を8kNまでを許容しており、それに倣ったものである。 
 特殊高所技術協会では、欧州の安全帯の規格を採用し、墜落抑止や、支点脱落時の短距離墜落等で、人体に作用する衝撃荷重が6kN以下になるように管理させている。万が一の支点脱落などを想定した小墜落時の衝撃荷重が、ほぼ怪我をすることがないとされている6kN以下となるようなシステムで作業を実施できるように、墜落実験などを繰り返し、データ収集等も実施している。

              図-2 支点からのオフセットの幅と墜落衝撃荷重の相関

オンロープレスキュー受講を義務付け
 2名以上でなければ作業を許容しない

5.技術者の安全意識と危機対応能力
 全ての特殊高所技術者に対して、「特殊高所技術指導要領」に基づいた最低96時間の講習を受講させ、設けた全ての項目について認証を受けることを義務付けている。 また、同僚が熱中症などによって行動不能となった場合、自分達自身で救助する必要があるため、全ての特殊高所技術者は「オンロープレスキュー」と呼ばれるレスキュー訓練を受講させており、基本的には2名以上でなければ作業を許容していない。

                写真-2 オンロープレスキュー状況

NETISでも評価されている特殊高所技術

6.法律上の位置づけ
 「労働安全衛生規則 第五百十八条」においては以下のように規定されている。
 ・事業者は、高さが二メートル以上の箇所で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
 ・2事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等、墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
 要するに、法律では、「高さが2m以上の高所で作業を行う場合には足場を設けなさい。」と言っているのだ。ただ、「足場を設けることが困難である場合」という状況も、実際には存在するだろう。 
 このような場合はどうすれば良いのか? 法律では、「足場を設けることが困難である場合は、墜落防止措置を講じなさい」ということも同時にうたっている。ここで問題なのは、「作業床を設けることが困難なとき」とはどういう状況なのか? 「墜落による労働者の危険を防止するための措置」とはどういうものなのか?ということだろう。 まず、「墜落による労働者の危険を防止するための措置」についてはどうだろうか? これについては、「特殊高所技術」は「墜落による労働者の危険を防止するための措置」に当たるという見解で全く問題ない。どこの労働基準監督署に行っても、問題ないと言ってもらえることだろう。 
 では、「作業床を設けることが困難なとき」についてはどうだろう? これについての定義は、法律上、詳細な記述が存在しない。 
 しかしながら、労働基準監督署としては、ビルの窓拭きのように、短期間で終了する作業に対して、足場の仮設が必要となる場合や、作業床を設ける為に交通規制などの弊害が発生するような場合は「困難である」と考えて良いという見解を示している。 
 では、橋梁の点検や、調査、簡易補修についてはどうなのか? これについて、行政は明確な答えを用意していない。明確な答えが用意されていないからこそ、工法を選定する側が考慮すべき問題としては、万が一にも事故が起こった場合を想定する必要がある。万が一にも事故が起こった場合、比較的自己責任を重くみている欧米とは違い、国内では、必ず事業者責任を問われることになるだろう。法律で「高さが2m以上の箇所で作業を行う場合には足場を設けなさい。」としているにも関わらず、なぜこの工法を選定したのか?を問われることになる。 
 「特殊高所技術」の場合が、他の類似工法と大きく違うのは、国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)において、試行実証評価で「従来技術と比べ安全性が向上する」と評価されているということが担保になるということだ。複数の労働基準監督署及び、労働基準局安全衛生部安全課にも確認済みなので、間違いはない。先に記載した通り、厚生労働省は、平成25年10月~平成26年3月にかけて、「ブランコ作業における安全対策検討会」を実施した。この結果を受け、「ブランコ作業」というよりは、ロープに人がぶら下がって何かをするという行為に対して法制化が加速していくことになるだろう。 これが少しでも事故を減らすきっかけとなれば良いのだが、思っているほど簡単にはいかない大人の事情も見え隠れする。 
 安易に真似をする事業者、また安易にそれを使ってしまう発注者や元請け会社、これは今後も確実に増えていくと思われる。当協会の活動によって、1件でも多くの事故を減らすことが出来ればと心から思う。(次回は6月1日に掲載予定です)

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