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東日本高速道路 維持管理リレー連載⑥

NEXCO東日本の橋梁に関する更新事業の概要 

東日本高速道路株式会社 建設・技術本部
技術・環境部 構造技術課長

本間 淳史

公開日:2015.04.16

 予防保全を先行的に実施する箇所も

 3.橋梁の更新事業の内容
 3.1 更新等工事の計画
 大規模更新および大規模修繕の工事(以下、特定更新等工事)の実施にあたっては、まずは既存の情報(使用環境や過去の詳細点検・調査結果,補修履歴・路面状況などの情報)に基づいて、劣化機構の推定および健全度の評価を実施して優先順位を決めます。このうち優先度の高い橋梁について追加点検・詳細調査を実施して、劣化要因や劣化程度・範囲の特定を行うとともに、健全度評価の精度を向上させて、優先順位を精査のうえで、最終的に工事の実施判断および工事計画の策定を行うことになります。
 ここで特定更新等工事の優先順位は、当初は計画時点での情報を基に判断しますが、その後の点検や調査等によって最新情報を得ながら、構造物の使用環境や健全性、劣化機構(劣化速度)、構造特性等を十分勘案して決定します。
 工事の計画にあたり、全体の規制期間の短縮などが可能な場合については、規制区間の他橋梁についても将来の劣化予測・検討を行ったうえで優先的に工事計画する必要があります。例えば、交通規制が厳しい区間の隣接した橋梁で、同じ規制内で実施することにより全体の規制期間の短縮が可能な場合については、隣接橋梁の将来予測を踏まえたうえで、同時期の施工が好ましいと判断されれば優先的に工事を計画することになります。また、橋梁全体でバランスのとれた長期的健全性を確保することや、交通への影響を最小限とする観点から、伸縮装置や排水装置、高欄などの付帯する部材の劣化状況を調査のうえ、取替えや補修、予防保全が必要な部材等については特定更新等工事にあわせてこれらの付帯工事を実施して行きます。
 一方、将来的に更新工事等が困難な構造形式については、予防保全を先行的に実施するよう計画します。例えば、PC箱桁の内ケーブル構造は、上縁定着したPC鋼材や上床版及びウェブ内のPC鋼材の維持管理が困難であることから、床版防水などの予防保全を早期に実施することが有効です。また、特殊な長大橋梁や新幹線・鉄道上に架橋された橋梁などについては、将来的にもミニマムメンテナンスを繰り返しながら耐久性を維持していく必要があるので、床版防水などの予防保全を早期に実施することが有効になります。
 工事の実施に際しては、高速道路の交通管理者、迂回計画道路の交通管理者、関連する河川管理者、交通規制計画、光ケーブル等の迂回計画など、関係機関と十分な協議・調整を図ったうえで、交通規制に伴う渋滞等の社会的影響にも十分配慮して計画立案する必要があります。

 

中心はRC床版の取替え
RC中空床版の打替えも

3.2 橋梁の特定更新等工事
 橋梁の特定更新等工事は、交通荷重や塩害が直接に影響する上部構造(桁、床版)を対象としています。表-5に各橋種・部位毎の対策工法の一覧を示します。これら対策項目のうち、RC床版に関する対策工事が中心となることから、ここでは鋼橋RC床版の床版取替え、RC中空床版の床版部打替え、および高性能床版防水について説明します。

                  表-5 各橋種・部材毎の対策工法一覧

 

 プレキャストPC床版への取替えが基本

 (1)鋼橋RC床版の取替え
 鋼橋RC床版では、これまでに平成5年の車両制限令の改正に伴って上面増厚や下面増厚、鋼板接着による耐荷性能の向上を図ってきました。特に昭和48年のトレーラー荷重(TT-43)の導入以前の床版は性能が劣っているため、劣化状況等を考慮して優先的に補強を実施してきました。図-4はTT-43の導入以前に供用した鋼橋RC床版における床版補強の実施状況ですが、約半数の床版で対応が遅れており、さらに一部の橋梁においては、補強を実施した床版の再劣化も見られています。
 鋼橋RC床版の劣化に関して、前述2.で述べた主な劣化要因(疲労、塩害、ASR等)およびその組み合わせ別に健全度を分析した結果、劣化要因が存在する場合には明らかに健全性が低下していることが分かっています1)。また床版の劣化進行は、床版上面の内部ひび割れや土砂化といった変状が確認されることも多く、舗装路面のポットホールが頻発するので、交通機能への障害が危惧されます。図-5は定期点検の結果から得られた床版の劣化度の推移の一例ですが、このように劣化要因がある場合には、健全性が急激に低下する傾向となることが想定されるため、劣化環境にあって健全度が低い床版は、補修を繰り返しても健全性の回復を期待することが難しいと判断し、劣化の進行状態を踏まえて新しい床版に取替えることを基本方針としました。
 RC床版の取替えは、工事期間の短縮や耐久性向上を目的に、過去の実績も踏まえてプレキャストPC床版への取替えを標準としています。プレキャスト床版への取替工事については、凍結防止剤や内在塩分による塩害、疲労等の劣化要因に対する対策として実施されており、NEXCO東日本の管内でも東北道などで実績があります。これまでの床版の取替え工事は、基本的に図-6に示すように、通行車両を片ラインで対面通行させ、当該橋梁を通行止め規制して行われて来ました。今後、更新工事が全国展開するにあたっては、社会的影響を最小限とするように安全で短期間に工事を実施することが必須となっており、床版の撤去設置や壁高欄施工の急速化などの技術開発が急務となっています。また、交通量が多い路線では片側対面通行規制が難しい場合があるので、車線規制を行いながら半断面ごとの床版取替えを可能とする工法の開発も必要になっています。

  図-4 床版補強の実施状況(S48年以前の橋梁)

                           図-5 床版劣化度の推移の事例

         図-6 床版取替え工事のイメージ

 

 内在塩分の要因がある箇所は桁の打替えも検討

 (2)RC中空床版の全面的打ち替え
 RC中空床版は、東名・名神の時代から高架橋の標準構造として数多く採用された橋梁で、コンクリートスラブ内に円筒型枠を設置することにより、空洞を設けて死荷重の軽減を図っていることが特徴です。
 RC中空床版橋の上面は、鋼橋のRC床版と同様に凍結防止剤散布による塩害や凍害による劣化に加えて、施工上、円筒型枠のかぶりが不足しやすい構造となっており、交通荷重や浸透水の影響により変状が生じやすくなっています。したがって、中空床版の健全度は、直接目視が可能な中空床版下面の状況だけでなく、舗装の変状などにも十分注意して床版上面の劣化状態を調査しておくことが重要となります。鋼橋RC床版と異なり、RC中空床版の上面部分は下面からの点検ができないので、張出し床版の状況やその他の詳細調査結果などを踏まえて、総合的に判断することとなり、上面部分の更新が必要とされた場合には、全面的に打替えることとします。
 従来のRC中空床版の補修は、舗装の変状が発生して、補修のために剥いだ時に上面の劣化(浮き・はく離・土砂化等)が確認された場合に最小限の範囲(図-7のⅠまたはⅡの箇所)で断面修復を行い、床版防水は旧タイプもしくは未施工でしたが、これからの特定更新等工事では、劣化予備軍(劣化進行中の箇所)を含めて、全面的な打替え(地覆、壁高欄含む)を行い、さらに高性能床版防水を実施する計画です。なお、詳細調査の結果、内在塩分の要因がある場合は桁架け替えも検討します。
 劣化した上面部分コンクリートのはつり作業は、既設コンクリートおよび鉄筋へのダメージを軽減するようにウォータージェットなどを使用して行い、はつり範囲は変状により脆弱化している部分だけでなく、塩分などの有害な劣化因子が浸入していると想定される位置まではつり、劣化要因を確実に除去できるように計画します(写真-1、2)。

         図-7 RC中空床版の上面の更新イメージ

   写真-1 ウォータージェットによるはつり作業               写真-2 上面コンクリートの再施工

 

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