コンクリート床版の損傷はPCMの上面増厚で対策
首都高速道路 新たな更新計画を発表 対象延長は約22km、概算事業費約3,000億円
首都高速道路(前田信弘社長、右肩写真)は21日、重大な損傷が顕在化している箇所の更新計画の概略を発表した。大規模更新・修繕事業等について審議する技術検討委員会(委員長:前川宏一・横浜国立大学大学院教授)の中間とりまとめを受けて策定したもの。現在、首都高速約327kmのうち約64kmで更新事業を実施中で、今回新たに更新対象となった延長は約22km、事業費は約3,000億円を見込んでいる。具体的な構造物としては羽田トンネルと荒川湾岸橋が挙げられた。さらに、「対象箇所と同様の構造・基準で建設した箇所で損傷が顕在化するリスクがあることから、今後の点検結果などを踏まえて更新事業の追加を検討していく」(前田社長)としている。
更新対象箇所(首都高速道路提供。以下、同)
1号羽田線の羽田トンネルは1964年8月に開通した首都高初の海底トンネルで、ここ数年は漏水にともなう緊急規制が増加し交通に影響が生じている。また、躯体は目地からの海水侵入により中床版上面の鉄筋一部消失や剥離などの重大な損傷が確認されていることから、抜本的な対策が必要とされた。
羽田トンネルの損傷状況ほか
更新事業では、中床版の補修・更新をはじめ、躯体のせん断補強、内面の繊維シートなどによる被覆などを実施する。設備関係は2相ステンレス鋼材を使用した設備や高耐食性の配線カバーへの更新を行い、長寿命化を図る。早期事業着手を目指すものの、財源確保の課題もあるため、2024年度からの着手については未定とした。
施工にあたっては、同トンネルの断面交通量が約9万台/日(2021年度平日平均)と多いことから長期間の通行止めは難しく、現在、運用停止中の羽田可動橋を含む羽田トンネルバイパス路を迂回路として活用する計画だ。工事後は、迂回路を本線運用し、上り方向を高架3車線化、トンネル内を下り専用とする運用に見直す。
羽田トンネルの対策概要
高速湾岸線の荒川湾岸橋は、橋長840mの7径間ゲルバートラス橋(中央部は船舶が航行するクリアランスを確保するため箱桁構造)。1971年の「鋼道路橋塗装便覧」に基づいた塗装仕様(鉛丹さび止め系、塩化ゴム系等)を採用していることから、下地と下塗り間の層間剥離が発生し、鋼部材の腐食が進展して部材破断などの重大な損傷が点検で確認されている。このため、塗装塗替えと当て板補強、部材取替えなどを実施するとともに、新たな点検通路を設置して、維持管理性の向上を図る。
同橋と同基準で塗装された他の鋼橋でも広範囲の層間剥離と鋼部材腐食が確認されているものがあることから、点検結果を踏まえて、更新に着手すべき箇所を選定していく。塗替えにあたっての素地調整は1種ケレンとしている。
荒川湾岸橋など鋼橋の損傷状況
コンクリート床版とゲルバー構造等の支承部の損傷についても更新計画の対象とされている。昭和47年道路橋示方書以前に造られたコンクリート床版に対してはこれまで下面補強を実施してきた。その補強部材の損傷が増加傾向にあり、床版の剛性低下とたわみ増大のリスクが顕在化している。そのため、PCM(超速硬ポリマーセメントモルタル)による上面増厚を実施していく。同社では、これまで同工法の試験施工を継続して行ってきており、その性能を確認できたことから、今後の対策で採用することとした。床版取替えについては、都市内の交通状況を考えると、通行止めをともなう施工は難しいものがあり、更新メニューとしては想定していないとの見解を示した。
ゲルバー構造等の支承部損傷の対策では、桁連続化の対策を行っていく。同社ではこれまで4号新宿線の千駄ヶ谷地区、1号羽田線の勝島地区で同対策を実施している。
コンクリート床版(左)と支承部(右)の損傷状況と対策
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