2023年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ③IHIインフラシステム
鋼橋需要は安定の見通し 部門間連携で効率化推進へ
株式会社IHIインフラシステム
代表取締役社長
上田 和哉 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。2回目は、IHIインフラシステムの上田和哉社長と、川田工業の川田忠裕社長の記事を掲載する。
――2022年度業績は
上田 新設鋼橋の発注は業界全体で15万t台と、21年度よりやや減少した。当社の売上高は745億円、営業利益は58億円で、21年度比で売上高、営業利益ともに前年度を上回り、営業利益は当社設立以来の最高益となった。
ただ、橋梁保全案件と海外案件の失注により、受注高は401億円と前年度比で減少したことから、今年度は受注をさらに強化する必要があると感じている。
――今年度の見通しは
上田 23年度の鋼橋発注は16万tと、22年度と同程度の水準で推移する見込みだ。大阪湾岸道路西伸部事業のほか、高規格道路の4車線化工事にも期待している。発注遅れも想定すると旺盛とはいえないが、安定した需要を見込んでいる。
また、海外の新規案件の入札は現在、地政学上のリスクや為替の変動影響、安全保障上のリスクなどから、慎重にならざるを得ない面もあり、受注にあたってのリスク管理に注力している状況だ。
将来的に南アジアやアフリカのODA案件などの受注増加は想定できるが、今年度は国内の新設橋梁、保全事業を中心に受注を進めていく。
2023年7月に開通したブレイラ橋(発注者:ルーマニア道路インフラ社)
――保全事業について
上田 近年、気候変動に伴う水害などの激甚化や既設構造物の老朽化、人手不足による管理の困難さなど、社会インフラの保全を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした課題を解決し、持続可能で質の高い社会インフラを提供するべく、昨年10月にIHIインフラ建設と吸収分割契約を締結、今年の4月から水門や鉄管と制振、免震、防災に関わる事業を同社に承継した。
これにより、社会インフラの建設時から完成後の長期にわたる維持管理まで、トータルで提案できる体制を強化している。
橋梁保全については、点検業務から補修工事の発注までを支援する統括マネジメントシステム「BMSS」などの提案のほか、新型床版取替機「スフィンクス」を使った効率的な工事施工の提案などに力を入れていく。また、保全工事の提案の幅を広げていきたい。
――設備投資について
上田 昨年、塗装工場が完成したことで、天候による工程阻害影響が軽減でき、工程管理の大幅な効率化につながった。今年度は老朽化対応が中心となる。
このほか、本社敷地内に新事務所が完成し、5月に当社、IHIインフラ建設の事務所を移転・集約した。すでに会社を超えた部門間連携の活発化といった効果が出ている。今後、事業構造改革の加速、成長事業の収益拡大に向け、関係会社も含めた社内の連携強化、人材の交流やノウハウの共有化などを進めていく。
完成した堺新事務所
――今後の取り組みは
上田 長期間の保守点検も含めた橋梁建設の提案には、BIM/CIM活用の推進が不可欠だ。発注者から工事関係者までを含めた関係者間で一つのモデルを共有する体制づくりにより、図面修正などの迅速なシェアを可能とし、将来的には図面に関するやり取りの大幅な効率化を進めていければと考えている。
また、工期ずれの深刻化、輸送費など生産コスト増大への対処として、橋梁製作工程全体の効率化をさらに進めていく必要がある。工場では溶接ロボットによる溶接自動化の適用範囲の拡大など、保有設備を生かした効率化とともに、次工程との連携による省力化にも力を入れたい。
こうした取り組みを進めるには部門間で連携し、現場の課題を共有することが必要だ。新事務所を生かし、部門を超えた社員同士のコミュニケーション活性化にも取り組んでいく。
(聞き手・八木香織、文中敬称略)