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更新・保全事業では受発注者が満足できる形を提案

橋建協 川畑篤敬新会長インタビュー 橋梁流出対策として「ピアレス」を提案

一般社団法人日本橋梁建設協会
会長

川畑 篤敬

公開日:2023.09.04

電子ミルシートは3大鋼材メーカーで対応済み
 「B-map」は国土交通省の道路データプラットフォームと連携

 ――今年度の協会重点活動テーマのひとつとして「現場安全対策の取組み」を挙げています
 川畑 7月には国道1号静清バイパスの工事で桁落下事故が発生してしまいました。国土交通省、事故調査委員会に最大限協力し、二度と事故を起こさないために、原因究明と再発防止対策の実施などを行うとともに、各現場で徹底した安全対策に取組んでいきます。
 ――「DXの推進」も重点活動テーマとなっています
 川畑 DXの取組みは個社の体力により進展度合いが違いますが、協会では業界全体に資することについて推進しています。
 例えば、コロナ禍で遠隔臨場が進みましたが、発注者によってさまざまな要望があります。そこで、協会ではガイドラインを策定して、会員各社が使えるようにしました。
 また、ミルシートの電子化については、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼の3大鋼材メーカーはすべて対応可能となっており、ほとんどの工場で導入されています。形状、材質、成分がすべてデジタル化されていますので、確認や取り纏めが容易になり、合理化が図れています。
 安全面でのDXを広めていきたいという思いもあります。現場作業員の高齢化が進んでいて、今後もその傾向は変わらないと思いますので、長く現場で働いてもらえるように、身体的な能力をDXでサポートしていく形を実現していきたいと考えています。
 ――橋梁台帳システム「B-map」の進捗状況は
 川畑 災害時の橋梁点検に役立つということで協会としても力を入れて取り組んでいます。全国の橋梁データを入力することが課題でしたが、昨年度後半に国土交通省の道路データプラットフォーム「xROAD(クロスロード)」とのデータ連携ができました。現在、データ連携の自動化と点検時のマニュアル作成を行っています。システムの完成まで、できるだけ早く完了させたいと考えています。


B-mapの概要

 ――「i-Bridge適用工事制度」の登録件数は
 川畑 「i-Construction」を進めるための協会独自の制度として、2021年度から開始して、2021年度は41件、2022年度は32件が登録されています。
 ――建設コンサルタンツ協会との設計段階と施工段階のデータ連携実装の進捗状況をお教えください
 川畑 4月に建設コンサルタンツ協会とデータ連携実装に向けた共同宣言を行い、現在はコンサルタント会社が提供できるデータ、橋建協が使用および必要としているデータ、データ仕様などについて、ベンダーを含めて打ち合わせを行っています。
 設計図面データに溶接ロボットや切断ロボットなどに使用できる基礎データが含まれていれば製作段階での合理化が進みますが、コンサルタント会社の仕様によっては合わないものがあります。そのような部分でデータ連携が進めば、より合理的な生産システムとすることができます。また、発注者に納品するときのデータについても、擦り合わせを行っていかなければならないと考えています。


データ連携実装の概要(弊サイト掲載済み)

海外でも日本人ならではの技術と配慮が強みに
 鋼橋の長寿命化がカーボンニュートラルのテーマに

 ――災害に対する取組みでは「ピアレス」という用語で事前対策の重要性を訴えていくとのことでしたが、現在、自治体とはどのような取組みをされていますか
 川畑 以前は、地震を念頭に置いて災害協定を締結したいという自治体が多かったですが、耐震補強が進捗して、その効果が現れてきています。現在は豪雨災害による橋梁流出で、毎年対応している状況です。
 協会では、23の自治体と災害協定を締結していますが、災害対応のひな形をつくって、どの自治体とも同等の内容になる形としています。


災害協定による橋梁被災対応。2021年8月9日からの大雨で落橋。17日には緊急車両が通行可能に

 ――海外展開について、また海外展開にあたって日本の橋梁技術についてどのように考えていますか
 川畑 海外は、クーデーターやテロなどのリスクがあり、個社または日本だけでは対応できないことがありますので、それを見極めながら進めていきます。
 日本の技術は世界でもトップクラスで、海外でも展開できると考えています。長大橋は残念ながら中国や韓国のほうがプロジェクト数が多いこともあり、若干不利な面があります。しかし、都市内の高架橋建設や既存の交通へ与える影響を少なくする施工方法などでは、日本人ならでは技術と配慮があります。海外の至る箇所に古い橋梁があり、劣化しているものも多くなっていますので、その観点からも日本の橋梁技術は十分に戦っていけます。
 その技術を培うためにも、道路整備特別措置法の一部改正で高速道路の料金徴収期間が延長されたことは非常に大きな意味があると考えています。これまでは期限が区切られていましたが、今後は中長期的な視点に立って、計画的に発注してもらえます。そのような市場の中で、改築に関する技術や、短期間で規制を終わらせる等の交通影響を少なくする技術などを開発することによって、海外でもそれらを使えるようになればいいと考えています。
 ――カーボンニュートラルへの取組みについて
 川畑 協会では2023年1月に取組み方針を策定し、その実現に貢献していくことを明らかにしていますが、協会全体というよりも個社で取組みを進めてもらっています。
 鋼橋の場合、鋼材の製造段階で温室効果ガスが発生しますが、それ以降のプロセスではそれほど多くの温室効果ガスは発生しません。それでも、建設するプロセスで再生可能エネルギーなどを活用することは他の業界でも行っていますので、真摯に取組んでいきます。
 同取組みでは、長期間にわたりモノを維持させることによりLCC的な意味で温室効果ガス削減に貢献していくという考えもあります。その点において、鋼橋は非常に有利だと思います。実際に、「アイアンブリッジ」は建設から240年以上経過していますし、国内でも100年以上経過した橋梁が多数あることから、50年、100年単位ではなく、200年、400年単位という考え方に立った「鋼橋の長寿命化」が他の業界とは違う形でのカーボンニュートラルのテーマになると思います。
 かつては防食性の課題がありましたが、現在は技術的に進歩しています。鋼床版も高耐久で疲労に強いものが開発されています。このような技術の組み合わせにより、非常に長寿命化が期待できる鋼橋を開発していくことが、我々にできるカーボンニュートラルの取組みのひとつであると考えています。


100年超の橋梁・南高橋(東京都中央区)1904年建設
関東大震災で被災した両国橋の中央部を補強して1932年に架設(撮影:大柴功治)

明石海峡大橋の主塔の耐風・耐震設計にチームとして携わる
 趣味は“橋梁” 竣工時の地元からの感謝の言葉が喜びに

 ――これまで印象に残っている仕事は
 川畑 明石海峡大橋の主塔の耐風・耐震設計にチームとして携わり、耐風設計は初めてでしたので、非常に勉強になりました。耐震設計では、架設中に阪神・淡路大震災が発生して計算した結果が実際に試されるという、技術者的には非常にドキドキとしましたが、設計が正しいことが証明されて自信を得ました。その後、阪神・淡路大震災の復旧にも携わりました。とにかく早期復旧が求められ、通常の施工ではできないことを体験でき、技術的にもやりがいがありました。
 ――趣味と座右の銘は
 川畑 橋梁が趣味です。前述のように若い頃からやりがいのある仕事をさせてもらい、協会の活動を通じても長きにわたり橋梁に携わってきました。伊良部大橋や気仙沼大島大橋などの橋が完成した時には地元の方にたくさんの感謝の言葉をいただきました。これらは仕事を超えた喜びになっています。
 心に留めている言葉は「Japanese Bridge as No.1」です。日本の橋が今後も世界一であり続けたいと考えています。


気仙沼大島大橋。FC船による一括架設(撮影:井手迫瑞樹)

 ――ありがとうございました
(構成=大柴功治)

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