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更新・保全事業では受発注者が満足できる形を提案

橋建協 川畑篤敬新会長インタビュー 橋梁流出対策として「ピアレス」を提案

一般社団法人日本橋梁建設協会
会長

川畑 篤敬

公開日:2023.09.04

 日本橋梁建設協会(橋建協)の新会長に、JFEエンジニアリング取締役の川畑篤敬氏が就任した。会員の国内鋼道路橋受注量が4年連続して20万tを下回り、事業環境的に厳しい状況が続いている。そのような状況下で、川畑会長は抱負として「鋼橋の普及」「更新・保全事業での課題対応」「働き方改革」の3つを挙げて、「担い手の確保」や「DXの推進」などともに積極的に取組む姿勢を明らかにした。以下、総会後と8月2日に行われた共同会見内容を一問一答形式に再構成した。

長支間化を図れる鋼橋の有利性をアピール
 国土強靱化のための計画的な改修、架替えの推進を提案

 ――新会長としての抱負からお願いします
 川畑会長 第一に、鋼橋の普及に尽力します。残念ながら令和になってから会員31社の国内鋼道路橋受注量が一度も20万tを超えていません。2022年度は約15万tでした。事業環境的に非常に厳しい状況となっていますので、鋼橋のメリットを理解していただき、採用を増やしてもらえるように普及活動を進めていきます。
 第二は、更新・保全事業での課題対応です。大規模更新事業では大規模発注、長工期により技術者の配置に苦労するなど、さまざまな課題が生じています。今後、拡大していく分野ですので、発注者と施工者双方にとって良い事業にできるようにしていきます。
 第三は、働き方改革にこれまで以上に取組むことです。安全を含めて現場の作業環境を改善していきたいと考えています。


国内鋼道路橋 受注量と受注金額の推移(提供:橋建協。注釈なき場合は以下、同)

 ――普及活動での具体的な取組みは
 川畑 新たな取組みとして、「ピアレス」という用語を作り、発注機関にアピールしていきます。近年、豪雨災害により橋梁の流出が相次いでいます。その原因としては、河川内の橋脚の洗掘や桁の位置が堤防よりも低いことが考えられます。とくに建設年度が古い橋梁では河川内の橋脚が多い傾向にあります。長大橋の採用により、河川内の橋脚をできるだけ少なくすること(=ピアレス)で洗掘による橋梁被災を少なくできると考えています。その観点から、長支間化が図れる鋼橋の有利性を訴えていきます。


2020年7月豪雨で被災した球磨川に架かる沖鶴橋(撮影:井手迫瑞樹)

沖鶴橋の復旧イメージ図。被災前は4径間であったが、復旧後は2径間とした
出典:国土交通省九州地方整備局八代復興事務所ホームページ/球磨川橋梁復旧技術検討会資料

同じく2020年7月豪雨で被災した球磨川に架かる神瀬橋
出典:国土交通省九州地方整備局八代復興事務所ホームページ/球磨川橋梁復旧技術検討会資料(下のイメージ図も同)

神瀬橋の復旧イメージ図。河川内への橋脚設置が困難で、適用可能な橋梁形式が限定されたため鋼単純アーチ橋を採用した

 災害という点では、その発生後に要請があれば、協会として直ちに応急橋や緊急組立て橋を架設するなどの対応をしていますが、それはあくまでも災害発生後の対応です。国土強靱化は災害が発生しないように事前に対応していくものであると考えています。そのため、災害が発生する可能性がある危険個所の洗い出しと、計画的な改修、架替えを強力に進めていただけるように提案していきます。
 また、交通渋滞箇所の立体交差化で渋滞が緩和されれば、温室効果ガスの削減にもつながります。4車線化事業も生活の安全、安心を確保するためには不可欠です。これらのこともアピールしていきます。
 ――更新・保全事業での課題に対しては
 川畑 更新・保全工事では、交通規制を行いながら夜間に限られた工期で施工しなければならない現場が多々あり、残業が多くなってしまう現実があります。働き方改革のことにも関係してきますので、新工法を含めたより良い工法を提案しながら、受発注者が満足でき、事業がスムーズに進められる形にしていきたいと考えています。
 中国道の宝塚IC~吹田JCT間のリニューアル工事では、中国池田IC~吹田JCT間を終日通行止めにして施工しましたが、通行止め期間外に高架下で桁を地組して、通行止めと同時に桁撤去と架設を行いました。このような方法を採用することにより、工程の平準化が進められるとも考えています。


高架下で桁とPCaPC床版を地組(撮影:井手迫瑞樹)

働き方改革は特別委員会で情報集約と対策立案
 SNSの活用、出前講座など、若手による広報活動を積極的に推進

 ――働き方改革での取組みは
 川畑 今期から労務賃金改善等特別委員会を働き方改革特別委員会に組織改編して積極的に取組んでいきます。週休2日制は直轄工事ではほぼ達成しています。しかし、前述のように更新・保全工事をはじめとした現場では残業が多くなったり、休日が取得できないといった課題があります。協会では、会員各社の残業時間や週休2日達成割合の調査を行い、取組みが遅れている会社には改善をお願いしています。


橋建協による休日取得実態調査結果

 受注者側だけでの対応では限界もあるので、発注者にも対応をお願いしなければなりません。そのため、情報集約と対策立案を特別委員会で行って、発注機関との意見交換会や協議などを通して、働き方改革が実現できるようにしていきたいと考えています。そうしなければ、担い手も少なくなってしまいます。
 ――担い手確保のためには
 川畑 広報委員会では「みかんプロジェクト」という若手による広報活動を積極的に推進しています。協会のイメージキャラクター「ケン・ブリッちくん」の活用やSNSの活用、LINEスタンプの展開などを行うとともに、小学校出前講座や現場見学会支援といった体験学習プログラムの企画・開催をしています。
 日常的に橋に接する機会を増やして、鋼橋の役割や美しさなどを知ってもらうことが、中長期的にこの業界で働く若手を増やしていくことにつながると信じています。


協会のマスコットキャラクター「ケン・ブリッちくん」/SNSの活用事例「Instagram」

小学生を対象とした現場見学会/小学校出前講座の内容

 ――協会としての課題はありますか
 川畑 協会全体の技術者の年齢分布では30代が少ない一方、20代は増えています。しかし、受注量の減少にともない、若手技術者の育成が課題となっています。土木は経験工学という面が非常に大きいと思いますので、仕事がなければ技術力は高まりません。その意味でも、新設橋、とくに長大特殊橋の建設は不可欠であり、大阪湾岸道路西伸部などのビッグプロジェクトに期待しています。


橋建協会員31社の技術者数

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