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2032年には供用後半世紀を経る路線が全体の5割に達する

NEXCO中日本 中井 俊雄 保全企画本部長インタビュー

中日本高速道路株式会社 
取締役常務執行役員
保全企画本部長

中井 俊雄

公開日:2023.07.31

東富士五湖道路の事例はNEXCO中日本のみ
 盛土の置き換えを本格的に行う必要

 ――東富士五湖の事例は
 中井 東富士五湖道路のような事例は当社のみです。多孔質の火山堆積物地質で形成された地盤の上に過去に火山堆積物地質で盛土を行っており、道路公団時代から陥没や空洞が確認されています。約2年前にも空洞が確認されていて、現在も四半期に1回の頻度でレーダー探査を行って、異常がないかを確認しています。異常があれば緊急通行止めを行ったうえで開削して対策を行っています。細粒分が流出していると想定されているため、盛土の置き換えを本格的にやらなければならないと考えています。


東富士五湖道路の更新事業

 ――置き換えはどのように
 中井 迂回路をつくり交通確保しながらでないと施工できません。局所的に行うのか、ある一定区間を行うのかは今後の検討課題です。
 ――対策区間は
 中井 東富士五湖道路において空洞が発生している区間は、富士吉田IC~山中湖IC付近までとなっていますが、そのなかでも多く陥没や空洞が発生している箇所とそうでない箇所があります。今般、NEXCOの更新計画(概略)の対象とした約4kmは、その中でも比較的陥没や空洞が多く発生している富士吉田IC付近の対策延長となります。

難問 切断合成桁の床版をどのように取替えるか
 覆工再生工 在来矢板工法の損傷部を「NATM化」

 ――床版取替などにおける新技術の導入は
 中井 先ほどお話しした東名阪道の弥富高架橋ですが、対面通行の幅員が確保できないことから、まず下り線で1車線規制の上、幅員を少し拡幅して半断面施工による床版取替を実施し、将来の上り線施工時には下り線を対面通行できるように工夫しています。また、施工にあたっては2台の門型クレーンを使用して撤去と架設を同時に行うことで工事期間の短縮を図ったり、工事で使用する資機材の搬入・搬出を高速道路外側から行うことで、工事車両による渋滞発生要因も排除しています。
 東名酒匂川橋(下り線の左ルート)は橋長約725mの長大橋で、曲線も入っています。そのうちP6~P10を除くトラス橋区間は2019年度から床版取替工事に着手し、4年かけて完了しました。また、今年から下り線の右ルートの施工に着手します。


弥富高架橋の門型クレーン設置・運用状況(井手迫瑞樹撮影)

東名酒匂川橋

 ――残るP6~P10はどのような構造ですか
 中井 鋼4径間連続鈑桁(切断合成桁/123.55m)で、建設時は連続桁で架設して架設後に切断して床版に圧縮応力を導入しています。切断合成桁の床版取替をどのように行えばできるのかを現在、検討中です。

 ――P6~P10間の着手予定は
 中井 施工方法を検討中ですので未定です。

 ――トンネルにおける新技術としては覆工再生工を挙げていますね
 中井 矢板工法で建設されたトンネルで経年劣化による覆工コンクリートのひび割れや背面空洞など老朽化が進んでいるため、トンネル覆工の更新工事を行う必要があります。既設覆工をロックボルトで補強した上で、覆工厚の一部を切削し、防水シートを設置し、切削した分を新たに二次覆工的に打設するほぼNATM化するような再生工法です。施工中の長期通行止めを回避するための覆工用の防護工や施工設備導入など、車線規制による施工方法の技術開発とその実証を2021年4月~2022年10月まで実施しました。その結果、契約した5社いずれの工法も採用可能であることが確認できたことから2023年3月に技術開発が完了したことを発表しています。


覆工再生工の技術開発

 ――大規模更新においては既設合成桁の対応事例も困難なものが多くなっています。先ほどの切断合成桁以外にそうした箇所はありませんか
 中井 中央道の多摩川橋は死活荷重合成桁で、建設時に鋼桁をジャッキアップした上で床版を打設してジャッキダウンをしていたので、床版取替ではその逆(既設桁ジャッキアップ⇒床版撤去⇒既設桁ジャッキダウン⇒PC床版架設)の方法で施工しています。詳細設計の結果、この施工ステップに加え、更なる鋼桁補強が必要なことも判明し、工期が予定よりかなりかかることとなったため、工事に伴う昼夜連続・車線シフト規制期間の2027年上半期までの延長を2023年4月に発表させていただきました。ジャッキアップは床版に入っている圧縮力を抜くために約60㎝行っていますが、鋼桁補強を事前に行った上で施工しています。


合成桁の対策

 ――合成桁における馬蹄形ジベルの撤去事例は。また馬蹄形ジベルがあるか否かの全容把握は行っていますか
 中井 フランジ部の床版を油圧ブレーカーと人力で取り壊した上で溶断する方法やワイヤーソーによる水平切断工法で行っています。馬蹄形ジベルの採用橋梁の全体数量把握はまだ出来ていません。既設合成桁の床版取替を計画する際には慎重に調査していきます。


馬蹄形ジベルの撤去状況

GⅡとBLGを施工時間の余裕に応じて使い分ける
 大規模地震の発生確率の高い地域での耐震補強325橋は工事発注が概成

 ――最近は床版防水において、GⅡではなく橋梁レベリング層用グースアスファルト(BLG)を施工する場合も出てきていますが。どのように施工を分けて考えておられますか
 中井 GⅡは養生期間が長く必要で施工時間がかかるため、夜間通行止めや集中工事では採用できないのが現実です。そのような施工時間に制約を受ける箇所ではBLGを採用しています。最近では今年の4月から5月に実施した名二環(名古屋西JCT~清州西IC)でのはじめての昼夜連続通行止め規制による集中工事で、床版防水にBLGを採用しました。


BLGの施工事例①(名神)

舗装切削と床版損傷状況

WJによるはつり工とBLGの施工状況

 ――今後はBLGに移行していく予定ですか
 中井 施工時間が十分に確保できる箇所はこれからもGⅡを採用します。BLGはGⅡと比較してコストが約1.5倍高いためです。

 ――耐震補強の進捗状況は
 中井 今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の対策重点地域での橋脚補強は325橋となっています。この対策重点地域での対策完了を優先しており、工事発注が概成しています。今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%未満の地域では69橋が対象となっており、現在鋭意設計を進めています。
 支承逸脱対策についても上下線のいずれかを優先して支承の補強や交換等を行っています。対策重点地域の176橋については発注が概成しており、それ以外の地域の69橋は設計を進めています。
 兵庫県南部地震を踏まえて、橋梁耐震補強の3カ年プログラムを推進し、昭和55年以前の道路橋示方書で建設された橋梁の落橋・倒壊を防止するための橋脚補強は2019年度に完了しています。それも含めて、全体では耐震補強は4,673橋のうち4,319橋で完了しており、完了率は92%です。現在進めている橋脚補強が完了すれば、完了率100%となります。


耐震補強対策対象橋梁数

 ――ロッキングピアを有する橋梁の耐震補強は
 中井 ロッキング橋脚を有する当社管理の橋梁は119橋で、2019年度に落橋しないための工事はすべて完了し、2022年度4月には橋台も含めたすべての工事が完了しています。

 ――熊本地震では並柳橋で掛違い部の被災が発生しました
 中井 桁高の異なる掛違い部では水平力分担構造で桁の移動制限をしています。それ以外にも、制震装置を設置している箇所もあります。古い路線では並柳橋のようなトラス橋が多く、とりわけ中央道にはかなり存在しています。


掛け違い対策施工例

 ――掛け違い部を有する橋梁数は把握しておられますか
 中井 熊本地震を受けて補強が必要となる、桁高の異なる掛け違い部を有する橋梁は207橋となります。

 ――とりわけ長大特殊橋の耐震補強の進捗状況は
 中井 長大・特殊橋梁は対策重点地域に31橋、それ以外の地域に7橋あります。31橋については、工事発注が約7割完了しています(工事完了含む)。下の表の「耐震補強」の列が【過年度対策済】と記載されており、「支承逸脱対策」の列が【対策前】と記載されている橋梁は、支承逸脱対策のみがまだできていない状態を示します。


長大・特殊橋補強対策実施例

 ――橋脚は補強済みのようですが、上部工の補強は必要ないのですか
 中井 設計して、部分的に必要な箇所は施工しています。先ほどの表の「上部工補強」の列に【○】がある橋梁は上部工補強が必要です。また、【設計中】と記載されている橋梁は設計の中で、上部工補強が必要かを確認します。

 ――塗替塗装については
 中井 鉛等有害物を含有する塗装を除去する場合には湿潤化による塗膜除去を行っています。剥離剤の中には有機溶媒を含み可燃性や有毒ガスを発生するものがあるので、火災や中毒事故防止対策を確実に行いながら施工しています。基本は剥離剤による塗膜除去ですが、施工条件や施工面積によって循環式ブラストやIH工法も試行的に採用しています。

技術の開発を進める
 アンカー緊張力測定システムや危険度の少ない日常点検車など

 ――点検・補修の新技術について教えて下さい
 中井 点検・調査技術では「VIBRIS(ビブリス)」と「ROAD CAT」の活用を開始しています。「VIBRIS(ビブリス)」はグラウンドアンカーの緊張力を測定し解析する新しいシステムです。1本1本矢倉を組んで引張試験をせずに、小型バイブレータにより振動を与えることで共振させ、その固有振動周波数から緊張力を計測するもので、従来に比べ大幅な省力化が可能となります。


ROAD CAT/VIBRIS

 また、中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京㈱が開発した「ROAD CAT」は、車両を走行させるだけで伸縮装置の変状を検知する日常点検車です。「ROAD CAT」は変状があるか否かを調べるスクリーニングで使用し、「ROAD CAT」で変状を検知したものについて降車点検を行っています。降車して音を聞く作業は危険がともなうため、点検作業の安全性向上と省力化を目的に使用しているものです。

 補修技術としては、中日本ハイウェイ・メンテナンス名古屋㈱が開発した「ハイウェイ・スラブボンド」があります。現場で加熱・溶融することなく、塗布するだけの施工により養生期間を省略できる短時間で安全に施工できる床版防水材です。小面積の補修に適用しています。GⅡの性能はなく、あくまでGⅠ相当と考えています。
 また、中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京㈱が開発したアクアシール防錆剤プラスは既設コンクリート構造物の延命化を目的にシラン系表面含浸材に浸透性防錆材を追加配合した製品で、試験的に採用を行っています。


ハイウェイ・スラブボンド/みはるんだー

 中日本ハイウェイ・メンテナンス名古屋㈱が開発した「みはるんだー」は作業エリア上流の監視エリアに進入する車両を検知し、作業員に通知するシステムです。
 また、情報通信アプリ「みちラジ」の機能拡充も行いました。これまでの「みちラジ」でも進行方向の道路交通情報や所要時間情報、休憩施設混雑情報などをGPSによるお客さまの位置情報をもとにプッシュ型でお知らせしていましたが、お知らせ位置はIC・JCT手前での定点に限定されていました。今回の機能拡充では同様にGPSを使ってお客さまの位置を把握したうえで、事故や落下物、工事規制などの直近事象を1.5~2km手前のお客さまの位置にあわせた任意の場所で情報提供し注意喚起することが可能となりました。東京・八王子支社管内は今年2月から、名古屋・金沢は4月25日から開始しています。高速道路上の工事車両や規制機材等にお客さまが衝突する事故が多発しております。是非、アプリをインストールの上ご活用をいただき、安全運転をお願いいたします。

 ――現在開発している技術は
 中井 環境配慮型コンクリートの導入推進に向けその性能や品質管理に関する技術情報の募集を2022年3月から開始し、23社38製品の応募をいただきました。そのうち、効果の高い18社を選択し、その試行導入に向け、技術情報をもとに2023年1月から技術基準の作成に着手しています。対象は本体工よりも附属物や仮設物に使用することを想定しています。


新たな舗装補修工法開発の取組み/アクアシール防錆剤プラス

 もう1つは新たな舗装補修工法開発の取組みです。舗装深層部の損傷が増加傾向にあることから、舗装を開削することなく補修材料を路面から脆弱箇所に注入する技術の開発に着手しました。コンクリートコーリング㈱および東亜道路工業㈱と共同で開発を進めています。
 ――ありがとうございました

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