道路構造物ジャーナルNET

出版記念座談会

土木学会の景観・デザイン委員会鉄道橋小委員会が『鉄道高架橋デザイン』を発刊

(写真上)
国士舘大学
理工学部まちづくり学系
教授
二井 昭佳 氏

(写真中)
東日本旅客鉄道株式会社
執行役員 構造技術センター所長
野澤 伸一郎 氏

(写真下)
パシフィックコンサルタンツ株式会社
グローバルカンパニー 鉄道部 副部長 兼 橋梁構造室長
池端 文哉 氏

公開日:2023.04.24

柱間隔を短くすることで、回廊のような桁下空間を演出
 スパンを5mに縮める、CFTを使うことで柱を細くした

 ――仙台市営地下鉄の広瀬川橋梁に連続する部分(西公園付近)では、スパンを5m程度に狭めて、柱間隔を短くすることで、回廊のような素敵な桁下空間を演出しています。格好良いとしか言いようがないですね。この柱はCFT工法を用いた一柱一杭基礎と考えていいのですか。
 池端 そうですね。これは清水建設、ドーコン、JR東日本コンサルタンツで辣腕を振るった畑山義人氏(現在は札幌在住)のデザインです。まずスパンを5mに縮めることで柱を細くし、CFTを使うことで更に細くできる構造とし、高架下の空間を広く確保した秀作です。公園を桁下に作ることを前提とした構造です。こうした構造は行政と一体となって計画しないと成立し得ません。



スパンを5m程度に狭めて、柱間隔を短くすることで、回廊のような素敵な桁下空間を演出

 ――そのほかの現代の技術トレンドという事で、今後はコストが多少上がってもプレキャスト/ハーフプレキャスト構造を用いる。防音壁も回折、干渉型を採用して目立たないようにする、耐震補強も土木遺産を損なわないようなやり方を採用することなどが書かれていますね
 池端 その通りです。付け加えて言うとカーボンニュートラルが叫ばれている中で、プレキャスト化は避けて通れないと考えています。例えば南武線連続立体交差化事業の矢向~武蔵小杉間については、プレキャスト部材を用いた施工を進める方針となっています。

 ――プレキャスト製品を使うとデザインの幅も広がるのではないですか
 池端 現場打ちで型枠を工夫したほうがデザインの幅は広がります。ただ、プレキャストはより美しく施工することが可能ですので、それを活かすことも考えられます。例えば柱一つにしたってきちんと鋭角に作れるわけです。今まで場所打ちでなかったようなデザインや見せ方が可能になると思います。
 野澤 桁のプレキャスト化は少し前から取り入れられている区間もあります。等断面のU型のPCプレテンション桁を並べてスラブで一体化したPCU形式高架橋は、つくばエクスプレスの地盤が軟弱な区間で最初に使用されました。施工性がいい他、防音壁の支持に有利なこともあって、整備新幹線でも条件が合う区間に使用されると聞いています。

高架柱や梁をデザインの一環として積極的に取り入れる

 ――とりわけ第3編の鉄道高架橋と桁下空間の幸せな環境を探る、という内容は、こういう考え方があるんだ、と目から鱗が落ちちました。高架下区間の利活用も示唆に富む内容ですね。
 二井 高架下区間の利用については、鉄道が高架化された頃から、倉庫としての利用などかなり行われていました。ただその後、駐輪場や駐車場としての利用など、現在のような積極的な活用はなされない時代が長く続いていたと思います。もちろん、上野のアメ横や神戸の元町、あるいは有楽町のガード下のように使われていたケースはありました。高架下はガード下の飲み屋街というイメージがありますよね。そうした高架下空間に新しいイメージを持ち込んだのが2k540 AKI-OKA ARTISANでした。高架橋の構造を見せるデザインで、こういう洗練された使い方ができるということに多くの人が気づきました。


高架柱や梁を隠すのではななく、デザインの一環として積極的に取り入れる

 ――京急の日ノ出町~黄金町間の高架橋では、歓楽街がお洒落で個性的なカフェや雑貨店などが立ち並ぶ街に生まれ変わり、大岡川の景観と相俟って、市民の憩いの場に見事に生まれ変わってます。万世橋の交通博物館跡地を利用したマーチエキュートもアーチ状の高架下を利用した飲食店が軒を連ね、神田川のウォーターフロント感と相まって、これまた非日常的な景観を作り出しています。取り分けマーチエキュートは昼と夜とで全く景観的な雰囲気が違います。これを見ても高架下空間のデザインの面白さが分かりますね。
 二井 高架下の「街」の作り方は、実は高架橋自体のデザインに左右されるのではと思っています。


京急日ノ出町~黄金町間の高架下を利用した街並み① 大岡川を利用した演出が光る

京急日ノ出町~黄金町間の高架下を利用した街並み② 
芸術を奨励するような施設や店舗が入るほか、レンタサイクルなども行っており、移動の便も図っている(右3枚は井手迫瑞樹撮影)


京急日ノ出町~黄金町間の高架下未利用箇所 3柱式の高架橋であることが分かる(井手迫瑞樹撮影)

 反復を読み取りやすい高架構造では、その繰り返しをうまくデザインに取り入れる高架下空間がデザインされることが多いのです。本書でも紹介しましたが、2k540 AKI-OKA ARTISANでは、高架橋の構造が東側と西側とで異なっており、柱による反復を読み取りやすい高架構造の方では、高架下空間の施設が柱よりも内側に配置されているのに対し、そうでない高架構造の方では柱よりも外側に施設が飛び出しています。 


東武伊勢崎線高架下と北十間川の景観を利用した『東京ミズマチ』

 同様に墨田区にある東武伊勢崎線高架下と北十間川の景観を利用した『東京ミズマチ』では、反復する高架柱の、柱の内側に建物がしまわれていて、建物を主張するのではなく、柱の反復をむしろ主張するようなデザインになっています。
 先ほども言いましたように連続立体交差化事業は、自治体がかなりの費用を負担しています。ただこれまで自治体側からコストを抑えてほしいという要望は出てきても、高架下をどのように活かしたいかという要望は少なかったと聞きます。鉄道高架下をうまく利用することが、自分たちの街の魅力を高めることができることが認知されてきましたので、連続立体交差化事業の際にまちの魅力を高める高架橋が必要というリクエストを出してくれると、鉄道会社としてもデザインに力を入れることができます。またあらかじめ高架橋を活かしたまちづくり構想をまとめておくと、高架下空間の整備による波及効果を高めることができます。
 例えば、東京ミズマチは、当初はそれほど高架下空間の利用を積極的に行う考えはなかったようなのですが、区や地域と議論するなかで、浅草とスカイツリーを結ぶ空間として位置づけることで台東区と墨田区の人の行き来を促進することができるし、ビジネス的にもチャンスが出てくるとの考えに至り、現在の東京ミズマチが生まれました。東京ミズマチでは、隣接する川と公園と一体的な空間になるようデザインしていることで大きな効果を生んでいると思います。

連続立体交差化事業を機会にしたまちづくりでは隣り合う空間の利活用も大事
自治体や民間の土地所有者と一体となってまちづくりを行う方が魅力的な街になる

 ――鉄道高架橋の高架下デザインにおいて提案主体は鉄道会社になるべきですか。
 二井 新しく連続立体交差化事業を進める場合は(自治体側でも鉄道会社側でも)どちらからでも良いと思いますが、鉄道会社が主体的に使えるのはあくまで高架下だけですから、その隣接地の土地を有する自治体や民間の土地所有者と一体となってまちづくりを行う方が魅力的な街になると思います。
 本のP157に載せているスイス・チューリッヒの事例では、公園と隣接する鉄道高架区間の高架下空間が店舗として利用されています。これにより、食事をするお客さんからすれば、公園の緑を眺めながら食事を楽しむことができますし、カフェからしても魅力的な庭付きのお店を手に入れたことになります。また公園には遊具もありますので、食べ終わった子供は親の目の届くところで自由に遊ぶことが出来て、親ものんびり過ごすことができます。このように高架下空間を活かしたまちづくりでは隣り合う空間の利活用がとても大事なのです。

チューリッヒ
スイス・チューリッヒの事例

 日本でも、杉並区などのように高架化(JR中央線高架下)を活かしたまちづくり計画を立案する自治体も出てきています。これも国内において鉄道高架下を利用したまちづくりの成功例が積み上がってきているからだと思います。
 本で取り上げた事例はほとんど関東の事例ですが、関西でも阪神電車の鳴尾・武庫川女子大学駅前において、武庫川女子大学の機能の一つを『武庫女ステーションキャンパス』として、活用し、カフェなども併設しているなど、高架下を活用する新しい事例が増えてきています。
 野澤 鉄道会社は鉄道敷しか所有していません。鉄道高架橋を核として周辺も巻き込んだ魅力的なまちづくりを行うためには、早期から行政やその地域に住み人々と合意形成して行くことが大事です。
 二井先生が言われていた杉並区の事例は中央線の三鷹~立川間の連続立体交差化の高架下を利用したまちづくりの成功に触発されて、昔建設した中野~三鷹間の高架下も同様に活用しようといった発想から区が取り組み始めたのではないかと考えます。
 二井 市町村から見ると鉄道会社に要望を出すのはなかなかハードルが高いように見えます。当初は、鉄道会社から議論を促した方が良いのかもしれませんね。
 野澤 高架化というのは、当然ですがその土地にとって初めてのことになります。完成後の状況を地元の方がイメージし辛いというところはあり、高架化の形がある程度明らかになってから、自治体からの要望が出てきます。これをもっと早くから景観やまちづくりを話し合えるようにすることがポイントではないかと思います。

今後の駅前の利活用は「様々なついで」が行える場所にすべき

 ――行政や地域住民の方々と鉄道会社を繋ぐプランナーのような人材がもっと出てくればいいのでしょうね。
 池端 それが我々コンサルタントの役目だと思っています。
 二井 これから連続立体交差化事業が始まる都市はまだあります。例えば沼津でも計画が進められていると聞きます。地方都市でも中心部では高架下空間を積極的に活用しまちづくりに活かすことはできると思います。野澤さんのおっしゃるように早い段階から自治体と鉄道会社の議論を行うことが大切だと思います。

 ――商業的な使い方だけでなく、働く人のニーズを考えた(保育園や放課後児童クラブ、もしくは医療・福祉関係など)施設を高架下に集めて、働きやすくするという三鷹~立川間の高架下の使い方のようなケースも、今後は示唆に富むのではないでしょうか。
 二井 そうですね。かつての駅前は商業としての一等地でしたが、車社会化の地域では駐車場を確保しにくいこともあり、むしろ商業施設は大きな駐車場を確保できるバイパス沿いに立地しています。ですので、今後の駅周辺は「様々なついで」が行える場所にすべきでしょう。市役所や病院、図書館などの公共施設を駅前に設ける自治体も増えています。高架下はそうした活用ができると思います。(通勤に使う方が多い)JR中央線三鷹~立川間も南武線でも実際にそうした働く人のニーズに応じた施設が景観性を考慮しながら入っています。沿線の特徴に合わせることが重要でしょう。


今後の駅前の利活用は「様々なついで」が行える場所にすべき(写真は三鷹~立川間高架橋)

 ――そうした箇所では子供や老人が使用する施設が多く、歩行者の安全性をより重視した景観や高架下の使い方を模索せねばなりませんね。
 野澤 そうした点を最初から課題として提示できるほど成熟していけば、高架橋のデザインそのものも、例えば桁下の歩行者の安全性により配慮したスパン割や橋脚幅にするなど、より良い連続立体高架橋を建設することが出来ると思います。

前よりも良いものを作り出す
 鉄道高架橋は「走行車両とセットになった」景観が必要

 ――本の総括と今後の課題について
 野澤 東京駅付近の中央線高架橋を皮切りに鉄道高架橋デザインの良い事例を集めることが出来ました。これにより鉄道高架橋に大きなまちづくりも含めた景観デザインの可能性があることが理解できました。
 景観的に阻害要因だと考えていた電化柱などもうまく使えばデザイン上も成り立つと示せたのは良かったと思っています。それを都市デザインや鉄道技術者にも理解していただき、みんなが早い段階から鉄道高架橋のデザインを考えることによって、日本全体の鉄道高架橋の可能性を示せたのが大きな研究成果だと考えています。また防音壁の景観面に寄与する改良などは進めていきたいと考えています。
 池端 設計者の観点から申しますと、鉄道高架橋は100年供用されていきます。そうした重要構造物のデザインに責任を持つ重要性をこの本を制作していく中で強く感じました。
 二井 まちづくりの景観デザインを行うに際しても必要なのは「前よりも良い場所をつくる」ということだと思います。鉄道連続立体交差化事業の一義的な必要性は踏切除却ですが、一方で圧迫感を作りだしてしまうという負の側面もあります。その中で具体的な成功事例を通して、高架橋の桁下空間を利用したまちづくりを示す本を作れたのは大きな成果です。
 また、単に鉄道高架橋のデザインだけを議論するのではなくて、鉄道高架橋の良い設計とは何かということも追求している本になっているのも特徴です。

 ――最後に「鉄道高架橋の美学」の追求について
 野澤 鉄道高架橋は高架橋だけでは完結しておらず、外から見る人にとっては走行車両とセットになったものが『景観』といえます。そうした、見せ方を追求するにはどうすればよいかという事を今後も技術開発を通じて、より格好良く見せられるようにしていきたいと思います。
 ――ありがとうございました

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