道路構造物ジャーナルNET

鉄道交差や下水処理場、淀川との離隔などを考慮しながら慎重に施工

2023年新春インタビュー② 阪神高速大阪建設部 淀川左岸線(2期)、同延伸部の建設にまい進

阪神高速道路株式会社 建設事業本部 大阪建設部
大阪建設部長
北澤 俊彦 氏(左)

事業調整担当部長 
坂井 康人 氏(右)

公開日:2023.01.01

 阪神高速道路 建設事業本部大阪建設部は、淀川左岸線延伸部のトンネル区間7.6km、供用中の淀川左岸線を結ぶ区間(淀川左岸線(2期))4.4kmの建設を進めている。淀川左岸線延伸部のトンネルは大深度地下で2本のチューブの離隔が最小2m程度しかないという難工事で、さらには地震への対策も取らねばならない。また、2期事業は2025年に開催される大阪・関西万博会場へのアクセス向上のメニューの一つとして期待されている。そうした内容について、大阪建設部 北澤俊彦部長と坂井康人事業調整担当部長に詳細を聞いた。

大阪建設部事業箇所(阪神高速道路提供、以下注釈なきは同)

淀川左岸線延伸部 事業延長は8.7km
 同(2期)は、海老江JCT付近および豊崎入路付近の本体工事を大阪市から受託

 ――阪神高速道路が一部建設を担当している淀川左岸線延伸部と同(2期)の概要から教えてください
 北澤部長 淀川左岸線延伸部については、事業延長は8.7kmになりますが、当社の事業区間は国土交通省と共同事業として実施する区間を含め延長は7.6kmになります。それに加えて、供用中の淀川左岸線を結ぶ区間(淀川左岸線(2期))が4.4kmとなります。これも当社としての単独事業区間は海老江JCT付近の0.1㎞で他は全て大阪市との共同事業区間であり、当社は現在、海老江JCT付近と豊崎入路付近の本体工事を、大阪市から受託して施工しています。

淀川左岸線事業箇所

 路線別にもう少し詳しく説明していくと、まず淀川左岸線(2期)は開通済みの淀川左岸線を介して5号湾岸線と淀川左岸線延伸部を接続し、大阪都市再生環状道路(延長約60km)の一部として、ネットワークを形成する路線です。整備効果としては、都心に流入する交通を周辺に分散させることにより、都心部の渋滞緩和、利便性の向上、事故および災害時などの迂回路機能の確保、臨海部と内陸部の物流ニーズなどに対応し、関西経済の活性化の支援につながる効果が期待されています。「2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)へのアクセスルートとしての利用を目指す」という大阪市の方針のもと、阪神高速道路としても万博開催に向けて積極的に協力して事業を推進しています。国土交通省が発表している「2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)に関連するインフラ整備計画」の5つの柱のうちの「会場へのアクセス向上」のメニューの一つとして、淀川左岸線(2期)整備が記載されています。
 起点は大阪市此花区高見(海老江JCT)、終点は大阪市北区豊崎(国道423号(新御堂筋)接続部)となります。構造別では、トンネルが3.9kmと大部分を占め、高架橋0.3Km、土工・擁壁0.2kmとなります。
 同事業は2006年9月に公共事業(大阪市)と有料道路事業との合併施行方式を導入しました。道路本体構造物施行は、大阪市の街路事業が大部分を占めており、阪神高速道路は、主に舗装と設備の一部の施行区分となります。ただ、道路本体構造物については一部を大阪市から受託し、阪神高速道路が工事を進めています。海老江地区および豊崎地区の工事(開削トンネル・土工擁壁・橋梁・換気所)で、開削トンネル工事や橋梁工事などを実施中です。
 淀川左岸線延伸部では延長8.7kmですが、東側1.1kmはNEXCO西日本施行区間で、阪神高速道路施行区間(国との合併施行区間含む)としての起終点は大阪市鶴見区緑地公園から大阪市北区豊崎(淀川左岸線(2期)接続部)となります。延長は7.6kmで、すべてトンネル構造です。
 2017年4月に国との合併施行方式により事業化しました。2019年1月に淀川左岸線延伸部技術検討委員会を設置して、審議をいただいています。2020年2月には中間とりまとめをいただき、大深度地下の特定等を公表いたしました。豊崎側は、淀川堤防との一体構造(2期も同様)となり、淀川左岸堤防区間に関する技術検討委員会を2020年9月に設置して、堤防との一体構造物の安全性等について学識者から意見をいただいております。いずれもトンネル構造、施工方法等について現在も検討中です。現在、本体工事着手に向けて、2020年3月契約済みの地中障害物撤去工事を実施中です。
 主なトンネル設計検討内容は、大深度地下区間でのシールドトンネル設計手法、シールドトンネルの併設影響、堤防と道路構造物を一体とした場合の安全性の照査方法などです。
 淀川左岸線延伸部は、2期と同じ幅員構成で、トンネルの外径が約13mで計画しています。

延伸部 シールドトンネルの3本併設区間も出てくる
 東京外環の地表面陥没等事象の調査報告書を参考に、今後の設計を行う

 ――シールドトンネルの併設影響とは
 北澤 東行きと西行きで別のシールドトンネルになりますし、大阪府の地下河川のシールドトンネルも横にあるので、3本併設区間が出てきます。
 ――大和川線のように横に併設する形ですか
 北澤 大部分が横に併設する区間ですが、一部縦に併設する区間もあり、トンネル間の離隔は約2mしかありません。また地下河川は西行きの南側にあり、これに対する影響も慎重に検討する必要があります。
 ――大和川線では、地震の変位によるシールドトンネルのセグメントを工夫しなければならないという話があったと思いますが、延伸部での工夫は
 北澤 同様に、耐震設計についても、現在も検討中です。
 ――シールドの離隔が約2mしかない中での掘削の仕方と、東京外環で地表面陥没が起きたことによる上の地盤に対する配慮は
 北澤 東京外環の地表面陥没等事象の調査報告書を参考に、今後の設計を行います。そうした報告書や新たな知見、新たな情報を分析、検討して課題が生じた際は事業者間で調整を行った上、必要に応じて有識者による委員会において議論を進めていく予定です。

開削トンネルは海老江JCT付近の335m、土工・擁壁区間が173m
 大規模な仮桟橋を仮設
 

 ――淀川左岸線(2期)事業の全体調整を行っているとのことですが、阪神高速受託区間の構造物詳細と進捗状況を開削トンネル部及び土工部から教えてください
 坂井事業担当調整部長 弊社受託工事の最初の発注が「海老江工区開削トンネル工事」(鹿島建設)となります。開削トンネルは海老江JCT付近の335m(2BL~7BL)、土工・擁壁区間が173mとなっています。開削トンネル部の構造は全幅員が22m(標準断面)、高さが9mです。


海老江地区の工事概要

 ――海老江JCT付近の構造物は複雑ですね
 坂井 海老江JCTは海老江下水処理場内に整備されるJCTで、2013年5月に2号淀川左岸線(淀川左岸線(1期)区間)が供用した際に3号神戸線と2号淀川左岸線の渡り線ができています。淀川左岸線(2期)が完成すれば、3号神戸線と淀川左岸線(2期)のアクセスができると共に、海老江北出路も新たに設けられます。また、淀川左岸線(2期)と淀川左岸線延伸部の両方が開通することで、大阪都心部の通過交通の交通量が現在の10万台/日から7万台/日に減り、混雑の緩和に繋がります。さらに、臨海部と内陸部のアクセスや、都心北部とUSJや関空などとのアクセスが向上します。またルートが増えることで交通の冗長性確保にも寄与します。


海老江JCTの構造物概要と完成イメージ

海老江工区の鋼製橋脚(井手迫瑞樹撮影)

 ――開削トンネル区間は大規模な仮桟橋を構築していますね
 坂井 今年の2月頃から構築をはじめ、開削トンネル施工における掘削の進展と同時に西端部から延長しており、10月に全ての工事用仮桟橋仮設を完了しました。延長は開削トンネルと一部擁壁区間を含む約370mとなっています。十分な幅員を有する2か所の乗り入れ部があり、桟橋本体の幅員も、土砂を運ぶ大型ダンプカーや重機が安全にすれ違いできる幅員を確保することで作業の効率化を図っています。


工事用仮桟橋(井手迫瑞樹撮影)

仮桟橋上面 2か所の乗り入れ部があり、桟橋の幅員も大型車両が十分すれ違うだけの広さを有する(井手迫瑞樹撮影)

 ――仮桟橋の高さも相当ありますね
 坂井 GLより6~7mの高さに設置しています。これは海老江JCTの橋梁部に接続するため、開削トンネルの坑口がGLより3~4mの高さに上がる構造になってしまうため、それとのリフレクションを避けて掘削や配筋、コンクリート打設を行うようにするため、この高さとしました。
 ――杭長も相当長いようですね
 坂井 15~20mのH鋼杭を用いています。淀川左岸線は本現場に関わらず、地盤が軟弱であるため地盤改良を行ったうえで施工しています。特に国道2号や鉄道との交差部などでは、支持地盤に非常に注意を払わなくてはいけないため、圧密抑制(固結工法)・高圧噴射撹拌・薬液注入などを用いた地盤改良を施しています。
 ――掘削量も大変な量のようですね
 坂井 当社が担当する海老江工区付近だけでも8万㎥ほどが発生します。全体では100万㎥に達します。当現場では1日1台当たり200㎥の掘削能力があるテレスコアーム掘削機を4台使用しています。


テレスコアーム掘削機を用いて施工し、ダンプで搬出する(井手迫瑞樹撮影)

 ――今後の見通しは
 坂井 開削トンネル部については来春までに掘削を完了し、床付けコンクリートの打設が開始できると考えています。
 ――本体構造物の鉄筋配置やコンクリート打設、品質管理面で気を付けていかなければいけない点はありますか
 坂井 開削トンネル部ではコンクリートの総量が24,890m3程度あり,一日の最大打設量は1,500m3にもなります。工事用仮設桟橋を有効活用して施工を行っていく予定です。また,品質面ではボックスカルバートの温度応力解析を実施し,有害なひび割れが生じないように配合変更やひび割れ抑制鉄筋の追加などを適宜行っています。

擁壁の側幅員は29m 阪神電鉄の桁があるため空頭に乏しい現場での施工
 中掘鋼管杭工法と回転杭工法を採用して施工

 ――擁壁部については
 坂井 阪神電鉄との交差部についての施工が非常に難易度の高いものになっています。
 同交差部は、本線およびB、Cランプが通過するため、擁壁の総幅員が29mとなります。Bランプおよび本線は鉄道部橋脚間、Cランプ部は橋脚と堤防法面の間に構築されます。
 ここで課題となったのは鉄道基礎への影響とGLと鉄道桁下の空頭の乏しさです。


阪神電鉄との交差部(井手迫瑞樹撮影)

 ――具体的には
 坂井 まず阪神電鉄の橋脚基礎(ケーソン)は昭和40年代に構築されており、それに影響を与えないよう擁壁基礎の地盤改良を行わなくてはいけません。さらに、現場の基礎は非常に軟弱なため、阪神電鉄周囲に約100本の支持杭を必要としました。しかも杭長は約30mもの長さとなります。
 ――空頭は
 坂井 阪神電車桁下の最も狭いところで約6.2mしかありません。


空頭制限の厳しい箇所での施工を余儀なくされた

 ――それは……きついですね
 坂井 きついです。杭は回転杭と中堀鋼管杭を採用しました。
 空頭が非常に制限されているため、杭1ロット当たりの長さは最も厳しいところで2.0mに制限せざるを得ず、極端な空頭制限下でも施工できる回転杭工法と中掘鋼管杭工法を採用して施工しました。
 ――鋼管の継手構造はどうしたのですか
 坂井 強度を考慮して溶接継手を採用しています。
 ――夥しい継手量ですね。現場の苦労が容易に想像できます。擁壁部の現在の進捗状況は
 坂井 地盤改良工、掘削・支保工は完了しており、2022年度から躯体構築に入っています。進捗率(工事進捗率、以下同)は約67%(2022年11月末現在)となります。
また、「海老江換気所新築その他工事」(青木あすなろ建設)は土留工、基礎工が完了しており、現在は換気所の建設工事に入っています。進捗率は約54%(2022年11月末現在)です。換気施設の高さは最高40m程度にも達します。


海老江換気所完成イメージ

海老江換気所の施工状況(井手迫瑞樹撮影)

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