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川田琢哉社長インタビュー

川田建設 創立50周年を機に「那須トレーニングセンター(NTC)」を建設

川田建設株式会社
代表取締役社長

川田 琢哉

公開日:2021.11.30

JH発注張出し架設案件初実績は九州道球磨川第3橋
 橋を作る会社の責任として、橋を守らなければならない

 ――一方、50年を振り返ってみて、御社のエポックとなった橋梁工事について
 川田 九州縦貫自動車の球磨川第3橋です。本社が設立されてから15年、初めて日本道路公団発注の張出し架設案件を受注することができました。同橋は橋長480m(幅員9m)の6+5径間連続ラーメン箱桁橋です。双子型のトラベラーを用いたPCケーブルによる張出し架設を行いました。また、本四の長大吊橋については、ケーブル架設工事に従事させていただきました。

球磨川第3橋(川田建設提供)

 ――PCファブとしてプレキャスト工場を建設したのは
 川田 1992年に那須工場を建設し、プレキャストコンクリートにも乗り出しました。現在は大分にもPC工場を有しており、東西2工場体制を敷いています。
 ――川田建設は1993年に橋梁補修補強の専門部署を設けるなど保全へも非常に古くから取り組んでいます。なぜこうした取り組みを古くから為すことができたのでしょうか
 川田 川田グループ全体として橋梁保全の専門会社を作ったのは1986年のことです。当時の新聞記事を見たことがあるのですが、「橋を作る会社の責任として、橋を守らなければならない」と書かれていたことを記憶しています。利益を求めずに、『儲けより社会的責任』という考えでやっていきました。中京メンテナンスと綜合メンテナンスという2社があったのですが、これはのちに現在の橋梁メンテナンスに合併され、今日に至っています。
 当社としては首都高速道路とのお付き合いの中で補修のお手伝いを始める形で専門部署を創設しました。
 ――首都高速だけでなく当時の耐震補強や橋梁保全工事はコスト的に非常に厳しく、橋梁ファブが立ち上げた保全専門会社は軒並み苦闘の末、撤退したことを覚えています
 川田 富山の会社は我慢強いんですよ(笑)。でも技術を途切れさせずに研鑽した結果、現在では立派な柱になっています。
 ※当時の川田建設には、首都高速道路公団で保全を統括してきた飯野忠雄氏が在社していた。同氏が都市高速道路の保全ニーズやノウハウを伝えた。他社が大きな赤字を出す中、同社が保全事業を継続できたのは同氏の指導によるところも大きいと考えられる。

阪神大震災 2か月弱の工期で26基の橋脚を補修補強
 KK合理化継手を初採用した明治山第2橋

 ――保全面でエポックになった工事は
 川田 耐震補強工事では、阪神淡路大震災で被災した国道171号池田高架橋です。
 1995年の1月17日に起きた同地震で被災した高架橋の橋脚を3月末には補強するという極めて短工期(※2か月弱!)の現場でした。
(例:https://www.kawada.co.jp/technology/gihou/pdf/vol15/15_shinsai05.pdf)同橋は橋長626mの高架橋ですが、26基の橋脚の全橋でクラック注入し、4基でRC巻立て、5基で鋼板巻立て、4基で支保工による仮補強を行いました。
 大規模更新工事では、沖縄自動車道の明治山第2橋がエポックといえます。同橋では標準設計であるループ継手を変更し、KK合理化継手を初めて適用していただけました。KK合理化継手は今や当社の大規模更新における大きなアドバンテージとなっています。

明治山第2橋床版更新工事(川田建設提供)

 ――こうした保全分野の強みをどのように生かしていきますか
 川田 保全分野はそもそも専門会社からの流れで、専門部隊に属している人間がずっと保全を見ていました。首都高速道路の保全工事がほとんどでしたので、かかわる人間も限られていました。しかし、阪神淡路大震災という大災害が生じ、その轍を踏まないための耐震補強工事が広がり、技術者を増やす必要があったことや新設の減少にかかわるシフトの必要性もあり、今では新設と保全、両方に携わるチームを組んで、案件に取り組んでいます。
 ――保全の技術を新設にフィードバックすることも進んでいますね。先日取り上げた東海北陸道の新設橋では大規模更新にも適用できる新しい床版架設機でプレキャストPC床版を架設していました
 川田 保全のノウハウは新設橋梁の提案力向上にもつながっています。とりわけ、供用後も補修補強のしやすい橋梁を提案するよう、心がけています。

新開発した床版架設機(井手迫瑞樹撮影)

 ――ここ数年のPC業界を取り巻く環境と中長期的な新設と保全の分野的なトレンドをどのように考えていますか
 川田 当社において新設は200億円以上と堅調ですが、これは北陸新幹線などの要因が大きく、(受注の大半を占める)道路橋分野の新設発注は高速道路4車線化・6車線化などの需要はあるものの、今後減少していくことが見込まれます。一方で、保全の売り上げに占める比率は上がっており、およそ3分の1を占めるまでに至っています。その中でも大規模更新は昨年度70億円を占め、耐震補強をついに超えました。この状況は今後も続くと思われ、4車線化・6車線化の動向も反映しながら、引き続き保全の比率を高めて安定的な経営を目指します。

北陸自動車道庄川橋床版取替工事(井手迫瑞樹撮影)

 ――大規模更新現場の増加からプレキャストPC床版の製作がひっ迫する事態も懸念されていますが
 川田 それは少し誤解があって、PC建協の調査では、協会加盟PC工場の操業率は、実は5割程度となっています。

施工の省力化と個々の能力向上による効率化を進める
 安全面 音声認識AI技術を用いたヒヤリハット活動支援技術

 ――なるほど。では御社がより大規模更新工事を受注するために、どのような投資を行っていますか
 川田 現在、工場の生産能力はありますが、技術者がひっ迫しており、そのため一定以上の新規受注にトライアルできないという状態になっています。それを解決する方策としては、床版架設機械の開発など現場の省力化を図ること、次いで技術者および、協力会社など技能者の教育訓練を行うことにより、より能力を向上させ、1つの案件をより効率的に施工して、新たな発注案件に対応する余力を作り出したいと考えています。
 ――春秋の集中工事期間の施工とは別に分割施工による施工の通年化を図る現場も出てきています
 川田 分割施工による取り組みは、当社は少し出遅れていましたが、今度、長野自動車道の中曽根川橋の床版取替で、上下の車線数を確保しつつ、床版を2断面に分割して取り替える施工を行う予定です。
 ――これから技術投資すべき分野について
 川田 安全は全てに優先します。そのため特に現場での安全性を高めるべく、ICT機器の導入や自動システム化などを進めてきました。今後もそうした先端技術を取り入れていきます。また、「働き方改革実現」のためにも現場や工場の省力化につながる投資を続けていきます。
 ――安全面での具体的な技術投資を例示してください
 川田 「音声認識AI技術を用いたヒヤリハット活動支援技術」です。従来からヒヤリハット活動における情報収集は紙に書くのが煩わしい、報告の内容と書式がばらばらでまとめづらいなどの難点がありました。これをクラウドを使った同技術を開発したことで、改善したものです。具体的にはタブレットに音声入力ができ、さらに書式もプルダウン方式のため統一できます。また、クラウド方式のため、タイムリーに利活用できるなど、非常に使い勝手の良いものになっています。

機械技術開発室を新設し、従来手作業で行っていた部分を機械化
 残業を減らすが、給料は減らさず、少しでも上げていく

 ――働き方改革実現という点をより具体的な技術投資を例示してください
 川田 「BridgeStudio powered by NavVis technology」です。最初は、東日本高速道路仙台管理事務所管内の東北道迫川(はさまがわ)橋床版取替工事で実際に使用しました。橋体すべての点群データと主要な箇所の画像データを短時間で取得し、数日後には関係者間で3DVR化された現場情報のWebページでの共用を可能にするものです。設計担当者は工事着手前の現地確認を行ったのみで、その後の段階確認においては、現場管理員に写真の撮影や計測を的確に指示することが出来たため、出張などの手間を大きく減らすことができます。

BridgeStudio powered by NavVis technology(川田建設提供)

 工場における製作面では、那須工場でコンクリートのサイロを1つから2つに増やしてより様々なコンクリートを同時に使えるようにしました。
 また、機械技術開発室を新設し、従来手作業で行っていた部分を機械化することにも努めています。例えばプレキャストPC床版を製作するに際して、凝結遅延剤をハイウォッシャーで洗い流す必要がありましたが、従来は手作業で行っていました。これを自動的に機械で行えるようにした結果、現在では夜間でも自動作業が可能となり、床版の製作効率が格段に向上しました。
 ――ポストコロナの働き方改革については
 川田 例外的な規定であった在宅勤務を制度化しました。同制度については今後も拡充し、働きやすさを追求した環境を構築していく所存です。産休・育休や時短勤務なども一層の拡充に努めていきます。
 ――最後に今後の50年を見据えた施策について
 川田 脱炭素などの環境問題には真剣に取り組んでいきます。また、「残業を減らすが、給料は減らさず、少しでも上げていく」ことに努めます。そのためには社員の生産性を上げ、時間当たりの利益を上げることが急務です。それを成すためにも今回新しく造ったNTCを拠点として全社的な人財の底上げに努める教育を推し進めていきたいと考えています。
 ――ありがとうございました

将来の相棒?(NEXTAGEと2ショット)(井手迫瑞樹撮影)

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