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弾性合成桁という考え方を取り入れ連続合成桁の床版取替えを容易にする

「連続合成桁橋における床版取替え技術の現状と展開」を発刊

土木学会 複合構造委員会
床版取替えにおける既設合成桁橋の設計・施工技術に関する研究小委員会
委員長

大垣 賀津雄 氏

公開日:2021.10.18

 土木学会複合構造委員会床版取替えにおける既設合成桁橋の設計・施工技術に関する研究小委員会(委員長=ものつくり大学大垣賀津雄教授)は、複合構造レポート17「連続合成桁橋における床版取替え技術の現状と展開」を発刊した。単純合成桁の床版取替えは徐々になされているものの、連続合成桁における床版取替えは、中間支点付近のプレストレスの有無などの課題もあり、解析や設計上の計算が難しく、手を付けられずにいる現状がある。今回、そこに「弾性合成桁」という考え方を提案することで、連続合成桁の床版取替えを容易にしようということが目的だ。大垣委員長にその詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

連続合成桁 現状では無理な設計・施工が生じてしまう可能性も
 弱点の上フランジ、ずれ止めの配置の問題などに弾性合成桁の考え方を提示 

 ――まず本書をまとめた動機から教えて下さい
 大垣委員長 私の研究テーマであり、一番思い入れのある構造形式が合成桁です。合成桁形式は古くから様々な先生方が研究されていますが、その成果はまとまっていない状態にあります。特に連続合成桁の場合、様々な形状、タイプがあります。中間支点上のプレストレスの有無であるとか、ひび割れを制御する方法の有無であるとか、そうしたことは意外と知られていません。また、部分合成桁、断続合成桁、弾性合成桁など連続合成桁でも様々なタイプがあることも周知されているとはいいがたい状態にあります。
 現在、高速道路会社を中心に合成桁においても床版取替えを伴うリニューアル工事を行っていますが、連続合成桁は施工時においても、リニューアル完成系においてもさまざまな課題を有しており、リニューアル後に合成桁化、非合成桁化いずれを目指そうとも現在の合成桁の課題を知らなければ、無駄な補強あるいは無理な設計・施工が生じてしまいます。それを「弾性合成桁」という形式を中心にどうにかしようと考えました。
 ――本は6章構成になっていますね
 大垣 第1章で「合成桁の概要」、第2章で「合成桁橋の床版取替え工事の実績調査」、第3章でプレキャスト床版同士および桁と床版の「接合構造」、第4章で「床版取替えの概要と合成桁橋の床版取替えにおける課題」、第5章で「床版取替え時の主桁の補強法」。第6章で「合成桁の評価と弾性合成桁」についてそれぞれ記しています。また巻末の資料では床版取替えを行った合成桁52橋について調査した結果も記載しています。

9月中旬には本書を用いた講習会も開催した

委員構成と章立て(以下注釈なきは大垣氏および同委員会提供)

 ――より具体的な狙いは
 大垣 
まずは既設合成桁がどのようなものかを整理しました。また、床版取替えにおける補強についても懸念を持っています。合成桁は鋼桁部分とりわけ上フランジが弱いため、その座屈に対する課題やB活荷重対応できていないことに目をつぶっている合成桁の現状などいろいろ懸念材料があります。そうしたものをどう補強するかというのも詳しく記しました。



 その2点に加えて、プレキャストPC床版を載せた場合にずれ止めが十分配置できていない課題があり、道路橋示方書(以下、「道示」と記す)を守れない合成桁というのが、出てきています。それらについて正しい解を提言したかったということもあります。我々はそれを弾性合成桁と呼称しています。リニューアル工事において、床版取替え後の構造を弾性合成桁化する設計にすれば、ずれ止めが少なくても設計上成り立つ、というものです。現道示では合成桁と非合成桁の区分しかありません、最近ようやく適切な合成度合いを見なさいと道示でも示されるようになりましたが、合成桁と非合成桁の中間=弾性合成桁が示されていません。そこを示して、リニューアル工事の際の桁補強量やスタッドの過密配置の低減などの具体策につなげたいと考えています。

非合成桁で設計していても、現実には限りなく合成桁に近いものもある
 負曲げモーメント領域にばね定数を考慮した柔なずれ止めを用いる不完全合成桁の設計方法

 ――弾性合成桁について、もう少しかみ砕いて教えていただけませんでしょうか
 大垣 弾性合成桁は、別名「不完全合成桁」と言われています。合成桁は桁と床版が完全に一体化しているのが基本条件です。非合成桁はその逆で桁と床版にずれがあり、一体化しておらず、重ね梁状態の構造を指します。しかし実際はスラブアンカーなどがあり、計測すると合成に近い構造もあります。ところがやはりスラブアンカーは少し柔らかくて、付着が切れると少しずれやすい構造になってしまう。それが弾性合成桁=不完全合成桁です。弾性合成桁は60年前に橘善雄先生が『連続合成桁橋』という本の中ですでに提唱している構造概念です。

 専門的に言うと、「ばね定数を考慮した柔なずれ止めを用いる不完全合成桁の設計方法」ということができます。床版を連続させますが、中間支点部付近は床版は鋼桁とのずれが生ずるため、床版の引張応力が低下します。正曲げモーメント区間も柔なずれ止めで不完全合成とすることで桁端部の水平せん断力が低下します。

 当初、橘先生らはより完全な合成桁を目指すべく、中間支点上にプレストレスを導入することなどを模索する研究でした。しかし徐々に研究していくうちに欧州では中間支点上は鉄筋を増やして対応する連続合成桁にシフトし、道示でもそれがメインとなりました。同時に、床版との接合部も当初は馬蹄型ジベルがメインでしたが、スタッドジベルのほうが鉄筋を組みやすいし、スタッドジベルでも合成効果が得られるということが研究されてきて、1973年の道示(昭和48年道示)でスタッドジベルが併記されたことがあり、同道示以降はスタッドジベルが主に使われるようになりました。ただし馬蹄型ジベルが道示からなくなったのは1990年の道示であり、それまでは使われていた可能性があります。実際には施工性やコストを考えてもスタッドジベルのほうが圧倒的に良いため、道示に記述されて以降は一気に採用が広まりました。


床版取替え前の桁と床版接合構造別橋梁数/床版取替え前後の接合構造別橋梁数

 一方、不完全合成桁=弾性合成桁はそれを計算する式が難しいため、研究者の中では広まりましたが、実際には使われませんでした、しかし非合成桁で設計していても、現実には限りなく合成桁に近いものもあるため、非合成桁設計よりも鋼桁重量を減らせるし、合理的な弾性合成桁の計算をすることは可能です。また桁端部のずれ止めも減らすことができますし、床版に与える負荷もほとんど合成桁と一緒です。その前提条件としてずれ止めにあった正しい計算を行うというのが、いいのではないか? と当研究グループでは考えています。そこに注目した報告書になっています。
 合成桁にプレキャスト床版を使った場合、ずれ止めを打てる本数であるとか、ずれ止めの間隔だとかは限られているので、完全合成桁は支間長が長くなればなるほど、無理なんです。そうすると目をつぶるか、非合成桁設計にするかしかありません。そこを弾性合成桁で計算すればどうですか? と提案しているわけです。
 現実的に連続合成桁の床版取替えというのは、当研究会で実績調査した結果ではまだありません。その原因は今話した通りで、それを解決する策として弾性合成桁を提案しているわけです。

 ――第6章の「合成度の評価と弾性合成桁」ではそれを詳細に記述していますね
 大垣 弾性合成桁の前提として、合成桁と非合成桁の状況については、以下のように記しています。「合成桁はずれ止めの弾性変形が生じるため、実際には理想的な完全合成を期待することはできない。一方、非合成桁においても、実際にはRC床版と鋼桁がある程度一体となって挙動することが知られており、理想的な非合成桁とはなっていない」。

第6章の要点① 章立て/完全合成桁に生じる応力/分担断面力


第6章の要点②弾性合成桁/ばね定数とフレキシビリティ定数/ずれ止め1本あたりのずれ定数とフレキシビリティ定数

第6章の要点③ 合成度の評価

 一方で弾性合成桁に関しては、繰り返しになりますが、「完全合成桁と非合成桁の間の挙動を示す桁であり、ずれ止めの剛度が考慮されている」と記しています。
 さらに、弾性合成桁の微小区間での変形と力のつり合いから弾性合成桁計算方法として、基礎微分方程式を具体的に示しました。
 弾性合成桁の評価を行う指標としては、フレキシビリティ定数というものがあります。これで桁が合成桁であるか、非合成桁であるか、弾性合成桁であるかを分類します(要点②参照)。フレキシビリティ定数とは床版と桁のずれ度を示します。それを適正に把握することによって、合成桁の桁自体の強度やずれ止めの配置可能本数などを考慮して、個別の橋に応じた設計を可能にできますよ、という設計方法の提案を行っています。要点③の1枚目の表に示す通り、皆さんが非合成桁と考えていても、フレキシビリティ定数では弾性合成桁に分類されます。

第6章の要点④ フレキシビリティ定数に応じた弾性合成桁の応力分布 温度変化/等分布荷重/支間中央載荷

第6章の要点⑤ ずれ止めに生じるせん断力の分布/ずれ止めに作用する水平せん断力(等分布荷重)/同(支間中央荷重)

 例えば、合成桁を非合成桁化する設計で補強するとものすごい補強量になる橋があったとします。そうした橋は完全合成桁化するとずれ止めが非常にたくさん必要になります。しかし、そこに弾性合成桁の設計を行うと補強量は完全合成桁とほとんど変わらず、それでいて、ずれ止めの量も減らすことができる、というところを示しているものです。要点⑤に示す通り、合成桁のずれ止め設計には弾性合成桁の考え方が採用されています。フレキシビリティ定数が大きくなると水平せん断力が低下することがわかります。要点⑥~⑧には簡単な試算例を示します。


第6章の要点⑥ 連続弾性合成桁橋の水平せん断力と鋼桁応力の試算(計算条件)

第6章の要点⑦ 連続弾性合成桁橋の水平せん断力と鋼桁応力の試算 鋼桁の分担断面力/鋼桁の線応力(上フランジ)/同(下フランジ)

第6章の要点⑧ 連続弾性合成桁橋の水平せん断力と鋼桁応力の試算 設計水平せん断力

 ――画期的と言えますが、その裏付けとなる実構造物での解析や実験を本研究では行っているのですか
 大垣 今回の報告書は既往の調査がベースです。今後は弾性合成桁のより具体的な提示とその裏付けを行うため、橋梁会社有志と私、関西大学の石川敏之先生、大阪工業大学の今川雄亮先生などのメンバーと、弾性合成桁に関する実験や解析を行い、整理していく方針です。

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