道路構造物ジャーナルNET

①なぜ、土木研究所の中長期計画の中心にDXを選んだのか

土木研究所のDXへの取り組み

国立研究開発法人
土木研究所
理事長

西川 和廣

公開日:2021.06.30

建設DX実験フィールド 土研がレフェリーになる
 フィールドの面積は18,000㎡に及ぶ

 ――次に建設DX実験フィールドについて
 西川 民間が行っているDXに関する技術開発を後押ししてあげるのが目的です。今回の実験フィールドは実際の道路土工をそのままできる広さがあり、機械の自律施工の実験、あるいは複数の機械での同時施工を実験することもできます。開発者が自社のアイデアをまず開発の途中段階で実証し、それから実装を前提とした施工を発注者に見てもらうことで、現場実装のスピードアップができればいいなと考えています。
 あるいは、様々なアイデアが出てくる技術についてはルールを決めて、土研がレフェリーになることも考えています。各ゼネコンが思い思いの建機メーカーと組んで、独自のアルゴリズムを構築してDXに臨んでいる。これは非常にもったいなくて、どこかにプラットフォーム(オープンプラットフォーム)を一つ作れば、それぞれのアイデアや得意分野だけ付け加えれば、どこの機械を使っても現場適用できるようになります。そのほうが発注者からしても、1社に限定されないので発注し易くなるのではと考えています。ここを協調領域とします。

 ――オープンプラットフォームというのは
 西川 建設機械の制御信号をルール化したミドルウェアのような仕組みです。ハードウェアを抽象化し、ソフトウェアの再利用性・連携性を高めることができるようにするものです。
 ――協調領域は土研がコア領域を定めるということですね
 西川 そうです。共通して保持しなければいけない最低限の技術的領域を定めるということです。その他の分野は各社・グループで競争していただければ良いと考えています。
 前述のようにローカル5Gの環境も備えた実験フィールドが開所しました。最近はスーパーゼネコンでさえも実験ヤードの確保が難しくなってきています。当フィールドの面積は18,000㎡ですが、そんな広い実験場はなかなかありません。これをうまく活用してほしいと思います。
 ――エンジニアリングセンタというのは
 西川
 遠隔操作や自動化・自律化の実証試験に必要な装置類を建設機械に架装したり、そうした機械を整備するための工場建屋です。
 ――対象となる分野は、現在のところ土工のみですよね
 西川 そうです。通常の土工工事だけでなく、災害時に必要な技術開発も包含した実験設備となっています。無人化施工のスタートはそもそも災害対応ですから。しかしこれからは先ほどお話しした「必ず訪れる大災害」の1つである人口減少対応としての技術開発が主眼です。

【写真】建設DX実験フィールド開所式

【写真】建設機械遠隔操作を体験する国土交通省 山田技監(当時、現在は事務次官)

グリーンレーザー測量で、河床の3次元データの取得進める
 土研の河道管理の研究分野に責任者を指名

 ――最近、球磨川の水害現場に行って思ったのですが、一部を除いて、水害は比較的上流側に起こることが多く、そうした現場は過疎地が多くなっています。当然建設業者の数も少なく、人口減少と建設業者の減少というダブルパンチで、こうした技術の開発の必要性は日増しに高まっていると思います
 西川 そう思います。ドローンなどで3次元画像データや点群データを取得し、3D-CIMに落とし込み、無人化施工につなげるというのは現実の選択肢になりつつあると思います。
 例えば、現在、グリーンレーザー測量で、河床の3次元データの取得を全河川事務所で進め始めています。これまで河川技術者は水面しか見ていませんでしたが、グリーンレーザーの発達により、河床まで見ることができるようになりました。これまでは約200m間隔で河川を輪切りで測量して断面を把握することしかできませんでしたが、水面下の河床管理も3次元でできるようになります。
 何年かに1回測量すれば、流路や河床全体の変化がわかり、河川内橋脚や橋台において洗掘の危険性がある箇所も把握できます。当研究所では、3次元データを用いた河道管理の研究もさらに充実させていきます。これもDXルームを活用できます。3次元データは3D-CIM、時間軸が加われば4D-CIMということになり、まさに土木研究所が力を入れて進めようとしているDX デジタルトランスフォーメーションに外なりません。
 土研の河道管理の研究分野に、3Dデータ専任の人間を指名して、それが何に使えるのか、どんな管理方法が実現可能なのか、考えてもらっています。一見迂遠に見える基礎的な研究ですが、土研はこうした研究をこそやるべきです。半分ぐらい「夢」であっても良いのです。

【図】九頭竜川(福井県)のグリーンレーザーによる河川測量事例(福井河川国道事務所提供)

球磨川流域を襲った水害から1年になる(井手迫瑞樹撮影)

3D-CIMを橋のメンテナンスサイクルにも活用
 F11Tボルトの遅れ破壊にも適用できるのではないか

 ――ドローンにより撮影された画像が3次元化できれば、橋のメンテナンスサイクルにも活用できそうですね。
 西川 3D-CIMについては、2次元画像に比べて情報量が格段に増えるので、近接目視点検の代替技術として期待しています。現在土研で開発中の診断AIが完成すれば、調書の作成から診断、そして措置方法の提案までの効率化と技術力の補完が可能になりますが、近接目視点検とそのために必要な足場に要するコストを軽減しなければ、メンテナンスのDXは完結しません。
 例えば、F11Tボルトの遅れ破壊に対してたたき点検が必要とされており、近接目視が前提となりますが、ドローンによる撮影で発見し、対応策を図ることができれば、足場の省略に一歩近づくのではないかと考えています。写真は遅れ破壊により欠落したボルトのある継ぎ手を拡大したものです。これはまだ私の仮説ですが、ボルトの遅れ破壊が生じると、遅れ破壊は脆性破壊ですから、損傷時は衝撃が両方に走り、母材と座金あるいは座金とボルト頭部またはナットの境界部分から、塗装にひび割れが入り、錆を惹起させるのではないかと考えています。もちろんこれはまだアイデアの段階で、データの蓄積が必要だと考えています。それでも、点検の際に一番お金がかかる足場を省略できれば中小規模の自治体であっても点検が飛躍的にやりやすくなりますので、研究を続けたいと考えています。


【写真】遅れ破壊の影響が考えられる塗膜のひびわれおよび錆の発生

 ――遅れ破壊などの損傷は専門的な知見を有する人しか確認できないとされていますが、それは土研が開発中の診断AI(エキスパートシステム)を活用することで効率化を図るということですか
 西川 そうです。損傷に応じた写真の撮り方を示し、その画像を確認し、判断したデータを蓄積していくことで、より診断精度を高めていき、維持管理の高度化・効率化を達成したいと考えています。診断だけでなく、点検や画像処理もAI(ここではディープラーニング)に学習を繰り替えさせることで高度化させることは可能だと思います。
 ――エキスパートシステムの高度化のためには、それ相応の技術力を持ったエンジニアが介在し、入力方法や入力データの取捨選択、補修補強方法の更新等を担わなくてはいけないのではないですか
 西川 それが土研が継続的にコミットして行くことの必要性です。一方で、入力の仕方は手書きではなく、タブレットなどを用いたプルダウンメニューにして用語を定型化し、コンピュータが誤解しないように語句の「ゆらぎ」を無くし、写真も事前に取得した3D-CIMの指定位置とリンクするようにすれば、点検調書としてもエキスパートシステムの入力データとしても十分なものになると思います。タブレットからはAIからの指示も得られるようにすれば、データの入力は間違いようがないと思います。さらにデータが蓄積されれば、将来的にはAIの活用により取得した画像等から自動的に入力が出来るようになると期待しています。

蓄積した3Dデータは新設にも利用可能
 梁理論等2次元設計の世界から脱却したい

 ――最後に、こうした3Dデータの蓄積を新設に生かすことは考えていますか
 西川 設計では、理論から推していって影響の小さい要因は無視してしまいがちですが、時にはそれが構造物を壊す原因になっています。例えば鋼橋の疲労損傷による問題が顕在化していますが、大半の疲労亀裂は設計で無視されたたわみの影響により生じる局部応力により発生します。
 新しい構造形式を生み出すためには、3次元のたわみ性状とそれによって生じる局部応力を把握することにより、疲労フリーを実現することが不可欠です。早く梁理論等2次元設計の世界から脱却しなくてはいけません。鋼橋にとって、新たな展開を望むのならば必ず通らなければならない関門だと思っています。

 ――3Dプリンターを用いた橋梁の設計・製作についてはいかがお考えですか
 西川 これもただ設計や製作を省力化できるというだけでなく、我が国の現状に応じた使い方をしなくてはいけません。建設現場では鉄筋工や型枠工の不足が深刻ですが、そうした人口減少を補える橋梁形式について3Dプリンターを使って建設することができないか、有志に呼びかけています。3Dプリンターが型枠に、繊維補強超高強度コンクリートが鉄筋に見えてきませんか?
 ――ありがとうございました

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