道路構造物ジャーナルNET

光ファイバセンサ BOTDR法を使い計測 将来的には事務所から点検

SmARTストランド張力センサ PC構造物やグラウンドアンカーの健全性を局部・全体の別なく把握

SmARTストランド張力センサ技術研究会
会長

山本 徹

公開日:2021.06.14

光ファイバ 100年たっても劣化しない
 計測機器の進歩と光ファイバを組込むPCストランド生産設備構築が普及に寄与

 ――耐久性という面では
 山本
 光ファイバはひずみセンサとして設置されてから20年以上経過している事例も多くあります。非常に安定している珪素が原材料であるため、光ファイバそのものは100年経過しても劣化しないと考えています。光ファイバの伸びに対しては、PC鋼材の塑性域まで一体で挙動することが実験で確認されています。一方、火災には弱いので注意が必要です。
 ――光ファイバを用いたコンクリート構造物のひずみ計測技術というのは、結構昔からありますね。私も2000年代初頭にとある企業に取材したことがあります。また、阪神高速でも標識や照明などの鋼製柱の健全診断で光ファイバを用いた研究を行ったことがあります。茨城大学の呉教授などもそうした研究を行っていました
 山本 私も2012年に東京に戻ってきてから住友電工さんと共同研究を始めましたが、おっしゃる通り2000年代初頭にそうした研究に接したことがあります。当時は計測誤差が大きく断念しました。しかし、光を送受信する計測機器の飛躍的進歩と鹿島の技術研究所 先端・メカトロニクスグループの研究成果により、実装に耐えうる精度が確保できたことから、PC橋梁やグラウンドアンカーへの適用につなげることができました。
 それに加えて、光ファイバをPCストランドに組込む装置を、住友電工さんが生産ラインに入れてくれたことも普及に大きく寄与しています。
 ――どういうことですか
 山本 それまでは、あくまで実験レベルでの話ですが、光ファイバをストランドに組込む場合、手作業で接着していました。
 ――気の遠くなる作業ですね
 山本 その作業を自動的にできる付加装置を生産ラインに組込んでくれたおかげで、完全なひずみの追随性を担保できる長スパンの光ファイバ装着が可能になり、実用化につながり、普及に弾みがつきました。
 グラウンドアンカーでもスーパーフロテックアンカーに限定されますが、SmARTストランド張力センサを組込んでおり、他工法との差別化を図っています。

月舘高架橋で初採用
 グラウンドアンカーへも適用を拡大

 ――現在までの実績はどのようなものがありますか
 山本
 2015年に国道115号月舘高架橋(PC6径間連続ラーメン箱桁橋、橋長462m 幅員12.8m(拡幅部15.3m) 最大スパン91.0m)で初めて採用されており、施工中の案件も含めて全部で9件の実績があります。
 月舘高架橋では、柱頭部および下床版の内ケーブルや約190mと長尺の外ケーブルの張力計測を実施しています。施工時の緊張においては設計緊張力に対し、いずれの箇所においても十分な緊張力が導入されていることを確認できました。緊張完了後から19か月以上経過した後の計測も実施しており、長期的にも精度よく張力が計測できていることを確認しています。

月舘高架橋

月舘高架橋での適用実績

 グラウンドアンカーへは、奈良県大塔町の赤谷地区渓流保全工事(紀伊半島南部水害で大きく被災した地区)で初適用されました。従来技術において計測できなかったアンカー体の中の張力分布も計測できています。グラウンドアンカーは地滑りやアンカー体の抜け、周辺摩擦切れなどによる様々な要因による張力変化が懸念されます。これまでに、想定される現象に対応する張力変化についての検討も行っており、今後張力分布の計測結果からアンカーの劣化要因の推定や地盤の変状の把握ができるようになると期待しています。また、計測システムも進歩しており、最近のグラウンドアンカーの仮設工事では、複数のSmARTストランドを連続的、かつ遠隔地から計測可能なシステムが適用されました。

摩擦型グラウンドアンカーの構造と適用事例

グラウンドアンカーへの適用事例②

 本システムは測定する光ファイバの切替えや計測が自動で可能であり、常時モニタリングすることが可能です。今後、高速道路ののり面などにおいても適用することにより、維持管理の高度化に貢献できるのではと、期待しています。

通信網との接続により居ながらにして変状を計測

 ――今後どのような方向に研究を進めていくのか具体的にお答えください
 山本 この技術の面白いことは、今の適用範囲にとどまらないという点です。光ファイバという素材自体に大きな変化はありませんが、計測技術は日進月歩しています。PC構造物やグラウンドアンカー内にSmARTストランドを設置して、計測できるようにしておくと、現状では、計測機器の送受信限界距離は数km程度であり、計測器を現場近くに持ってきて計測している状況ですが、将来、計測システムの改善が進めば、現地に行かなくても発注者が有している光ファイバ通信網と繋げることによって、管理事務所や出張所などに居ながら計測データをリアルタイムに把握できるようになる可能性があります。研究会内の計測委員会ではそうしたシステムの改善・開発もお願いしています。

 ――適用範囲という面では
 山本 個人的にグラウンドアンカーの本設構造物に関連する需要が多く発生すると踏んでいます。原子力施設付近の地盤対策や道路・鉄道の切盛土に用いる永久アンカーなどです。また、のり面保護やトンネルのロックボルトにセンサを入れて現状把握・維持管理することも可能になります。鉄道・道路でも山岳部でこうしたアンカーやロックボルト工がなされていますが、そうした個所における地震時や大雨時において、健全であるかを調査するのに現地に接近はできません。その時にこうしたセンサを入れておき、システムの改善がなされれば、近づくことなくリアルタイムで変状を計測できます。
 発注者には現在の計測性能を前提としてSmARTストランド張力センサの導入を検討いただくだけでなく、今見つかっていない不具合や損傷も見つけることができる将来的な可能性も含めて導入を考えてもらいたいと思います。
 ――現在は張力(ひずみ計測)についてずっと聞いていますが、鋼材腐食の検知もできないのですか
 山本 PCケーブルが腐食して破断することがありますが、それを模擬してSmARTストランドを切断した実験を行っています。そういった実験の結果からこのセンサによって、任意の位置に生じた破断を検知できると考えています。
 ――研究会の拡大などについても方針をお聞かせください
 山本 先ほども申し上げましたが、モニタリングも含めた設計を行う必要が今後は出てくるため、コンサルタント会社さんを中心にご入会を呼び掛けていきたいと考えています。
 ――ありがとうございました

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