道路構造物ジャーナルNET

橋面コンクリート舗装ガイドライン2020も上梓

道路橋床版の維持管理マニュアル2020を出版~同2016を大幅改訂~

土木学会 鋼構造委員会
道路橋床版の点検診断の高度化と長寿命化技術に関する小委員会
委員長

橘 吉宏

公開日:2021.03.22

損傷や劣化事例の充実図る
 PC床版や合成床版の損傷事例も

 ――2点目は
 橘 損傷や劣化事例の充実です。第一章は「道路橋床版の損傷と劣化」を主題に置いています。ここでは、前回も様々な床版の損傷事例をなるべく写真で載せていますが、増加傾向にある複合劣化事例の写真を増やし、分かりやすくしています。例えば、上の舗装の滞水やジャンカからくる漏水の浸透による損傷ケースです(同書16~18ページ)。これは上面だけでなく、下面も含めて示しています。
 また補修済み床版の再劣化事例(20~24P)も示しています。増厚界面の剥離状況、シート系補強や鋼板接着補強の浮き剥離などです。これらの写真も大幅に増やしました。
 PC床版や合成床版の損傷事例も節として立てました(24~29P)。
 ――RC床版と比べてPC床版や合成床版はそれほど量も多くなく、耐久性も高いと思いますがそのような損傷が生じているのですか
 橘 代表的な事例として、PCケーブルや定着部の腐食、打継部のひび割れ、プレストレスの導入不足によるひび割れを挙げています。現場打ちのPC床版の場合、PCケーブルのシース管内への雨水の浸入や、定着部の防錆機能の低下などによりPCケーブルが腐食し、進展すれば破断することがあります。特にシース管内にグラウトの充填不良がなく空気がないことが重要で、最近ではシース管内の空隙に樹脂を注入している場合があります。PCケーブルは張力が導入されていることから万一破断した場合にはPCケーブルが飛び出す可能性があり危険です。
 打継部はプレキャスト床版の場合、RC構造となるケースが多いため、その他の部位に比べて弱点になりやすいと考えられます。
 プレストレス導入不足によるひび割れは、場所打ち横締めPC床版の場合、桁端部など横桁の剛性が大きい部位は、横締め時に横桁がプレストレスの一部を担ってプレストレスロスが生じやすく、設計通りの圧縮力が作用していない場合があることが想定されます。
 合成床版については、鋼部材、コンクリート部材それぞれの変状および合成床版特有の変状があります。損傷事例としては、漏水による底鋼板の腐食などが主な例です。
 5章では損傷事例集ですが、「5.8.点検支援技術を用いた点検⇒診断⇒措置の事例」(202P)だけ今回追加しました。電磁波レーダーや赤外線サーモ、小径削孔調査など点検支援技術を使った点検および措置の施工例を掲載しています。

コンクリート物性を測る非破壊、微破壊試験方法の調査方法を追加
 電磁波レーダー、赤外線サーモ、FWDなど

 ――3点目は
 橘 第2章「道路橋床版の点検・調査方法」にて詳細調査と追跡調査の充実を図るべく定期点検以外の手法として、コンクリートの物性を測る非破壊試験、微破壊試験方法の調査方法を追加しました。
 ――具体的にどのような方法ですか
 橘 我々が技術として着目したのは、電磁波レーダーと赤外線サーモグラフィ法による床版上面の劣化測定、FWDを用いた床版のたわみ測定です。
 それらを前回の改定から実績を重ねつつある非破壊検査法として取り上げました。委員会では、ある一つの橋梁を複数の非破壊検査方法で調査してみて、その適用性について、使用上の留意点、運用上の留意点を整理しました(同書63Pや65Pの表など参照)。

電磁波レーダーで損傷をスクリーニング

 ――電磁波レーダーはどの程度のものが期待できるのですか
 橘 床版上の水の滞留などが感知できると思います。小委員会では、土砂化や水平ひび割れも電磁波レーダーで判別できないか、ベンチマークを各社に行いましたが、統一的な傾向はなく、参加した5社の中でどこか1社が秀でているというわけでもありませんでした。現状では床版上面の滞水状況を調べることにより、何らかの損傷をスクリーニングするという使い方が最適といえます。これも降雨後や散水後に計測するなど運用には注意を要します。施工総研での模擬欠陥を入れたRC床版供試体での試験でもばらつきがありました。



電磁波レーダー各種工法機材(井手迫瑞樹撮影)
 また、各社の波形の解析結果が一律かというとそうではなく、各社の情報解析や診断上のテクニックがあって、そこを一律的に評価しようというのはなかなか難しい状態です。
 課題としては点検で得たデータを人によらずシステムで可視化できるような間でわかりやすい解析結果が出る非破壊検査手法が欲しいですね。東京大学の水谷司准教授が研究しているようなものがあれば良いのですが。

FWD たわみにより劣化度を調べる
 小型の錘を床版に激突させてたわみとたわみ形状を調べる

 ――FWDについては
 橘 FWD(フォーリング・ウェイト・デフレクトメーター)は小型の錘(おもり)を床版に激突させてたわみとたわみ形状を測定するものです。正確に測定するためには接触時間と床版の固有振動数の補正値が必要であるということが分かってきました。それを考慮して運用する必要があります。動的な影響を補正してたわみを出しているため、それなりの誤差は出ますが、たわみにより劣化度を調べるには十分な精度があります。


FWDを進化させた床版専用試験機「SIVE」(金沢大学+大日本コンサルタント)

車載型FWD例

 これは詳細調査に使えます。範囲は数メートルおきに錘を激突させパネルごとに調べていくことができます。NEXCO東日本の東北支社管内で実橋床版の劣化度の判定に用いた実績があります。1箇所当たりの施工時間はそんなにかかりません。桁の上にもたわみ計を置いて、桁の振動分を除けば床版たわみが計測でき、床版の劣化度を確認することができます。
 ――供用中のノイズをキャンセルしつつ計測できますか
 橘 計測できます。供用中でも車線規制して調査することができます。

赤外線サーモグラフィ 舗装上面から水平ひび割れを確認
 SFRC補強している個所でも床版の損傷を測定できる

 ――赤外線サーモグラフィ法は
 橘 構造物の表面温度から内部の変状を検知する技術であり、広い範囲の表面温度の分布を相対的に把握することができ、それを可視画像化できるため、コンクリートの浮き剥離について多くの実績があります。これを床版内部の水平ひび割れを確認する手法として適用できないかと思いチャレンジしました。

赤外線サーモグラフィの施工例
 ――良い結果はでましたか
 橘 当委員会の実験では、実験時の計測時間帯等の制約があり、明確な温度差は確認できませんでしたが、NEXCOの実構造物では舗装上面から水平ひび割れが確認できたとのことです。
 この手法を採用する理由は、床版上面増厚にはSFRCが多く使われており(電磁波が乱反射するため)、そうした構造物には電磁波レーダーが使えないためです。
 ーー今後開発を期待する技術は
 橘 アコースティックエミッション(AE)法や中性子化法を利用した測定法などに期待しています。またサンプリングモアレ法です。

 ――サンプリングモアレ法とは
 橘 格子のカメラ計測、画像計測でたわみやひずみを計測する方法です。共和電業などが行っています。福井大学の藤垣元治教授の研究成果です。
 ――中性子化法は理研が開発を進めていると聞きます
 橘 既に小型化したプロトタイプの測定器を作っていると聞いています。

点検調査技術や点検支援技術を組み合わせた判定のフローを提示
 床版の状態、耐荷力、床版の材料物性をそれぞれ把握

 ――4点目は
 橘 点検から診断までの点検調査技術や点検支援技術を組み合わせた判定のフローを提言レベルではありますが作り、追加しました
 ――どのようなものですか
 橘 具体的に図化したものは、本書113Pに掲載しています。
 フロー図のスタートのすぐ下を見ると、橋梁定期点検は下面からのひび割れを見て、上面は舗装のひび割れを見る程度でした。それに対して、床版上面の情報を電磁波レーダーや赤外線による点検情報と合わせて一次判定することを推奨しています。床版下面は定期点検から近接目視か、点検支援技術といっているドローンなどで得られた情報と綜合して損傷状況を判定してほしいと記しています。
 たとえば実際の塩害劣化による損傷は下面に現れることはあまりなく、上面の情報が必要です。疲労はともかくとして、水由来の劣化がほとんどですから。
 その下のフローに行くと、要対策とされた場合、詳細調査の要否があるのですが、詳細調査では「床版の状態把握」、「床版の耐荷力把握」、「床版の材料物性把握」の大きく3つに区分けしています。


 状態把握は、コンクリートや鉄筋そのものが設計に対してどれだけ劣化しているかということで、かぶり厚や鉄筋位置を測る技術(コア採取)を書いています。
 耐荷力把握は、載荷重量や床版変位などを調査するもので、これをきちんと見ないと、診断できません。
 ここではFWDなどたわみ計測が有用であると書いています。
 最後の材料物性把握は、劣化の原因推定ということで、中性化深さや塩化物イオン含有量など材料物性を把握するものです。Single i工法や蛍光X線による塩分調査などが該当します。これら二次判定による損傷原因の推定もしてほしい旨がかかれてあります。
 このフローは国の点検要領にもないですし、NEXCOの要領にもないものです。要因を判定してそれに合った対策を施しましょうということです。
 国土交通省が分けている健全度はⅠ~Ⅳまでありますが、それは直接耐荷力などにはリンクしません。使用材料や損傷原因も求めていない。その上でどういう措置を行えというのは4つの段階ごとに示しています。しかし、原因を確かめずに措置するということは再劣化の危険を内包しています。これを二次調査することで損傷原因を突き止め、最適な補修工法を選択しなさいということですね。


 ――当たり前の真っ当な話ですね
 橘 真っ当です。しかし、橋梁定期点検要領には、それが書いてありません。

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