当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。第1回目は、川田工業の川田忠裕社長とJFEエンジニアリングの川畑篤敬取締役専務執行役員の記事を掲載する。
――業界を取り巻く環境については
川田 新型コロナウイルス感染拡大による影響は、鉄構業界は比較的軽微な状態で済んでいると思う。当社では公共工事に中止はない。民間工事は、現場の休止により、客先との打ち合わせがうまくできないこともあった。
公共事業への影響は現時点では限定的だが、将来的には税収減などで、公共投資に影響が出る可能性はある。民間では発注の遅れ、延期、見直しの動きがあるとも聞いている。今回のコロナ禍により、各企業が在宅勤務などのテレワークへのシフトが恒常化するなど、事務所のワークスペースが不要となり、オフィス需要が見直されることも懸念される。
――今年度の状況は
川田 橋梁は昨年度の発注量が少なかったため、今年度の発注は増加を見込む。建築鉄骨は横ばいとみている。ただ、コロナ禍により、ゼネコンの受注競争が激化し、その影響でファブの原価率が悪化する懸念がある。
――橋梁については
川田 新設橋梁は依然、受注競争が激しい情勢にある。また、大型工事が継続中で現場の人材不足が恒常化している。
新設橋梁はこれからもある程度発注されるが、工場製作と工事現場作業のバランスが逆転しつつあり、今までのビジネスモデルが変化している。業界全体で対応しないと、先行き厳しくなっていくのではないか。
「羽田線(東品川・鮫洲)更新工事」 切り替わった下り線(中央高架橋車線)
――建築鉄骨については
川田 コロナ禍でも首都圏の虎ノ門・麻布台地区、東京駅周辺の八重洲界隈、日本橋地区、高輪ゲートウェイ駅地区などの超大型再開発案件を含め、再開発プロジェクトが始動している。また関西方面でも、大阪万博関連、旧大阪中央郵便局跡地の再開発など複数の計画が始動するとみている。
――システム建築は
川田 システム建築は堅調に推移しているが、ややコロナ禍の影響を受けつつある。差別化を図るため、高性能で意匠性の高い座屈拘束ブレース「ハイパー・ブレース」を使用する多層階、デザイン性を重視した意匠の採用、木と鋼のハイブリッドなど、さまざまなバリエーションを取りそろえている。
渋谷再開発(東京都) 渋谷ヒカリエ/渋谷スクランブルスクエア第Ⅰ期(東棟)/渋谷ストリーム
――設備投資については
川田 四国工場ではこれまでの2年間で、大型ジブクレーンの新設など大きな投資を実施した。これにより、作業効率はアップしていると考える。今年度も古くなった機械設備の更新等を実施する予定。
――部門ごとの課題は
川田 これまでの橋梁のビジネスモデルはまず工場ありきで、それに付随する架設を実施するスタイル。ところが、保全工事が増加し、工事現場での作業比率が高くなりつつある。当社グループのノウハウを活用し、対応を進めていく。
建築鉄骨は、今まで4面ボックスがメインであったが、コラム構造にも注力するため、溶接ロボットの入れ替えも視野に入れている。これからの受注のカギはコストダウンのほか、建方もできる付加価値と、独自技術による差別化にあると捉えている。
当社グループ全体で、工場や工事現場などの作業効率をICT、ロボット、AI技術を活用して向上させる研究にも取り組む。
(写真左)アイダ設計プレカット事業部 茨城工場
(写真右)オオサキメディカル九州物流センター
――新型コロナウイルス感染症対策については
川田 緊急事態宣言が発出された4月から在宅勤務、時差出勤を開始した。宣言解除後、通常勤務体制に戻したが、全国的な陽性者数増加に伴い、在宅勤務、時差出勤を復活させている。
個人的には、ネット環境、セキュリティの問題などはあるが、コロナ前に戻ることはなく、テレワークや在宅勤務などを積極的に推進していきたいと考えている。
加えて、工事現場、工場では、3密を避けるなどの予防対策も徹底していく。
――新たなビジネスモデル構築については
川田 当社は新たなビジネスモデル構築により、工場の再編・統合などは考えていない。今までの橋梁と鉄骨に加えて、ジャケット、プラント施設、合成床版、ハイパー・ブレースなど、製作する鋼構造物のレパートリーを広げ、工場を維持していく方法で推進していく。
(聞き手=佐藤岳彦、文中敬称略 2020年9月21日掲載)