道路構造物ジャーナルNET

大規模更新など床版取替における設計・施工の現時点の集大成

『鋼道路橋 RC 床版更新の設計・施工技術』が発刊

土木学会 鋼構造委員会 
鋼道路橋RC床版を更新する施工技術に関する小委員会 
委員長

並川 賢治 氏

公開日:2020.06.21

第2章 床版更新の課題への対応と設計・施工における配慮事項
 水対策や床版取替に際しての様々な工夫などを詳細に提示

 ――第2章の床版の更新に関する課題への対応と設計・施工における配慮事項はどのようなものがありますか
 並川 床版の取替にあたって、今までと同じ床版を作るのでは、結局、現在生じている状態と同様の損傷を招くことになります。取替床版は同じ環境にあっても100年耐えることを前提に製作・架設されなければなりません。そのための耐久性向上策として何をなすべきか? 塩分やASR、水、荷重などを劣化因子として万全の対策を整える具体的な項目を掲示しました。
 とりわけ水が介在する損傷についての対策は重要であり、更新する床版の耐久性を高めることはもちろん、排水システムも加えた床版防水システムとして設計・施工を行うことが重要と記述しています。耐久性を高めた床版として使われる量も種類も多いのがプレキャスト・プレストレストコンクリート床版(PCaPC床版)であり、その開発のスピードは目覚ましく、様々なタイプの製品が開発されています。


重要な床版防水①(弊サイト既掲載)

重要な床版防水②(弊サイト既掲載)

重要な床版防水③(弊サイト既掲載)

重要な床版防水④(弊サイト既掲載)

 もう一つの課題は構造です。まず橋梁構造が合成桁か非合成桁かによって内容は変わってきます。合成桁は合理化を求めて造られた軽量な鋼橋で上載荷重に対する抵抗力を必要最小限に追い込んでおり、現在の基準で設計を進めれば桁に補強が必要となる場合や、床版を取り除くと安定を失う桁もあり、床版取替に際して様々な工夫が必要になります。
 合成桁の撤去にあたり、これまでに崩落事故を起こした銚子大橋や月見橋を見てもわかるように、鋼主桁とRC床版との合成効果が失われるような解体工事を行うと危険です。合成桁の床版を取り替える際には一層の注意を払い、適切な補強を行った上で施工しなければなりません。1998年に発行された土木研究所資料第3582号『合成げたの床版打換え工法に関する調査:外ケーブル工法および軸力導入工法を用いた合成げた床版の打換え設計・施工マニュアル(案)』は、その際の参考となります。
 ――合成桁の床版取替えというと、NEXCO西日本が施工した御幸大橋が頭に浮かびます。
 並川 御幸大橋では上フランジのウエブの一部を予め床版に付けた状態で取り換えるなど施工に工夫をしており、現在の合成桁における床版取替の下地になるのではないかと思っています。ここでも横桁を取り替えたり追加したり補強をしています。

合成桁 非合成桁に比べて大きなキャンバー
 合成桁のRC床版撤去新技術も掲示

 ――合成桁における床版撤去と架設時のキャンバーの課題については
 並川 これも難しい問題です。同じ合成桁でも活荷重合成桁と死活荷重合成桁では、同じ支間長で同じ載荷荷重でも異なるキャンバーで製作されています。合成桁は鋼材料が少ない上に桁高も低く、剛性が小さいので、非合成桁に比べて大きなキャンバーがあることに注意が必要です。また、同様な問題はRC床版から軽い床版(鋼床版やUFC(超高強度繊維補強コンクリート)床版など)に取替える場合に生じます。必要になるキャンバー量が変われば、橋軸方向の前後の擦り付けにおいて縦断線形の確認が不可欠です。さらに、このような取替を行う場合、既設床版が全て撤去されていないうちに床版取替を行うと、打設後の鋼主桁に残留応力が生じます。合成桁に話を戻しますが、完成後はキャンバーの変化量に注意して縦断線形の出来形と設計計算で想定した主桁応力が再現できているかを確認することが肝要です。

 ――ずれ止めコンクリートの撤去方法について
 並川 合成桁は、ジベルの密度が高く強度があるので、国内で一般的に行われているジャッキアップで主桁と床版を引き剥がす方法が難しいと言われています。非合成であれば疎なスタッド配置なのでジャッキで引き揚げ撤去ができますが、合成桁は困難な場合が多いようです。持ち上がらない場合はジベルの周りをコンクリートで斫って、ジベルを切断するというオーソドックスな方法を採ることになります。報告書では新しい技術として、ウォータージェットで事前にジベル部分をはつり出し、荷重を受け替えた後で溶断し、UFC床版やPCaPC床版に取り替えた玉出入口の事例(下図・写真)を取り上げています。




玉出入口の既設床版撤去事例(弊サイト既掲載)

取替床版 様々な床版構造について記す
 材料やUFC床版、高耐久床版など

 ――床版の構造形式と耐久性向上について
 並川 ここでは床版取替時に使われている様々な床版構造について記しています。
 RC床版、PC床版、合成床版(鋼・コンクリートおよびFRP)、I形鋼格子床版、鋼床版、UFC床版などです。耐久性の高い床版の考え方としては、PCaPC床版については、その基本的情報や高炉スラグおよびフライアッシュコンクリートを使用したものが、どのような性状を示すかその長短を概説しています。また、最近使用例が出てきているUFC床版についても薄肉化や軽量化の利点を示しています。
 また、耐久性向上についてはエポキシ樹脂被覆PC鋼材や非鉄材料を用いた床版として西日本高速道路などが開発した80N/㎟のビニロン繊維補強コンクリートとアラミドFRPロッドを緊張材として用いる鉄筋や鋼材を必要としない超高耐久床版について触れました。さらに、現在ではFRP合成床版や鋳鉄床版という新しい素材も出てきています。鋳鉄床版は重量が軽いようなので、鋼床版に代わって採用する利点があるかどうかがポイントかも知れません。



鋳鉄床版(日之出水道機器提供)


FRP合成床版施工例(宮地エンジニアリング提供)

パネル接合構造 新しい継手構造や縦締めによる合理化など

 ――床版パネル同士の接合構造については
 並川 標準となるループ継手のほか、エンドバンド鉄筋継手、ナット式鉄筋継手、モルタル目地PC接合、スリット構造のループ継手などを紹介しています。前3者は現在の床版取替でポピュラーな継手であり、スリット構造を有するループ継手は御幸大橋で使用された事例を掲示しています。継手の縦締め(橋軸方向)による合理化が北陸道太田高架橋などNEXCO中日本で採用されているように、最近では縦締めの利点を売りにする床版パネルもでてきています。2方向PC床版は、新設や床版取替で既に幾らかの施工実績があります。


ループ継手と間詰部の打設


床版パネルの敷設状況/エンドバンド継手(弊サイト既掲載)

継手の縦締め(橋軸方向)による合理化①(左:弊サイト既掲載、右:井手迫瑞樹撮影)

継手の縦締め(橋軸方向)による合理化② 左:間詰部の充填、右:設置状況(井手迫瑞樹撮影)

疲労フリー鋼床版についても触れる
 100年の長期耐久性を期待できる構造

 ――鋼床版も取替方法の一つとして記されていますね
 並川 大型車交通量が多いところでは疲労亀裂が起きやすいということで嫌気されていますが、国内の都市高速道路による損傷調査をまとめた報告によると、疲労亀裂の発生個所として最も多いのは、縦横リブ交差部ついで主桁ウエブの垂直補剛材上端部とデッキプレートとの溶接部です。後者は主桁とデッキプレートを一体として製作する鋼床版箱桁などの構造が一般的であり、更新用床版としては、このディテールを含まない構造にすることが必要です。
 その一つとして三木千壽教授と鋼橋ファブ有志(『取替用高性能鋼床版パネル開発研究会』)が共同研究した疲労フリー鋼床版について触れています。



御堂筋橋(NEXCO西日本 中国道)で使われる予定の疲労フリー鋼床版(井手迫瑞樹撮影)

 ――どのようなものですか
 並川 着目しているのは縦リブと横リブの交差部です。スリットを無くし、縦リブの全周を横リブと溶接した構造で交差部のスカーラップを無くしています。こうすることでホットスポット応力を下げて疲労亀裂を起きにくくして、100年の長期耐久性を期待できる構造にしています。
 課題は縦横リブ交差部の製作性の確保ですが、同研究会において、開断面リブを用いた試験体の製作時には溶接ギャップを2㎜と広く設定して、製作性を確保した上で、溶接ギャップを測定しながら溶接脚長をギャップ量に合わせて増加させることで溶接部の強度などが低下しないようにしています。研究成果の実務への展開に関してもわかりやすく整理されており、ホットスポット応力を低減するために必要な構造を学術的に掘り下げるとともに、交通量に応じて構造上の補強を適切に施すことで100年の長期耐久性を持たせることを示し、ロジカルにすっきりとまとめています。
 ――合成床版については
 並川 鋼コンクリート合成床版の長短について触れています。留意事項としては、RC床版と比較して高い耐久性を有している反面、底鋼板や鋼製の主部材の床版の強度に占める割合が高くなっています。高い耐久性を維持するためには、この底鋼板や鋼製の主部材が痛まないようにコンクリートのひび割れにから床版内へ雨水の浸入を防ぐことが重要です。そのためには初期ひび割れの防止に努めると共に適切な防水工を施工することが必須といえます。
 ――主桁の設計照査と施工方法については
 並川 主桁の設計照査については、床版を取り替える際に留意しなくてはいけない基本的なことを示しています。少し視点は異なりますが、アメリカの『Load Rating』の考え方を示しました。橋梁に作用する活荷重に対して何倍の耐荷力があるのかを数値化して確認する方法は、旧規定で設計された橋梁が現行規定下での使われ方に対してどの程度の状態であるかを知るための参考になると考えています。
 施工方法は一般的な施工フローを示しています。加えて空間や地形的、時間的な制約、あるいは設計図書がないという制約についてどのように対処すべきか具体的な手法を明示しました。

PCaRC壁高欄を数種類掲示
 伸縮装置や排水桝など水の影響が出やすい付属物について記す

 ――付属物の高速施工と耐久性向上については
 並川 ここではまず壁高欄について触れています。標準的な床版更新の中で時間がかかる工種を検討すると、床版架設後の付属物の工程で意外に時間を要していることがわかりました。その中でも壁高欄は工期を短縮したい工種の一つです。幸いなことにPCaRC壁高欄は、数種類の製品が既にあり実績も増えていますし、内部が中空構造となっている軽量な鋼製高欄も都市高速などで実績が増加しています。現場打ちに代わって工期を短縮できるそれらの構造を数種類示しています。



プレキャスト高欄(DAK式)の施工(弊サイト既掲載)

 ――より具体的な構造は
 並川 ①床版との接続はループ状の鉄筋、プレキャスト壁高欄同士の接続は孔明き鋼板ジベルを採用し施工時に設置高さや橋軸方向の位置調整が可能で、接続部の間詰にはモルタルを充填して一体化する工法、②床版に予め埋め込まれたアンカーボルトによって床版とプレキャスト壁高欄を接続し、壁高欄同士は天端付近に配置した連結用ボルトにより接続する工法、③鉄筋端部を鍛造により円錐型形状に加工した継手構造を採用し床版と壁高欄同士の接続を合理化した工法、④鉛直せん断キーと水平せん断キー、および炭素繊維ケーブルを組み合わせた工法などです。
 ――そのほかの付属物とは
 並川 伸縮装置や排水桝など、水が入り込みやすいところは要注意です。床版を撤去するとわかりますが、排水桝周りや伸縮の後打ちコンクリートなどの周りは、傷んでいることがあります。そこから水が入って浸透してコンクリートの劣化や鋼材の腐食を招くケースがあり、注意喚起するために示しました。その対策として延長床版や排水桝の付け根にトンネルの構造目地に用いられる止水板のような水切りを付ける方法を記しています。

次ページ 第3章 施工事例からわかるRC床版更新の要点

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