道路構造物ジャーナルNET

GAFAに負けないインフラAIを作る

ジャパン・インフラ・ウェイマーク 柴田社長インタビュー

株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク
代表取締役社長 CEO

柴田 巧

公開日:2020.04.12

「オペレーショナルエクセレンス」を有するスタッフ
 道路管理者とも齟齬なく意思疎通が可能

 ――3点目のノウハウについては
 柴田 実際の点検業務に携わっているオペレーターでないと、不可能なことがあると考えています。通常のドローン業者は、指示を受けた上で撮影してデータを渡すだけです。点検業務では、ドローンを飛ばすことは業務フローが例えばAからZまでの25段階あるとしたら、5段階程度です。オペレーターは残りの20段階をほとんどやっています。具体的には、ドローンを飛ばす時間は1日か2日で、行政や近隣対応、協議、設計、撮影後の写真整理、変状抽出、レポート作成という時間がほとんどで、それはドローン業者に依頼してもできません。
 我々はオペレーターですので、それらがすべてわかっています。きちんと業務が回るように仕事ができる――「オペレーショナルエクセレンス」と言っていますが、そのオペレーション上に必要なノウハウを、我々は20年もNTTや役所で働いて身に付けてきています。
 経験上、過去の風習をどうしても破れない役所のルールや、インフラ事業者の独自ルールを理解していますし、指定のフォーマットがあればそれにあわせて納めることができます。そのオペレーションエクセレンスこそが、他社にはない強みです。だからこそ、日本で、いや世界で一番橋梁の点検をさせていただいていると考えています。


道路橋だけでなく新幹線高架橋も点検している

 もうひとつの強みは、我々が持つネットワークです。道路管理者との協議や交渉を含め、スムーズに業務を行うことができます。道路管理者との連絡でも、「いつもNTTの点検でお世話になっています」で済みます。点検業務が初めての会社では、まず申請するのかどうかもわかりません。我々は点検のポイントはもちろんのこと、交通整理のやり方まで知っています。
 ――社員28人のうち、NTT出身は
 柴田 約3分の1がNTT出身で、それ以外は役所出身やパイロットとなります。当然のことですが、役所やインフラ事業者からは絶対にドローンは落とすなと言われます。ドローンの飛行では突発的なことに対して最後は人でカバーできるように、当社では習熟したプロのパイロットしか雇っていません。飛行に問題がないようなところでは、外部の業者さんにお願いしていますが、すべて外部委託ではなくて補助として依頼しています。当社では、機体をつくる人間も含めてすべてスペシャリストです。規格外の天才を集めて、世の中の難しいことに挑戦するというのが目的です。

点検の完全自動化を目指す

 ――非常に優秀な人間を集めて、ニーズも集めて、ドローン、AI、ノウハウで一気通貫した日本中のインフラ点検体制を整えるということですが、その点検体制で最終的に目指すものは何ですか
 柴田 中期的でいえば、「フルオートメーションインスペクション」――点検の完全自動化を目指しています。もっと大きなことで言えば、土木業界の働き方改革を実現したいと思っています。
 私の実家は土木屋でしたが、父が去年会社を畳みました。私は情報工学の技術士の道を選び、父の会社を継ぎませんでしたが、非常に悲しかったです。高校生の夏休みに土木のアルバイトをして、1万円をもらいました。当時は嬉しかったのですが、冷静に考えると200日働いたとしても200万円です。7時間半働いて、給料が低く、きつい、汚い――このような業界はありません。
 我々は、例えば夜中に考えたアルゴリズムを翌朝に実装して、点検技術者に1時間確認してもらって、2時間働いたら15%効率が上がったから帰宅できる、と1日2時間の労働で同じ給料を払えるようにしたいと考えています。そのような働きやすい会社や業界にして、若い人たちの羨望の的になるようにしたい。
 そうでなければ、これだけ膨大にあるインフラを維持管理していけません。安全に、そして便利にインフラを使い続けるためには、ICTやロボティクスなどを使って、いかにデジタルトランスフォーメーションをしていくかがカギだと思っています。
 そのために完全自動化を行うわけですが、これには点検の自動化と診断の自動化というふたつの観点があり、まずは前者にしっかりと取り組んでいきます。点検の自動化は、変状を抽出して、悪い順に並べれば、あとは予算の兼ね合いで行っていく話だと思います。
 診断の自動化はやはり大変難しいと考えています。点検技術者がどのように健全性を判断しているのかというロジックが分からないとできませんから、健全性の定量化や健全性判断に必要な情報の定量化が必要です。
 点検を自動化してもドローンは必要です。撮影のためにドローンが現場までいかなければなりませんが、2022年には免許制での目視外飛行が可能となる政府方針が固まっています。その時までにドローン飛行の自動化を実現することで、点検の完全自動化を達成するという考えでいます。

修繕までの自動化を目指したい
 物流分野へドローン活用も視野

 ――長期的には
 柴田 ふたつのアプローチをしようと考えています。社名の「ジャパン・インフラ・ウェイマーク」は、“インフラの道標(ウェイマーク)になる”という意味で、点検会社やドローン会社であるとは言っていません。点検、診断のあとには修繕まで自動化するところまでいってみたいと思います。ただ、具体的な考えがあるわけではありません。
 ふたつ目は方向性が変わりますが、インフラという言葉は道路インフラのみを指す言葉ではありません。これから培おうとしているインフラ点検自動化の技術やドローンの飛行ノウハウを活用して、他領域のインフラの生産性向上に役立てていきたいと考えています。

 完全自動飛行のドローンが完成すれば、物流インフラに一番使えます。ドローンによる物流はまだ誰も行っていませんが、当社がドローンを安定して飛行させる時間が一番長くなれば、ドローン物流を実現するためのホップ、ステップの段階まで来ます。
 そこまでいけば、次は物流に必要な自動飛行基盤を展開していきたいと考えています。具体的に言えば、NTTの局舎には昔、大量の交換機がありましたが、現在はすべてなくなり、スペースが空いています。そこにドローンをたくさん並べて、自動離発着、自動給電を可能にして、さまざまな会社が利用できるシェアリングドローンプラットフォームをつくることまで未来図を描いています。
 ――先ほども話しましたが、土木研究所では診断AIを作っています。御社もつくっていて、いつかは交わることになります。そのときに御社はどうするのですか
 柴田 土木研究所のつくるAIがいいものであれば、我々が入っていけばいいと考えています。どちらが勝つとかいうことではなく、いいものであれば採用する、採用してもらうというレベルの話です。民間である我々はコンセンサスなく進められますので、その成果をジャパンとしての標準に組み込んでいってもいいと思います。
 ――土木研究所はディープラーニングではなく、エキスパートシステムを使っていますから、そこを調整していけばいいと思います
 柴田 競争は必要だと思います。最初から調整するよりは好きなことを行って、いいものができたときに、それを提供するとなれば、国に貢献したいと思ってやっていることですからすべて提供します。しかし、調整を待っていたらスピードに負けます。自由に新しい知識や技術にどんどん挑戦していき、いいものができたら、あとは行政が整理すればいいと考えています。
 土木研究所のAIは橋梁に限ったものです。情報源が我々とは違います。当社はNTTグループのエキスパートなので、まずは自分たちの得意分野で進めていて、それがよければ使ってもらえるし、橋梁については土木研究所のものがよければ逆に使いたいと思います。
 ――健全性の定量化はどのように説明(定義)していきますか
 柴田 橋梁に関しては国土交通省の方は横並びで説明したいと言いますが、電力会社が電力会社なりによければいいと、各事業者が満足する基準を満たしてまいりたいと考えています。企業秘密でもいいわけです。
 ――ありがとうございました

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