道路構造物ジャーナルNET

高い感度を保って事業部のニーズに的確に応えることが使命

NEXCO西日本 里深技術本部長インタビュー

西日本高速道路株式会社
執行役員技術本部長 兼 海外事業部長 兼 安全管理部長

里深 一浩

公開日:2019.10.31

長大橋耐震補強 応急対応に簡易段差防止装置を開発
 GFRPと珪砂を用いた簡易な構造

 ――長大橋や架け違い部の耐震補強技術についての開発・実施状況は
 里深 NEXCO西日本コンサルタンツと共同で、人力で設置できるFRP製の簡易段差防止装置を開発中です。FRP製型枠の中に充填物(珪砂)を充填して人力で設置するものです。
 既に試作品を使った室内実験も行っています。今年度中に実橋での試験施工も行いたいと考えています。
 ――もう少し構造詳細やメカニズムを詳しく
 里深 現場での施工性などを考慮し、軽い材料を使うことを考慮し、箱にはGFRPを採用し、板厚も10mm程度としました。200×200mmの正方形とし、高さは400mm、これを九州縦貫道木山川橋の桁脱落(熊本地震)などの教訓を考慮し、4つ並べてサイコロ型に設置して運用しようと考えています。箱内には珪砂を詰めます。珪砂は全高詰めるのではなく、350mm程度とし、隙間をわざと開けます。その上には厚さ100mm程度のGFRP製の落し蓋(箱体との間にも隙間をわざと空ける)を設置する構造とします。すると支承が壊れて桁が落ちたときも落し蓋に荷重がまず乗り、その落し蓋から珪砂に荷重をかけることで、珪砂が横方向に広がり、GPRP版に膜応力(均一な引張力)をかけて支えるというものです。



簡易段差防止工の説明図

FRP製の簡易段差防止装置(紫外線劣化を防ぐため黒い塗装を施している)

 ――これは恒久対応ですか
 里深 本格的な支承取替や落橋防止工を設置するまでの応急対策用と考えています。だからこそ人力で簡易に施工できるようにしました。

グラウト充填不良点検は全面的に広帯域超音波法を採用
 新しい防食手法としてTAPS溶射を積極採用

 ――グラウト充填不良点検および対策工についての開発・実施状況は
 里深 グラウト充填状況の点検手法としては広帯域超音波法を主に採用しています。主に上縁定着のPC鋼棒が対象です。補修についてはその点検終了後に本格着手しようと考えています。具体的な補修方法は未定です。全対象橋梁の点検は10年程度かかると見込んでいます。


広帯域超音波法の概念図

実際の施工状況/実際のデータ(当サイト既掲載)

 ――破断による耐荷力の減少に対するフェールセーフとして外ケーブル補強を行うことが保全編で書かれていますが、そのような対策は
 里深 鋼材が破断している状態であれば外ケーブル補強した例もありますが、グラウト未充填というだけでフェールセーフとして外ケーブル補強した例はありません。
 ――PC鋼材の破断を調査する方法としては漏洩磁束法がありますが、同手法は採用していますか
 里深 現在のところ採用していません。
 ――塗装塗替え、とりわけ有害物を有する塗膜の剥離技術や素地調整方法の採用・開発状況と新しい防食手法の採用・開発状況は
 里深 塗膜剥離工法や素地調整については、塗膜剥離剤であらかた落とした後に乾式ブラストで1種ケレンする手法を実施しています。
 新しい防食手法としては桁端部や添接部を中心に耐久性が高いAlMgプラズマアーク溶射(『TAPS溶射』)を積極的に採用しています。



TAPS工法

斜面崩壊警戒システム『newron®』の展開を急ぐ
 あと施工アンカーボルトの変状確認に電磁波パルスを用いた非破壊検査手法

 ――先の水害では山陽道や高知道などで降雨による斜面の崩壊が高速道路に大きな影響を与えましたが、それを警戒するセンサ類の開発について
 里深 当社では降雨による斜面の崩壊を警戒するシステムとして無線センサを活用し構造物を常時監視するシステム「newron®(NEXCO West Real-time Observeation Network)」の開発を行い、実用化を進めています。大阪大学と連携して共同開発したものです。newron®は設置・撤去・メンテナンスが容易な無線センサで斜面の土中水分や地下水位、雨量、荷重、傾斜、伸縮などをモニタリングするものであり、IoT技術により高速道路構造物の常時監視を可能とするものです。
 新名神高速道路(高槻JCT~神戸JCT)で試験的に設置および運用しており、今後は本格運用、そして全社展開に向けて取り組んでいきます。


newron®(NEXCO West Real-time Observeation Network)

 ――もう少し具体的には
 里深 現地にあるセンサを子機同士で通信して、現地の基地局の方まで持ってきて、異常が出てくると、スクリーニング的に現場の変状の気づきとなるシステムです。
 ――あと施工アンカーボルトの変状を測る技術の開発状況は
 里深 これも大阪大学(鎌田敏郎教授)と共同研究していまして、アミック製の電磁波パルス装置を応用したあと施工アンカーの変状確認方法を開発しています。電磁パルス法とは、励磁コイルにパルス状の大電流を流すことによってコイル周辺に瞬間的に地場(動磁場)を発生させ、生じる電磁力により、コンクリート内部に存在するアンカーボルトを非接触で振動させ、これによって発生する弾性波を捉えることにより、アンカーボルトの状態を評価する方法です。現在は室内試験を繰り返しており、今年度中には実構造物での試験を行いたいと考えています。


電磁波パルスを用いたあと施工アンカーの変状確認方法

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム