道路構造物ジャーナルNET

平成16年度以降、改訂されていないのは異常な事態

支承便覧改訂の進捗状況を高橋良和教授に聞く

京都大学大学院工学研究科 
社会基盤工学専攻 構造材料学分野
教授

高橋 良和

公開日:2018.06.29

シート 主要な部材が対象
 どこまで出すかはせめぎあい

 ――シートの話ですが、製品全体としてのチェックシートでしょうか。それとも支承を構成する部材ひとつひとつのイメージでしょうか
 高橋 基本的に主要な部材について対象としています。ここも支承の難しいところですが、例えば鉛プラグ入り積層ゴム支承ですと、鉛とゴム支承の足し算で本来説明できるはずですし、設計体系もそうなっていますが、実際には鉛の挙動と弾性的なゴム支承の挙動をそのまま素直に取り入れて、単純に足すと実際の挙動になりません。それは実際にLRBだと周りのゴム支承は弾性ゴムを仮定しますが、弾性ゴムといっても小さな履歴は描きます。なので、純粋な弾性部材ではありません。しかも、ハードニングも発生します。それを設計モデルとしては直線としてモデル化しています。それはできるだけ本質を単純にモデル化し、それを踏まえて設計することが一番の目的であるためです。実際には(LRBでは)ゴム支承部分もエネルギー吸収します。支承便覧もそうですが、エネルギー吸収するのは鉛の性能とモデル化していますから、本来ゴムが持っている減衰性能も実はすべて鉛の性能のなかに入れて評価するというようになっています。鉛だけの特性を知っている人からすれば、少し変わった非線形の特性を示すわけです。しかし設計上の仮定を採用しつつ、実際の挙動をできるだけ正確に表現したりするため、メーカーの特許などに配慮しつつ、そのような表記を行うわけです。
 ――これをすべて出してしまうと、各社の技術が丸裸になる可能性があり、なかなか難しい側面もあると思います。
 高橋 そうですね。どこまで共通的にコントロールできる部分があって、メーカーに担保させるか。要するに、それをどこまでのデータを開示させるか、あるいはそれは企業としての独自技術であるか、というせめぎあいはなかなか難しいところがあります。管理する側としてはすべてのデータを欲しい、と思っています。ただ、私も委員会を運営しながら、本当にすべてのデータを提示されても(発注者や元請が)詳細を把握できるのかということと、懸念点として、もし不具合が何かあったときに、すべてのデータを受け取っていた発注者が見抜けなかったと責任を問われる可能性があります。そこまで覚悟したうえで、すべてのデータを要求しようとしているのか、など、そういう話はワーキングのなかで私自身の問題意識としてあって、意見交換を含めて議論をしています。
 ただ、現状として、耐震偽装の問題があったり、あるいは支承とは直接関係ありませんが、落橋防止構造の溶接不良の問題があったり、支承周りと少し関連するような問題が発生しました。すなわち上下部の境界部ですよね。溶接は金属支承でも用いていますので、ここでも一端発刊作業が止まってしまいました。  
 そうこうしているうちに道路橋示方書が部分係数法に変わり、今さら許容応力度設計法の便覧なんて出せないということで、今に至っているという状態です。
 ここまで経緯を話したのは、支承便覧改定においてどのようなの問題意識があったかを示さないと、なぜいままで出なかったのかが理解してもらえない、と感じているためです。

部分係数設計法対応に全精力
 「付加的な」という語句を支承便覧から抜く

 ――現状一番力を入れているのは
 高橋 部分係数設計法を本格的に導入する方針が決まった段階で、そちらの改訂作業に全精力を入れています。
 ――ハードニングの話がありました。仙台東部道路の橋梁支承の損傷により桁が横に動いた事例がありました。それもあり、ハードニングのことを真剣にやる話になったのはわからなくもないです。
 高橋 その時の議論もあって、支承便覧で呼ばれたという話になるのですが、あの被害が単なる不具合なのか、それとも一般的に起こりえるものなのかは、かなり意見が分かれていました。その当時、建築の免震のグループとも議論をしたなかで、破断をともなうような被害やクラックが発生したものは橋梁の支承しかありませんでした。そこに私は品質管理の問題、あるいは製造の性能のばらつきの問題があるのではないか、と感じました。


仙台東部道路で損傷したゴム支承/仙台北部地震で損傷したゴム支承

 また、橋梁の支承は建築の支承と異なり屋外に設置されていて、さらに桁の温度収縮で常時動いています。建築はそれがないため当初の性能がきっちり発揮されるのだろうと思います。橋梁の支承は当然常時で動くことを想定していますが、常時動くことによる性能劣化ということもより強く理解していかなければならない大きな課題であると類推できます。もちろん疲労耐久性の検討はしているわけですが、実際に性能劣化が起きているという事実をどういう形で実際の設計にフィードバックをするための検討は、それから始まった議論です。
 支承に何が求められるかというと、支承の基本的な機能としては上部構造の荷重を支持するということと、変位に追随するということが大事です。また振動への対応も要求されます。振動に対する付加的な機能として減衰があります。しかし今現在、振動に対する機能は付加的なのかと。減衰性能を付加的なものというと、基本的なものと比べるとグレードが落ちるように感じます。しかし、耐震における支承の重要性の意識を高めるために、「付加的な」という語句は支承便覧から抜きました。
 ただ、メインは常時であることは間違いありません。また鋼製支承には振動に対する性能は要求していないわけです。鋼製支承は力で耐えるという話なので、エネルギー吸収という減衰は要求していません。上部構造の付属物としての支承として見る人と、耐震という観点から支承を見る人では、支承に対する意識の度合いがかなり違う。現在、耐震という観点からすると、支承は最後の砦です。エネルギー吸収も要求するし、上下部工をつなぐ唯一の部材であることを考えると、極めて重要な部材だという意識が我々にはあります。

支承オリエンテッドな設計をしたらどうか
 熊本地震も踏まえて考える

 ――とくに最近の免震支承に関すると、免震支承だから基礎の補強を減らせるまたは不要になるという考え方で免震支承を採用することがありますよね。かなり耐震を支承に頼っていることは明白です
 高橋 それだから支承オリエンテッドな設計をしたらどうかと、いろいろなところで言っていますが。ただそうすると、橋梁全体では支承性能が最適にならない可能性があります。性能が余るということをたぶん嫌うのです。それは分からなくもないし、いままでの設計体系としても理解できますが、信頼性も含め,様々な依存性が複雑に絡み合う支承の設計は、ミリ単位で作り分けるまでの精度はもっていないのではないかと感じており、地震でいろいろな不具合が起きたり、支承部分が破壊したりするのは、そういうことの裏づけではないのか、と考えています。
 ――便覧の改訂を行っているなかで、熊本地震が起きた。それはどのような影響が
 高橋 それは大きいです。私自身は東日本大震災の後に、ゴム系の支承の不具合が起きているのではないかと、かなり様々な機会に問題提起をしていました。ただ東日本大震災の後はそれほど反応がありませんでした。
 ――NEXCOは対応していましたね
 高橋 NEXCOはもともと支承の補修はやっていました。しかし、大多数のゴム支承では被害が起きてないわけです。
 ――高速道路各社は紫外線劣化などの対応を行っています
 高橋 ただ、本当に紫外線劣化かはわからない。表面は劣化することは間違いないですが、全体の性能として劣化するかは話が別です。私が受けた印象としても大多数は壊れていないのだから、大枠では問題はないが、製品の不具合やゴムと鋼板の接着面もふくめて、そういったところに何か問題があったのではないか、と考えています。ただ、どんな接着剤を使うのは企業のノウハウになる。そこまで基準でコントールすることができるかどうか、また、コントロールするのがいいのかどうか、私自身は疑問に思っています。
 耐久性としては、大多数のゴム支承は壊れていなかったのだから、いくつか壊れたという不幸な被害はあったけれども、現在の設計によるものは大丈夫ではないかという漠然とした楽観的な雰囲気があったと思います。ただ、熊本地震でゴム系の支承を有する橋梁が多く被災してしまいました。


熊本地震:大切畑大橋の破断したゴム支承

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