道路構造物ジャーナルNET

橋梁・水門など土木全般が対象

ステンレス鋼土木構造物の設計・施工指針(案)を発刊

日本鋼構造協会
ステンレス土木構造物設計施工指針活用小委員会
委員長
(大阪大学大学院教授)

奈良 敬

公開日:2016.03.10

普通鋼のように腐食は広がらない
 LCCは重防食塗装+塗り替えコストと比較

 ――耐疲労強度は普通鋼と同等の性能を有しているのですか
 奈良 遜色ない性能を有しており、普通鋼と同様の手法で設計できます。
 ――防食性能は、どういう風にみればいいのですか
 奈良 防食性能については各メーカーが暴露試験などを行っており、そのデータをまとめています。また、ステンレス鋼の表面は不動態皮膜と呼ばれる厚さ数ナノメーターで、主にクロムに酸素と水酸基が結合した非常に緻密で密着性の高い膜で覆われています。この皮膜が腐食環境からステンレス鋼を保護することですぐれた耐食性が示されます。同皮膜は仮に一部が消失しても酸素があればすぐに再生される性質を有しているため、普通鋼材のように腐食が周囲に広がっていくことはありません。ただし、環境によってはそうした働きが妨げられる可能性もあり、本指針案では常温の陸上大気中、海岸大気中、海上大気中、淡水中、汽水中、海水中を適用環境として示しました。


 ――メカニズムを見ると耐候性鋼材の延長線上で見れば良いわけですね
 奈良 基本的にはそうです。耐候性鋼材は塩害環境が厳しい個所や海岸近傍部では使用できませんが、ステンレス鋼は飛沫帯のような過酷な環境下でも対応できます。そういう意味では、耐候性鋼材との比較というよりも重防食塗装+塗替えコストとLCCを比較して検討、使用される材料といった方が良いかもしれません。ユーザーの選択肢として有力な材料が一つ増えたと考えてもらえるとうれしく思います。
 具体的にはISO9223(鋼の腐食、環境区分)から区分表(上右表解6.2.3)を作成しており、どの材料がどの環境に合致しているか代表的屋外環境、飛来塩分量の目安などを明記したグレードを設けています。主にPI(Pitting Index、耐孔食指数)値(PI=(Cr%)+3.3×(Mo%)+16×(N%))が高いものほど腐食環境に強いステンレス鋼といえます。


適切な設計・施工・維持管理を明記

 ――施工後の維持管理は
 奈良 本指針(案)内には維持管理の項目を作り、防食に対する維持管理手法についても詳細を明記しています。
 ステンレス鋼が土木に用いられる場合、期待される性能としては、長期に構造物の耐久性を維持できることであると思います。ステンレス鋼はある意味耐候性鋼材に似ていて、構造物の防食性能を鋼材の有する耐食性能に期待して、(塗り替えなどの)メンテナンス作業を軽減しLCCを縮減できる点が魅力であると言えます。
 しかし、適切な使い方、維持管理をしなければステンレス鋼といっても早く傷むケースが生じてしまいます。例えば異種金属接合部境界部の腐食や、ステンレス鋼材片間の隙間部に生じる腐食、溶接スパッタや鉄粉などの付着部に生じる腐食が該当します。そうした個所は腐食が起きやすいこと、取り替えを行いやすいことを念頭に置いて、設計・施工・維持管理をしていただくよう、その手法を詳細に記しています。
 また、桁端部などにステンレス鋼を適用した場合、水洗い、清掃などを行えばさらに寿命は長くなると思います。
 ――対象となる構造物は
 奈良 特に設定していません。土木構造物全体を適用対象としています。個別の案件については、日本鋼構造協会を窓口に適切に対応していきます。
 ――ステンレス鋼が土木構造物に使われた実施例は
 奈良 水門のライニング(クラッド鋼)や構造部材、下水道などのトンネルのセグメント、橋梁などの鉄筋があります。


水門への適用例:(左)沼津港びゅうお、(右)相の釜排水機場水門

鉄筋での採用事例:能生大橋架け替え工事(左、新日鐵住金ステンレス(株)提供、伊良部大橋のプレキャストセグメント(右、SUS304-SD295Bの適用事例、愛知製鋼(株)提供)

 ――防食性能は既存の便覧に比定するとどの領域に該当しますか
 奈良 種類にもよりますが、リーン二相系より耐食性の高いスーパー二相系であれば溶射よりさらに防食性能が高いものであると考えています。鉄筋であればエポキシ樹脂塗装鉄筋、亜鉛めっき鉄筋などよりもグレードが高い防食性能を発揮します。ただ、あくまで使い方を間違えなければ、です。使う際にはどの種類のステンレスなのか、異種金属接触腐食への対応が十分か否かなど注意深く点検して設計・施工して欲しいと考えます。
 ――適用拡大のための方策は
 奈良 土木学会の「土木構造物標準示方書」の中に、既にステンレスを構造部材として入れていただいています。
 具体的な設計にあたっては、日本鋼構造協会で作成した疲労設計指針が引用されているように、これに準拠する形で使えるよう標準示方書の中に記載していただけるようにしていきたいと考えています。ただし、施工と維持管理、材料選択が普通鋼と異なりますので、そこを詳細に周知していただく必要があります。
 周知については、来年度から行っていきたいと考えています。
 ――ありがとうございました

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