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狭隘な架設ヤード 送出し回数は上下線あわせて18回におよぶ

京阪電気鉄道 新名神高速道路 淀川東高架橋 鉄道や府道などを跨ぐ約180mの桁を送出し架設

公開日:2022.08.03

 京阪電気鉄道は、新名神高速道路の淀川東高架橋のうち、京阪本線や府道などを跨ぐP2~P4径間(上下線)の上部工工事をNEXCO西日本から委託されて進めている。桁は送出しにより架設するが、鉄道の営業時間外の送出し作業と狭隘な架設ヤードという現場条件により、上り線約175.2m(鋼重約1,293.5t)、下り線約180.2m(鋼重約1375.6t)の桁の送出し回数は合計で18回に達する。さらに、鉄道上を上り2%勾配での送出しとなるため、複数のリスク対策を行い施工している。

淀川堤防上の管理道路なども跨ぐため2径間まとめて送出し
 渇水期内に施工を完了させなければならず工程管理が重要に

施工の概要
 淀川東高架橋は、橋長459m、有効幅員16mの鋼4径間連続非合成鈑桁橋+鋼3径間連続非合成箱桁橋。2主箱桁橋となるP2~P4径間の支間長は、上り線が166.2m(93.7m+72.5m)、下り線が171.7m(99.2m+72.5m)だ。P2~P3径間は京阪本線と府道13号京都守口線を跨ぎ、P3~P4径間は淀川の堤防上にある管理用道路と河川内河川である放生川を跨いでいる。このため、京阪本線上の1径間だけでなく、2径間まとめて送出しで架設することとした。なお、他径間はクレーンベント工法での架設をNEXCO西日本が計画している。
 送出しはP2側から行う。まずベント設備を設置したうえで軌条桁を架設し、その上で架設桁と手延べ機を組み立てる。1回目の送出しで手延べ機をP3橋脚上に到達させた後、2回目の架設桁の組立てを行い、第2回と第3回の送出し。3回目の桁組立て後に第4回、第5回の送出しを実施し、4回目の桁組立てを行う。さらに、第6回、第7回の送出し後、架設桁に常設足場を設置して第8回、第9回の送出しをして、桁降下する工程だ。


全体工程表と施工概要図(京阪電気鉄道提供。注釈なき場合は以下、同)
※作業の状況により工程が変わります。

施工フロー・送出しステップ図 ※拡大してご覧ください

 工程で課題になるのはP4橋脚が河川区域内にあることだ。2022年10月16日から2023年6月15日までの渇水期内に、その区域内の送出しとなる第4回から第9回、そして桁降下までを完了しなければならないからである。出水期に施工ができないため、「工程の少しのずれが大きな工程遅延につながってしまうことから、工程管理が非常に重要」(元請の鹿島建設)となり、「渇水期に入ったらすぐに第4回の送出しをしなければならない」(京阪電気鉄道)という施工が求められている。

橋軸方向約100mの狭隘な架設ヤード
 軌条桁を約95m架設

施工ヤードの特徴
 P2側の架設ヤードは京阪本線と小河川である利根川の間の橋軸方向100m程度の狭隘なものとなっている。この空間を最大限に活用しても軌条桁を約95mしか架設できなかったので、架設桁を4回に分割して組立てざるを得なかった。


架設ヤード。京阪本線(右側)と利根川(左側)に挟まれた狭隘なヤードとなっている

 ヤード内には同橋と接続する樟葉高架橋と兼用のP1橋脚があり、利根川を跨いだ樟葉高架橋のP6橋脚まで鋼桁であれば、先行して架設を行い、その架設済み桁を利用して送出し架設ができた。しかし、樟葉高架橋はPRC8径間連続(箱桁+4主鈑桁)混合橋で、P2~P4径間送出し後に桁架設を実施する計画となっていたことから、軌条桁を架設しての送出しという方法しか採用できなかった。
 さらに、架設ヤードが枚方市の下水道施設を横断する場所に位置することから、枚方市の職員が日常管理や緊急時にヤード内をいつでも横断できる通路を確保しなければならず、それによるベントや軌条桁設備の設置に制約が生じた。

ベント構築と軌条桁の架設
 軌条桁用のベントは、下り線では橋脚支持用ベントとしてP2に1基、P1に2基、樟葉高架橋P7に2基、P1~P2間に1基を構築している(上り線はP1~P7間に軌条桁組立用の仮受ベント1基を構築し、P7を1基としている)。P1~P2間のベントは、フーチング付きの場所打ち杭(φ1,000mm×6本)で、本体橋脚の基礎と同じく支持層まで根入れ(9.5m)を行い、安全性を確保した。橋脚の支持用ベントは、調整コンクリートを敷設したうえで構築した。


ベントの構築

送出し時のベントの状況(大柴功治撮影。以下、撮影=*)

 軌条桁は200t吊クローラクレーンを上下線各1台用いて架設している。片線2主桁であり、1主桁あたり最大22m、最小4mのブロックを6回に分けて架設した。


軌条桁組立計画図

軌条桁の架設/軌条桁完成/送出し設備設置状況

組立てブロック数は上下線合計で124ブロック
 手延べ機組立て時には架設桁を縦取り

桁製作と桁・手延べ機組立て
 上り線の架設桁はJFEエンジニアリングの津製作所で製作し、陸上輸送で現場に搬入している。下り線は宮地エンジニアリングの千葉工場で製作、大阪・貝塚埠頭まで海上輸送し、そこから陸上輸送で現場搬入となっている。


架設桁の製作(NEXCO西日本提供)

 防食はC-5塗装系で、製作時のプロセスおよび品質管理として、第1種ケレン後2時間以内に塗装を実施することや、塗膜厚の測定などを行っている。重防食については、P2~P3径間には常設足場を設置するため、常設足場に覆われていない京阪本線上の合成床版部の側面のみに金属溶射(Al-Mg)を採用した。
 ブロックごとに現場に搬入された架設桁は、軌条桁架設で用いたのと同じ200t吊クローラクレーンで軌条桁上の設備に吊上げ、組み立てていく。1回目の組立てでのブロック長は上り線が最短約4.4m、最長約6.3m、下り線が最短約4.5m、最長約6.7mで、上下線ともに1主桁11ブロックの架設、組立てを行った。2回目は3ブロック、3回目は10ブロック、4回目は7ブロックを組み立てる。


架設桁の組立状況/第1回送出しの架設桁組立完了(左写真)

 全ブロック数は、1主桁31ブロック×2主桁×上下線で124ブロックにおよぶ。接合は、ボルト接合および溶接接合を採用し、現場溶接部は板厚の変化(最小16mm~最大69mm)を考量し決定し、全体ジョイントの3分の1以下となっている。
 手延べ機の組立てでは、前述のとおり軌条桁の長さが約95mしかないこと、手延べ機の先端と京阪本線との離隔(軌道中心から7,200mm)を確保しなければならないことから、連結構(3.5m)と手延べ機を40m組立てた段階で、架設桁を後方に27mの縦取りをしている。その後、手延べ機の延長をして、第1回送出しの準備を整えた。

作業時間は午前0時30分から同4時30分までの4時間
 連続施工が可能なエンドレスキャリーを推進装置として採用

作業時間と送出し設備
 送出しは午前0時30分から同4時30分までの4時間という制約があるなかで実施される。これは、京阪本線の終電(0時30分)後から5時の始発電車の15分前までに作業を完了しなければならないことに加え、府道を午前0時から5時まで通行止めにするため、規制確認・解除時間を30分確保しているためだ。「建築限界や架空線と手延べ機との離隔が所定値以上確保できるので、線路閉鎖や停電手続きは不要と判断した」(京阪電気鉄道)ため、「作業時間としては幅が大きく取れた」(鹿島建設)という。それでも鉄道上の架設であり、想定外のリスクに対応できるように複数のリスク対策を行って施工に臨んでいる。
 送出し設備は、2主桁にあわせて片線4軌条で、軌条上に前方台車と後方台車を配置し、P2橋脚上に250tシンクロジャッキ×4基(1主桁2基)、到達側のP3橋脚上に400tシンクロジャッキ×4基、P4橋脚上に250tシンクロジャッキ×4基を設置する。送出し回ごとに使用設備は違い、第1回送出しでは前方台車と後方台車の2点支持となることから、P2橋脚上の設備は使用せず、P3橋脚上も到達時の受点のみとして使用している。


軌条設備と台車(撮影=*)

P2橋脚上のシンクロジャッキ

 前方台車と後方台車は従走台車で、推進装置には50tエンドレスキャリー(大瀧ジャッキ)を用いた。同ジャッキは、ワイヤーをクランプする機構とジャッキで引き込む機構をそれぞれ2セット保有した油圧装置で、それぞれが交互に作動することによって連続的にワイヤー引き込みを行えるので、連続施工が可能になる特徴を有している。水平ジャッキの倍の速度である1分間に最大1mの送出しが可能で、「時間制限がある中ではある程度の速度で送出さないと、不測の事態が発生した時に時間が足りなくなってしまうので採用した」(鹿島建設)。


エンドレスキャリー。第1回送出しでは桁下に設置した

 送出し速度がさらに速い自走台車の採用も当初計画では検討した。しかし、2%の上り勾配での送出しであり、作業時間も4時間を確保できたことから、よりリスクの少ない同ジャッキとした。
 エンドレスキャリーは第1回送出しではP4橋脚の支承ソールプレートのボルト孔を使用して桁下面に設置した。これは縦取りで架設桁端部が軌条桁から外れていて設置が物理的に難しかったためで、第2回以降は架設桁端部に設置する。

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