道路構造物ジャーナルNET

光ファイバセンサ BOTDR法を使い計測 将来的には事務所から点検

SmARTストランド張力センサ PC構造物やグラウンドアンカーの健全性を局部・全体の別なく把握

SmARTストランド張力センサ技術研究会
会長

山本 徹

公開日:2021.06.14

 鹿島建設とリテックエンジニアリング、住友電気工業ら28社は1年前、SmART(スマート)ストランド張力センサ技術研究会を立ち上げて、PC構造物やグラウンドアンカーへの普及を進めている。同センサは全長にわたるひずみ分布を計測できる光ファイバセンサをPCストランドに組込み、張力が作用した際に生じる光ファイバのひずみ分布を計測することで、PCケーブルやグラウンドアンカーのひずみ及び張力分布を遠隔からリアルタイムに全体・局部の別なく把握できることが特徴だ。計測技術そのものは東北地方整備局発注の国道115号月舘高架橋上部工(2015年)や近畿地方整備局発注の赤谷地区渓流保全工他工事のグラウンドアンカー(2017年)に適用されて以来、9件の実績を重ねている。山本徹会長にその内容について詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

PC橋 施工時の品質管理、供用中の効率的な点検に寄与
 グラウンドアンカー 健全性や地盤の挙動を経時的に把握

 ――SmARTストランド張力センサとはいかなるものですか
 山本会長 光ファイバセンサをPCストランドのより線の谷間の部分に巻きつけるようにして組み込んだSmARTストランドを用いた張力計測技術で、SmARTストランドをPCケーブルやグラウンドアンカーの緊張材に組み込むことで、それらの全長に渡る張力の分布を把握できることが特徴です。もちろん局所的な張力を測定することも可能です。施工時の導入張力はもちろん、施工後の経時的変化も、望めばリアルタイムに計測することができます。

SmARTストランドをPCケーブルやグラウンドアンカーの緊張材に組み込む

裸線とECF両方に対応している

 PC橋梁を中心としたPC構造物やグラウンドアンカーの全長にわたる張力分布が直接的に管理できるとともに、供用中における構造物の健全性の経時的かつ定量的な評価、効率的な点検に寄与できるものと期待しています。PC構造物の緊張管理では、今までは仮定に基づいて緊張端の導入力と伸びだけで内部の緊張力を推定していました。それがSmARTストランドによって計測できるようになるので、設計断面において必要な張力が導入されているか直接的に分かるというのは非常に大きな特徴といえます。また、PC構造物ではクリープ等によって経時的に導入した張力が変動しますが、そういった張力の変動についても、PCケーブルの全長にわたって把握することができます。
 SmARTストランドは当初、PC橋梁におけるPCケーブルを対象として開発を始めましたが、その展開を進める中でグラウンドアンカーへの適用に対するニーズが高いことが分かりました。グラウンドアンカーに適用した場合には、地盤内に埋設された緊張材に作用する張力分布のモニタリングによって、グラウンドアンカーの健全性や地盤の挙動を経時的に把握することが可能で、法面の安全性の確保や補強要否の判断にも活用できます。グラウンドアンカーは供用中に張力が増える場合も、減る場合もあります。また、地盤内に定着されたアンカー体が劣化して引抜けてしまうこともあります。そういった張力の変化や、グラウンドアンカーが健全に定着されているかどうかも、分布の変化を見るだけですぐにわかります。
 さて、現在の内部充填型エポキシ樹脂被覆PCストランドであれば腐食による損傷はあまり考えられません。しかし強震時に定着部あるいはディビエーターの部分が損傷を受けて、張力が抜けるという現象はあり得ます。これに対して、大きな地震が発生した後でSmARTストランドの計測を行い、地震の前後における張力分布の変動を確認することで、地震後のPC橋梁の健全性を定量的に示すことができます。もう一つ、グラウンドアンカーに関しては、高速道路でも大雨時にのり面が崩落することがありますが、そういった兆候をグラウンドアンカーの張力を常時観測することによって、感知できる可能性もあります。グラウンドアンカーは、自由長部と呼ばれる部分は地盤との付着が切られているため通常は張力が一定になるわけですが、円弧滑りなどの変状が起きた場合、その変状が起きた場所のひずみが変化しますので、それをSmARTストランドで検知できるものと考えています。

 近年、土木構造物の施工技術並びに点検・維持管理技術の高度化による構造物の高品質化、長寿命化が求められています。その一方で、今後、生産年齢人口の減少が予測される中、生産性向上も課題となっています。維持管理の省力・省人化や効率的な点検の実現のために、ICT技術との組合せによる本計測技術の活用も期待されます。
 当研究会は、本計測技術を用いた施工技術、維持管理技術の開発、研究会会員の技術力向上並びに本技術の普及により、良質な土木構造物の形成や維持管理を通じて社会貢献することを目的として設立されました。

BOTDR法を用いて計測
 性状の異なるケーブルごとに入れるためコスト上昇は限定的

 ――会員各社を見ると、ゼネコン大手、PC専業者、基礎工に強い会社など、錚々たるメンバーですね
 山本 元々、ディビダーク協会に加入している会社に声をかけて始めました。さらにグラウンドアンカー分野への適用拡大を図るため、同分野を得意とする会社の皆様方にも入っていただきました。今後は適用拡大を上流側からスムーズに図るため、設計コンサルタント会社の皆様にも入会を呼び掛けていきます。
 ――SmARTストランド張力センサの原理を教えて下さい
 山本 光ファイバセンサの計測技術としてはBOTDR法を用いています。計測器から光ファイバにパルス光(1秒間に100万回程度)を入射すると、ファイバ内の各位置から散乱光と呼ばれる光が発生します。その一部は後方散乱光といいますが、これが入射した光とは逆方向に進み、計測器に帰還します。この後方散乱光の内、ブルリアン散乱光と呼ばれる成分は、入射した光の周波数とは異なるピーク周波数を示し、そのピーク周波数のシフト量は、散乱光が生じた位置のひずみ量と温度に依存します。また、光ファイバ内部を進む光の速さは一定のため、光を入射してから後方散乱光が計測器に戻るまでの帰還時間は、後方散乱光が生じた位置までの長さに比例します。

光ファイバセンサの計測技術としてはBOTDR法を用いている

 そのため、パルス光を入射して以降の連続的な後方散乱光を記録し、計測対象位置までの光ファイバの長さに対応する帰還時間における周波数特性を解析することによって、任意の位置に生じているひずみを計測することができます。
 SmARTストランド張力センサは、光ファイバセンサをPCストランドのより線の谷間に添わせるよう組込むことで両者が一体化して、PCストランドのひずみ変化に光ファイバが追随して挙動します。その光ファイバによって計測されるひずみ分布にPCケーブルのヤング率と有効断面積を乗じることで、PCケーブル全長に渡る張力分布を評価することを可能にしました。
 今までのロードセル、ひずみゲージや磁歪式センサでは局所的な張力・ひずみしか分かりませんでしたが、SmARTストランドでは、全長にわたる張力分布を評価できることが大きな特徴です。
 ――コスト面は
 山本 PCケーブルは例えば19本のPCストランドを束ねて作られていますが、SmARTストランドはそのケーブルの内の1本に入れればOKですし、全てのケーブルに用いることはせず、異なる性状を有するケーブルごとに適用すれば、コストはそれほど上がりません。施工の際の品質管理や、供用後の長期の維持管理に資することを考慮すれば、導入コストよりも大きな利益をもたらすことができると自負しています。

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