道路構造物ジャーナルNET

⑭防護柵の重要性~重大事故を教訓として~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2020.11.01

 私の連載記事も10月1日号で2年目に突入した。今回は、少し毛色の変わった「防護柵の重要性」と題して経験談を紹介する。当然の事ながら、現場第一主義をモットーとする私だから、そこは外さないように記述する。
 何故、今、防護柵?と思われるかもしれないが、道路会社を退職する一因にもなったことであり、忘れないうちに書いておこうと思った次第である。今回の題材は、①阪神高速北神戸線での死亡事故、②福岡市「海の中道大橋」での死亡事故、③しまなみ海道でのトラック炎上事故、の3件である。何れも防護柵の設置基準や構造に起因して発生した重大事故である。道路を安全・安心・快適に走行するために必須な防護柵によって引き起こされた事故、これらの重大事故を教訓として学ぶべきこと、について簡単に記述する。

(1)はじめに

 防護柵に関する基準は、道路法に基づく道路では、「道路構造令」の規定によって設計される。港湾法に基づく臨港道路では、「港湾の施設の技術上の基準」(省令)によって設計される。また、基準に定めのない事項については、道路構造令に準じて適切に設定するものとされている。関連する基準としては、「道路橋示方書」や「防護柵の設置基準」が使われる。
 今回の3件の事例は、私が直接的或いは間接的に関わった防護柵に起因した重大事故であり、道路構造物設計者として次世代技術者への教訓として残したいがために紹介する。
 ①阪神高速北神戸線藍那IC付近での死亡事故
 2006年6月28日(水)AM8:15頃発生
 ②福岡市海の中道大橋中央部付近での車両追突と落下死亡事故
 2006年8月25日(金)PM10:50頃発生
 ③しまなみ海道伯方島内トラック衝突炎上事故
 2010年5月23日(日)PM10:10頃発生

(2)阪神高速北神戸線藍那(あいな)IC付近での死亡事故

 2006年3月、3年間の本四高速鳴門管理センター橋梁維持課長の仕事を終え、久しぶりに単身赴任生活から解放されることとなった。
 4月からは阪神高速道路㈱技術管理室(前工務部)技術開発G補佐として着任することになった。着任した当時は、京都の担当課長から「既設鋼製橋脚の仕口と架設しようとした鋼桁の仕口が合わないのでどうしたらよろしいでしょうか」とか、大阪管理部の担当課長から「港大橋アプローチ部鋼製橋脚の添接板が腐食損傷しているので一度見て下さい」とか、考えられない様な相談事がひっきりなしに。京都油小路線については工程が逼迫していたこともあり、「上部工業者の責任で鋼桁の作り直しをさせるべき」、と開口一番に言ったものの、現場施工による救済策を指示した。業者が鋼製橋脚仕口の向きを確認(計測)しなかった致命的なミスはあるが、発注者側の監督員が工場検査で仕口の出来形を確認していないこともミスの大きな要因でもあり、一方的に業者を責めるわけにもいかなかった(技術的な救済策については今回触れません)。

 鋼製橋脚(写真-1.1参照)の件では、丁度、大雨の日に現地調査に行った時のトピックを紹介する。地上入口から鋼製橋脚内面に入ると「正に、滝のように」鋼製橋脚内面を雨水が流れ落ちていた。滝に打たれながら(誇大表現では無い)鉛直梯子を登って、上層梁に到着すると写真-1.2の様な光景が目の前に。流水の経路を辿ると上部水平梁の換気口(マンホールではなく)から大量の雨水が流入していた。上部工の鋼桁が雨傘代わりになると考え対策がとられていなかったようだが実際は集水桝のような状態に。構造物点検で何十年も前から分かっていながら水浸しの状態が放置され続けていたのだから。当然の事ながら、添接ボルトや添接板が腐食していた。

 当時、同様な腐食損傷が多数の鋼製橋脚で確認されており、「阪神高速では添接板の増設と増しボルトで対応しています」と担当係長から技術者とは思えない説明があった。 港大橋アプローチ部の鋼製橋脚については、①肝心の換気孔から雨水が入らないようにすること、②水平梁添接部の補修は、母材と添接板の摩擦接合面は健全であることから、腐食ボルトの交換と添接部の塗替え塗装のみで対応することを指示した。

(裏話・後日談)  鋼製橋脚補修工事(増し添接板+増しボルト+既設添接板補修+腐食ボルト交換)を既に受注していた業者から大阪管理部担当課長経由で陳情が届いた。「ボルトの交換だけでは仕事になりません」。これについても救済策を指示した。これらについては阪神高速バージョンとして今後掲載する予定である。

 さて、「本当に技術者が居るのかよ」という不安に駆られた3か月後、6月28日朝に事故の一報が入った。阪神高速北神戸線藍那IC上り線で路肩防護柵を車両が突き破って路下に転落、というものであった。図-1に藍那IC位置図を、写真-2に事故車両転落経路を示す。

①事故詳細(神戸新聞より)
 6月28日、午前8時15分頃、藍那IC付近の二車線の緩やかな右カーブを走行中、高さ1mのガードレールを4.4m区間にわたって突き破って直下(10m)の県道を飛び越え、南側の駐車場でバウンドし、さらに神戸電鉄粟生線の線路上を飛び越えて南側の竹藪に突っ込んだ(写真-2の経路①→②→③)。この事故で乗用車の男女(高齢)二名が死亡。

②事故後対応
 阪神高速道路本社に関係者(技術管理室技術開発G、保全交通部、神戸管理部、管理技術センター)が集まり対応を協議した。今回の事故の車両の進入角度は想定(一般的には15°)を大きく超えるものであること、速度がかなり出ていたこと、等から端部支柱を補強(2倍設置)することとした。この会議で面白い意見が管理技術センターの部長(前本社設計課長)から出されたので紹介する。「防護柵設置基準と今回の対策構造が違うので実験が必要では?」と。現場即時対応の必要性と重要性が何たるか、を全く理解していない管理職がこの組織には多過ぎると感じた。

③現在の状況
 写真-3.1,3.2に現在の防護柵設置状況を示す。

 補強点は以下の通り。路外・路下への車両の飛び出しは大きな二次災害を招く要因となることから強固なものにした。
  ・前面の羽根は2段構造に。
  ・前面ガードに加えて、後面にもガードを追加。
  ・橋梁部のRC壁高欄と補強防護柵羽根を連続構造に(さらに改良)。

2ページ (3)福岡市海の中道大橋中央部付近での車両追突と落下死亡事故

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