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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊸コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その5) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

1.鉄筋コンクリート下部工の変状とはどのようなものか

 そもそも道路橋は、河川や運河等を跨ぐ場合、地上部に露出している箇所が限られ変状が確認できる範囲も非常に少ない。下部構造に作用する荷重は、一般的に支点部の上部工からの活荷重と死荷重、側面からの土圧、水圧、浮力または揚圧力そして地震荷重である。多くの場合、下部構造の躯体が比較的マッシブであることから、巨大地震でも起こらない限り、見える範囲に大きな変状を目にする機会は少ない。それでは、常時における下部構造の大きな変状とはどのようなもので、原因は何かである。

 大きな変状、これはやはりひび割れで、例えば、下部工が不同沈下、側方移動しなければ、短期間に致命的な状態となる進行性のひび割れが発生することは少ない。ここで、下部構造の特殊性について考えてみよう。

 そもそも、下部構造は、上部構造からの荷重(活荷重および死荷重)を安全・確実に支持地盤に伝えるとともに、地震や温度変化、コンクリートの乾燥収縮、支承摩擦等の影響、土圧、水圧、浮力(楊圧力)、波圧、流水圧など下部構造に直接作用する外力に対して安定し、滑動、沈下、傾斜しないように、また地盤変動の影響を受けにくいように設計、施工されている。下部構造は、複雑な性質を有する地盤に接し、水や海水、流水や波浪の影響下に置かれていることから、建設地点の地盤条件、環境条件、施工条件は設計・施工・維持管理に大きく関係している。

 ここで、現在、道路橋に採用されている下部構造、橋台、橋脚および基礎の種類についてポイントを示そう。

 まず、橋台の形式は、重力式橋台(高さ概ね5m)、半重力式橋台(概ね4~6m)、逆T式橋台(概ね5~8m)、控え壁式橋台(概ね7~20m)、ラーメン式橋台が一般的である。

 橋脚の形式は、杭式橋脚(パイルベント式とも呼ばれ、過去には多用されたが現行の基準下では採用事例はない)、逆T式橋脚、ラーメン式橋脚、柱式橋脚、壁式橋脚、トレッスル式橋脚である。

 橋台や橋脚を支持層に定着させる基礎構造は、直接基礎、杭式基礎、ケーソン基礎、鋼管矢板基礎、連続地中壁基礎などがある。

 橋台、橋脚に使用される材料は、鉄筋コンクリートが一般的で、その理由は経済的であるからだ。しかし都市内に建設する橋脚の場合は、構造が複雑となったり、高さ方向や幅方向に規制があったりするので、薄肉で加工が容易な鋼が使われる場合が結構多い。同様に山間部の橋梁は、渓谷に橋脚を造らざるを得ない条件もあり、鉄筋コンクリートではなく、プレストレストコンクリートや鋼が使われる場合も多々ある。

 このように、下部構造の橋台、橋脚の主流は、鉄筋コンクリート構造が多く、変状も鉄筋コンクリート構造特有なものが多い。しかし、上部構造と比較すると作用荷重による変形量が少ないことからか、致命的な状態となっている事例は少ない。それでは、次に鉄筋コンクリート下部構造の変状について、今回分析した結果を示し、説明しよう。


2.下部構造の変状発生原因およびe判定下部構造の診断

 調査対象橋梁は、鉄筋コンクリートを主材料とした下部構造で、上部構造が、鋼、鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリートである。

 対象橋の内訳数は、鋼橋519橋、鉄筋コンクリート橋が445橋、プレストレストコンクリート橋が332橋で、総数1,296橋である。今回下部構造の変状について分析するのは、定期点検で下部構造の躯体の健全度がdランク(注意ランク)以下となった橋梁に絞った。これから示す今回の分析、現地調査の流れを図-2に示した。



図‐2 下部構造躯体の変状要因分析及び現地調査の流れ


 参考に、定期点検によって、点検・診断された鉄筋コンクリート躯体(1,296橋)の径間別健全度ランクの分類表を表-1に示した。傾向としては、Cランク(やや注意ランク)がいずれの材料も多いのが明らかである。今回調査分析対象としたのは、図-2の調査分析の流れ図に従い、表-1の黄色に着色した鋼橋69箇所、プレストレストコンクリ―ト橋21箇所の総数90箇所を対象に、変状内容に基づく劣化原因を個別に推定し、変状原因分析の柱とした。



表‐1 下部構造の躯体健全度ランク分類表(径間数)


 次に、代表的な変状パターンを有する橋梁を対象から選別、それに加えて、飛来塩分の多い臨海地域に位置する橋梁を加え、現地調査橋梁を25橋に絞り込んだ。図-2の流れ図に示した最終25橋に加え、連載シリーズのターゲットである鉄筋コンクリート道路橋10橋を調査対象として加え、総数35橋の現地詳細調査を行った。

 以上のような流れで調査対象とした鉄筋コンクリート躯体の構造別、健全度ランク別数を表-2に取りまとめた。表-2を見て明らかなように、eランク(危険ランク)が4箇所の11.4%、dランク(注意ランク)が54.3%と、要対策対象橋梁が65.7%である。これには私自身も非常に驚いた。その理由は、そもそも下部構造に要対策割合が50%を超えることは決してないと思い込んでいたからだ。私の勘を確かめるためにも、これから行う現地調査において、各橋梁の実態をより正しく観察し、再評価が必要と感じた。



表‐2 調査下部構造の構造形式と健全度


 対象橋梁の中で、ラーメン式の場合、eランクが無い理由は、eランク評価となると危険度が高いと判断し、緊急補修を行って解消した結果と考える。その理由は、ラーメン式橋脚は他の形式と比較して、スレンダーな構造であるからだ。表-2の下部構造35箇所を変状要因別に分類した結果が表-3である。表-3で明らかなように、変状原因として構造的拘束が最も多く24箇所、次に、止水・排水不全の11箇所、コンクリートの品質不足、鉄筋被り不足、表面経年劣化と続く。表-3の結果を見やすく、全体を把握することが可能なレーダーチャートグラフにした結果が図-3である。



表‐3 下部構造の構造形式と変状要因分類


図‐3 橋台、橋脚の変状原因分類図


 次に、下部構造の構造別に変状原因と経年等の分析を行った。重力式の場合は、橋脚ではなく橋台と考えて良い。レーダーチャートグラフを図-4、経年と変状原因の関係を図-5に示した。いずれも対象箇所数が少ないことから、傾向を示すことは困難である。次にラーメン式の場合のレーダーチャートグラフを図-6に示した。



図‐4 下部構造の変状原因別図:重力式/図‐5 変状原因と経年:重力式


図‐6 下部構造の変状原因別図:ラーメン式


 変状原因は、構造的拘束が最も多く、次が初期欠陥と考えられる鉄筋被り不足、コンクリートの品質不足と続く。図-7に経年と変状原因の関係を示したが、赤の破線で囲ったように経年40年以前の箇所が多く、これは推定に過ぎないが材料の差異、手練りと生コンの違い(W/C、スランプ、締固め等)によるとも考えられる。



図‐7 変状原因と経年:ラーメン式


 次の柱式の場合は、先の重力式よりも対象数が少なく、傾向も相関も分析できなかった。参考にレーダーチャートグラフを図-8、変状原因と経年の関係を図-9に示した。



図‐8 下部構造の変状原因別図:柱式/図‐9 変状原因と経年:柱式


 最後は、河川を跨ぐ橋梁に採用事例の多い壁式下部構造である。壁式下部構造の変状原因レーダーチャートグラフを図-10に示した。構造的に似通っている結果か、ラーメン式と同様に変状原因は構造的拘束が最も多く、続いて止水・排水不全であった。止水・排水不全による変状が多い理由は、対象とした道路橋の上部構造に連続型式が少ない結果とも考えられる。経年との関係を図-11に示したが、これもラーメン式と同様で、赤の破線で囲ったように経年40年までが多く、各変状原因とも経年との相関がほとんどない結果となった。



図‐10 下部構造の変状原因別図:壁式/図‐11 変状原因と経年:壁式


 全体として言えることは、橋脚の主な変状は、壁式橋、ラーメン式橋脚等のひび割れで、写真-5に示すようなコンクリート打設時に発生しやすい温度拘束ひび割れや、ラーメン式の不静定構造に由来する拘束ひび割れが最も多いとの結論となった。また、上部構造の桁端部(伸縮装置の不全)からの漏水に伴って下部構造天端周辺の汚損、遊離石灰発生等が多く見られた。下部構造に使用されるコンクリートは上部構造と比較するとセメント量が少ないのが一般的であるが、局所的に乾燥収縮等にともなう表面ひび割れが顕著な部位があり、これは品質不足によるものと考えられる。



写真‐5 ラーメン式橋脚に発生したひび割れ:温度拘束


 ここで、今回分析に使用した定期点検結果の中で、下部構造がeランク(危険)と判定された橋梁について、それぞれ考えてみよう。健全度eランクと評価されたB橋は、写真-6で示すように中央付近に最大約2mm幅の大きな鉛直ひび割れが発生している。



写真‐6 重力式橋台躯体中央部に発生したひび割れ:B橋


 B橋の橋台は重力式で直接基礎、岩盤上に位置するマスコンクリートであることから、使用している鉄筋量は少なく鉄筋による拘束ではない。ひび割れ発生の原因としては、コンクリート硬化時の外的拘束により発生した温度ひび割れと考えられる。橋台の長期耐久性の観点から考えると対策として、ひび割れ樹脂注入等の対策も考えられるが、直接基礎、重力式橋台の構造特性から現状で十分な安定性を維持しているものと判断する。

 B橋と同様にe判定となったカルバート式橋台を有するC橋は、カルバート内に輪切り状のひび割れが数本確認され、写真-7に示すように中央部にあるひび割れは、幅2mm以上に達していた。



写真‐7 ボックスカルバート式橋台躯体に発生したひび割れ:C橋


 C橋の端支点側カルバートの壁厚は、設計図書を確認すると1.0mであり、橋軸直角方向の幅46m区間に2、3箇所程度の伸縮目地を設けてコンクリート打設されたように見て取れるこのような理由から、C橋のひび割れは、下部構造特有の典型的な拘束ひび割れであり、性能には大きな影響はないと判断する。

 前述2例と同様にe判定となったD橋は、写真-8に示したように橋台側面の土留め壁を兼ねている親柱基部に顕著な斜めひび割れが発生している。ひび割れのあった親柱基部は橋台と一体打設されているが、親柱部分は橋台とは独立しており、側面の土留め壁を兼ねた親柱部が背面からの土圧により外側に押し出され、ひび割れが発生したと考えられる。



写真‐8 親柱と一体化した橋台躯体に発生したひび割れ:D橋


 以上の理由からD橋の場合も、性能には大きな影響はないと考える。しかし、ハンマーの先が容易に入る大きなひび割れであることから、耐久性を考えると樹脂注入等が必要であると判断した。

 以上が、鉄筋コンクリート下部構造の分析結果および健全度でeランク評価となった3橋の再診断結果と対策の必要性有無に関する私感である。