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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊳構造物の健全度評価と劣化予測 ―道路橋がまた落ちた!今度は現役の長大吊り橋だ―

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

4.構造物の耐荷力評価について

 鋼構造物の腐食について劣化予測の考え方と手法について説明したが、実際腐食した部材や構造物をどのような考え方で耐荷力を評価するかについて説明する。腐食によって断面が減少すると、耐荷性、耐久性に大きな影響を与えると過剰に反応する技術者が多いので、前回、道路橋を事例に断面欠損が確認されても想定以上に耐荷力があることを説明した。しかし、私の安易?な説明をあざ笑うように、ネット公開された同日にミャウンミャ橋が主ケーブル腐食を一因(崩落原因が公表されていないので断言は出来ない)として落橋した。私は、起こった事故を警鐘と受け止め、再度、基本的考え方を整理しようと考え、今回の本題となった。

 鋼部材が腐食によって断面減少し安全性が危惧される場合、腐食部分の残存板厚を測定し、立体骨組解析やFEMによる構造解析、あるいは前回説明したように既存の耐荷力評価式によって評価することが多い。腐食断面の構造解析を行うには、腐食箇所をノギス、マイクロメータ、ダイヤルシックネスゲージなどの計測器や超音波厚さ測定機など使った部材厚を使う。しかし、これらによる計測は、点的な測定しかできないので、前回と同様に複数回、各部分を計測し、それを図化する方法がある。近年は、面的に測定することが可能な3Dレーザースキャナのような器具もある。

 3Dレーザースキャナには、三角測距方式、タイムオブフライト方式などがあるが、いずれも多点計測が可能である。同様に面的測定を行う手法として、多方向から画像を撮影し三次元形状を復元するステレオ法がある。しかし、いずれの手法も現在の精度から判断すると課題も多く、全断面を正しく反映する、簡易で短時間に要求性を満足させる機器開発が待たれるところである。

 耐荷力の算出は、腐食した部材の断面欠損量を計測したデータをベースに立体骨組解析、FEMによる構造解析、もしくは既存の耐荷力評価式によって行う。第一にあげた立体骨組み解析は、断面欠損量を平均板厚断面として考え、立体骨組解析による許容応力度照査を行う。次にあげたFEM構造解析は、断面欠損をシェル要素の板厚として考え、弾塑性FEM解析によって評価する手法である。

 ここで説明した、腐食断面の計測法や耐荷力評価手法についてより詳細に知りたい方は、公益社団法人土木学会から出版されている「鋼構造シリーズ29 鋼構造物の長寿命化技術」を参照されるとよい。なお本書は、私が委員長を務めた、「構造物の長寿命化技術に関する検討小委員会」の成果を取り纏めたものである。

 今回説明した劣化予測、耐荷力評価によって、構造物の安全性を適切に評価し、それをベースに計画的な予防保全を行うことが可能となると考える。これまで何度も私は力説しているが、予防保全計画は策定して完了ではなく、計画に基づいて実施、効果を確認し、その結果をフィードバックして初めて完了といえる。私は前回、道路橋の腐食から耐荷力評価を行った事例について、図解等を掲載し説明したが、掲載当日にミャンマーで腐食(原因が公表されていないので明言はできないが)を一因として崩落したことに、技術者として心を痛めている。そこでくどいようだが、再度腐食を中心に劣化予測と耐荷力評価を説明した。


5.報道の差異と技術者として私の願い

 今回話題提供したミャンマーの鋼吊り橋崩落事故は、関係者の中では周知の事実ではあるが、国内で大きく報道されることはなかった。それは何故だろう!

 前回の米国・フロリダの歩道橋崩落事故は、多くの報道局から全国放送され、事故状況を見た多くの人々は、我が国に同様な事故が起こらないようにと願い、日本の技術者に向けた注意喚起となったと考える。しかし、ミャンマー・エイヤーワディ管区、ミャウンミャで起こった鋼製吊り橋崩落事故は、私の知る限りではニュースとして詳細な報道解説や現地画像が映し出された記憶がない。片や先進国、片や発展途上国の違いであろうか? まさか、亡くなられた人の数で判断しているのではないだろう。

 米国の場合、私は技術者に多くの友人がいて、情報収集や行政技術者等の考え方を聞くことができた。ミャンマーの場合、私はミャンマーに行ったことも無ければ、友人もいない。しかし、私は、数多くの日本人技術者が現地で仕事をし、技術支援も行っている状況を見聞きしている。そのような人々に崩落した状況や原因を聞こうとしても、固く口を閉ざして聞くことも、映像や写真を見ることも出来なかったのが現状だ。

 確かに、崩落した吊り橋に替わる道路橋を日本の援助で建設されること、崩落した吊り橋に中華人民共和国が関与していることを考えた、政治的配慮からかもしれない。よくいわれることに、「日本では世界の動きに対応した報道がなされていない」「グローバル化に大きく後れをとる日本」……など情けない言葉が並ぶ。

 海外で活躍する一部の技術者は、現地での対応や諸外国の技術者からの評価も非常に高い。しかし、我が国の諸外国との接し方に関して、私が肌で感じるのは、未だ鎖国状態、保護主義国日本、幸せ溢れる外敵から自然で守られた離島国民なのだ。持てる情報や技術をもっとオープンにすることが出来ないのだろうか? 少なくとも国内の技術者に対して。

 もう一つ余計なことを言わせてもらう。数年前に言われていた「メンテナンス元年」「今すぐメンテナンスに舵を切れ」など国の掛け声は何処に行ったのだろう? 写真-12は、鋼アーチ道路橋の吊材固定部分に発生した変状の詳細が分かる現況写真である。



写真-12  鋼アーチ橋吊材固定部の変状


 建設時に飛来塩分や雨水の滞水を考慮し、樹脂製のキャッピング処理をしたのは、適切である。しかし、供用後42年経過すると種々な部分に多くの変状が発生する。キャッピングした部分と定着部分は塗膜が膨れ、錆汁がでている。私であったら、キャッピングを外して当該箇所を確認し、措置するであろう。安全・安心を考えると、「大丈夫かこの橋は!!」と言いたい。次に、写真-13を見てほしい。



写真-13 落橋したことも分からなかった山間の人道橋


 山間に架かる山道の鋼製トラス人道橋である。降り積もった雪が融け、山に登る道を使うようになると管理者が事前に橋面の板を張り直し、使っていた。ここの作業は、建設後約30年間続いた管理者業務であったが、ある年、雪が融け、何時ものように橋の確認・整備に行ったところ、落橋していることが分かったとのことだ。この橋は、雪深い山間に架かる人道橋だから、厳冬期に落橋していたのが分からないのも無理はない。

 しかし、供用中の現役道路橋が落橋しかかった事例が他にもある。それも点検が法制度化された以降、一流?コンサルタントに業務委託して点検・診断を行った鋼上路トラス道路橋である。この橋は、腐食が原因で鋼部材が破断し、その結果橋面に凹凸が生じ、それを見た住民の通報で慌てて管理者が通行止め措置した事例である。どこの橋とは言わないが、これまた技術者として情けないし、恥ずかしい。このような状態では我が国も、技術レベルも倫理観も先に示したミャンマーの関係者と同様なのではないのか? 大気温度や湿度が低くても、油断していると鋼構造物は崩落しますよ!

 今回の最後に、私は報道に関係する方々に強くお願いしたい。海外に溢れる社会基盤に関係する数多くの情報を、国民や国内技術者に提供して頂きたい! ニュース性や記事内容を見て選り好みや忖度せずに。それが、社会基盤に関係する国内技術者の質を改善する良薬となるはずだと私は確信する。私は本稿の最後に、ミャンマーの吊り橋崩落事故情報は、米国の友人を通じて初めて知ったことを付け加えて今回の話を終わりとする。


<参考文献>

(1)増子 昇:さびのおはなし (株)平文社2007.4

(2)(公社)土木学会 鋼構造委員会:鋼構造物の長寿命化技術 2018.3

(3)(公社)プレストレストコンクリート工学会:コンクリート構造診断技術 2018.4