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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊲鋼道路橋の耐久性向上(その4)~建設中の歩道橋崩落事故と腐食橋梁の耐荷力について~

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

3.腐食が目立つ鋼道路橋の耐荷力を求めてみた
 数回先送りしてきた読者に多少役立つ可能性がある、腐食が目立ち、断面欠損した鋼道路橋が、どの程度の耐荷力があるのかを調査、分析した結果をここで紹介しよう。2回前の連載から始めた話であるので、なぜ腐食橋梁の話になるのかを概要のみ説明しておこう。
 鋼道路橋の代表的な変状は、腐食、疲労亀裂、変形、脱落などである。一般的な地方自治体であれば、主たる変状は鋼部材の腐食で、鋼を主材料として使うのであれば、当初から塗装、メッキや金属溶射を付加するのは分かり切ったことである。
 建設当初は、腐食環境から鋼材を保護する防食仕様が十分機能するが、経年で防食機能が失われ、鋼材の腐食が始まる。本稿の最初でも述べたが、塗装、メッキや金属溶射膜が経年で機能を失うことは多くの技術者が分かっている。しかし、国や地方自治体では、鋼材の防食に関する適切な措置を継続的に行うのは、残念ではあるが『言うは易し、行うは難し』が現実なのだ。それでは、道路管理者としては腐食の進む管理橋がどのくらいの期間、安全に供用できるか判断したくなる。それが、私が今回紹介する腐食し、断面欠損した道路橋の耐荷力及び耐久性判定である。


 腐食と耐荷力について、既往の研究成果を確認すると多少古くはなるが、Vo Thanh Hung・永澤洋・佐々木栄一・市川篤司・名取暢氏らが発表した:「腐食が原因で取り替えられた実鋼橋支点部の載荷実験および解析」(土木学会論文集No.710/Ⅰ-60,141-151,2002.7)があった。公表された論文の中では、「腐食が原因で取り替えられた鋼橋を対象に、第一に腐食状況を調査し、その後、腐食し断面欠損している桁端部に着目、桁端部から第二に供試体を切り取って載荷実験を行っている。切り取って載荷試験を行った部分は、弾塑性有限変位解析によって耐力を計算し、試験結果と照合し考察している。論文では、鋼部材の腐食進行とともに耐荷力は低下するが、設計耐力と比較すると余裕があり、残存耐力は、桁断面の柱としての最小断面・残存断面積と関係性がある。」と述べている。そこで、管理橋の中で、塗装の塗り替えを26年間行っていない写真-5に示すA道路橋を対象に鋼部材の腐食量、桁端部の耐荷力を調査した結果を紹介する。



写真-5 桁下が埋められた腐食が著しいA道路橋


 A道路橋は、橋長が18.5m、全幅員が21.3m、両側に歩道のある鋼単純非合成I桁橋である。外観は、写真でも明らかなように、26年間放置していたからか種々部分に腐食が目立っている。図-1がA道路橋の腐食状況を示す概要図である。



図-1  腐食で断面欠損した部材位置図(A道路橋)


 緑色に着色した部分が腐食、断面欠損が著しい箇所であり、国内の他の道路橋と同様に、桁端部や飛来塩分がかかる外桁が顕著であった。図-2は腐食が著しい、外桁Eの上フランジ部分の状況写真と腐食概要、図-3は、同じく外桁Eの下フランジと支承部垂直補剛材交差部の断面欠損状況と腐食概要である。



図-2  外桁Eの腐食状況写真と概要図(その1)


図-3  外桁Eの腐食状況写真と概要図(その2)


 中桁C’も腐食が著しいと感じ、塗膜と腐食部分を取り去った端対傾構の状況写真と腐食概要を図-4に示した。



図-4  中桁B’-C’間の端部対傾構の腐食状況写真と概要


 次に、A道路橋の腐食、断面欠損状況に関して主要桁を中心に調べた結果を示す。図-5が外桁E、図-6がE桁から内側に1本入ったD桁、図-7がE桁から2本入ったC桁の腐食(断面欠損)調査結果である。



図-5  外桁Eの腐食(断面欠損)調査結果


図-6  外桁から1本目の中桁Dの腐食(断面欠損)調査結果


図-7  外桁から2本目の中桁Cの腐食(断面欠損)調査結果


 青色(ブルーブラック)が強くなればなるほど断面欠損がほとんどなくなり、緑色、黄色、赤色の順で断面欠損が著しくなるのを表示してある。いずれの鋼部材腐食図においても、図の右上に断面欠損状態を定量的に表すスケールを掲載してあるので内容を確認される際、参考にするとよい。また、腐食、断面欠損が進行している外桁Eと中桁Dを結ぶ断面欠損が目立つ端対傾鋼D-Eを図-8に、腐食はしているが断面欠損が顕著ではない中間対傾構D-Eを図-9に、外桁Eと中桁Dの下フランジを連結する横構の断面欠損状況を図-10に示した。



図-8  外桁Eと中桁Dの端部・対傾鋼の腐食(断面欠損)調査結果


図-9  外桁Eと中桁Dの中間対傾構の腐食(断面欠損)調査結果


図-10  外桁Eと中桁Dの中央部・横構の腐食(断面欠損)調査結果


 多くの読者の方はこれらを見てお分かりと思うが、桁端部、コンクリート床版接触部、下フランジの腐食、断面欠損が多い。
 ここで、先に示した論文を参考に、外桁E、中桁D及び中桁Cの残存断面積比及び残存耐力を算出した結果が表-1である。断面欠損が著しい外桁Eは、残存断面積比が0.71まで減少し、設計耐力に対して1.183KNと1.21まで減少している。しかし、中桁D及び中桁Cは、1.616KN、1.649KNと設計耐力1.666KNと比して耐荷力は十分ではないが、ある程度の供用下では耐力が満足する結果となった。



表-1  外桁E、中桁D及びCの残存面積比と残存耐荷力表


 以上、26年間塗膜の塗り替えを行わないで放置したA道路橋の耐荷力は、想像以上にあることが確認された。A道路橋の場合は、私は環境的に桁下が廃川で埋められた状態であることから、湿気がこもり腐食進行が速いのではと危惧したが、幸いにも溜水や地下水位が低い等の理由もあり、予想外に湿度が高くなかったのが幸いしたと考える。以上が、A道路橋を対象として参考論文を基に、腐食による断面欠損が耐荷力にどの程度影響があるのかを調査、検討した結果である。
 今回紹介したA道路橋と同様に、河川を跨ぐことを目的に建設したが、対象となった河川が埋め立てられ役目を終えたとはいえ、供用している道路橋を撤去するのは容易ではない。そこで、対象橋梁の実耐荷力を静的載荷試験等によって工学的に確認する調査費用があればよいが、維持管理費も削らなければならない現状では困難と言わざるを得ない。今回の事例を参考に、簡易に主桁断面を計測、耐荷力を簡易計算することで橋梁全体の耐荷力を技術的に判断することが可能となる。同様な判断を求められた場合は、まずは現地に出向き、今回の資料を頭において各桁の腐食状況を確認すると、「なーんだ! まだまだ大丈夫だ」となるかもしれない。
 後日談ではあるが、A道路橋は結局、主要幹線に架かること、迂回道路の交通量がかなりの量であることなどから、すぐに撤去することは不可能であった。そこで、今回紹介した簡易耐荷力判定結果によって、A道路橋はまだ十分に耐荷力があると最終判断。外桁等の端部断面も補強なしとし、腐食進行を防ぐために塗膜の塗り替えを決定、ふっ素樹脂塗料を中・上塗りとする重防食塗装系を採用した。
 供用している道路橋を数多く見ている技術者は、この橋は持ちそうだと暗黙知でなんとなく分かるが、見たことがない技術者は、腐食桁を見ると大体大騒ぎになる。地震等の災害時安全確保を重視し、リスクマネジメントの観点から判断すると、どちらがベストであるとは言えない。ただ現状で言えることは、事実として問題となったA道路橋も塗膜の塗り替えを完了し、現在も供用している(写真-6参照)。やはり、道路行政とは難しいものである。



写真-6  重防食塗装系を採用、化粧直ししたA道路橋

(2018年5月1日掲載、次回は6月1日に掲載予定です)