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インタビュー詳細

防食と景観を区別した維持管理を

鋼構造物の「適切な防食」とは何か

九州大学大学院
准教授
貝沼 重信 氏

耐候性鋼材の損傷 0.05mdd地図に頼らず飛来塩分測定すべき

 同地図外の飯牟礼2号橋では10年で深さ約2.5mm腐食

 ――次に耐候性鋼材の損傷について、どのように考えておられますか

 貝沼 多くの耐候性鋼橋では、深刻な腐食損傷による問題がほとんど生じていませんが、耐候性鋼を橋梁に適用する上で、重要な課題がいくつかあると思います。たとえば、耐候性鋼材の適用限界の目安として離岸距離が一般に使われていますが、離岸距離を指標として使うことは不適切だと思います。飛来塩分量が0.05mdd以下となる地域を示したマップがありますが、このマップの目安では適用地域内にあっても著しい腐食損傷が生じた事例もあります。鹿児島県西部にある飯牟礼2号橋では、海岸線からの直線距離が約5km(実質の海岸線からの距離は谷沿いに約7km)で、マップでは飛来塩分量が0.05mdd以下とされる地域にあっても、谷沿いにほぼ一年中、海塩が橋梁に飛来したことに加え、結露や霧の影響で、建設後僅か10年で主部材が約2.5mm(平均腐食深さ)も腐食してしまったなど、早期に致命的な腐食損傷が生じた事例があります(写真6)。この橋梁のように、耐候性鋼の適用範囲を示したマップが公表されたがために、架設地点の飛来海塩量を測定することなしに、耐候性鋼材が選定されてしまったケースがあります。飛来塩分量のマップがなければ、飛来海塩量を測定していたはずです。

 飛来海塩量や付着量で鋼材の腐食速度が議論されることが多いですが、実橋の腐食速度は相対湿度に加えて、雨水、霧や結露、さび層などによって、同じ海塩量であっても腐食速度が大きく異なることが少なくありません。実際に数100枚程度の鋼板を使って4地点で様々な設置角度で大気暴露試験をやってみましたが、離岸距離や飛来海塩量と腐食速度の相関はありませんでした。付着塩については、鋼材のさび表面ではなく、腐食速度に直接関係する鋼素地表面極近傍の海塩量について検討する必要があると思います。


著しい腐食になる前に対処が必要

 進行するとブラストであっても錆や塩を十分に除去できない

 耐候性鋼橋で特に問題なのは、層状などの望ましくない腐食損傷が起きてしまってから、慌てて対策していることです。耐候性鋼は普通鋼に比べて、さびが固く緻密であり、腐食した鋼材表面性状も素地調整しにくく、ブラストをしてもさびを十分に除去することが難しい材料です。裸仕様から塗装仕様に変更した橋梁で塩を含むさびが十分に除去できない場合は、早期に塗膜下から局部腐食が発生し、さらに素地調整が難しくなります。そのため、著しい腐食が生じる前のなるべく早期に素地調整を行い、塗装仕様に変えるなどの適切な対策をする必要があります。

 耐候性鋼橋は無塗装ですから、残存板厚、さびの厚さやイオン等価抵抗値などを測定することで、塗装橋に比べて腐食の進行性を容易に評価できます。ただし、耐候性鋼に錆安定化などの表面処理をした場合は、さびの状態などの評価を難しくして,点検、評価の障害となる側面もあります。また、腐食環境が悪化すると保護性さび形成後であってもさびの保護性が著しく低下する場合もあるため、保護性錆の評価ではなく、残存板厚を直接評価することが望まれます。


酸やレーザによる新たな素地調整を検討

 ――実際損傷した耐候性鋼材橋梁はどのように直していくべきですか。ブラストが非常に困難であるとの指摘もありますが

 貝沼 腐食損傷の多くは、路面からの漏水,滞水の影響を受けやすい桁端部に発生することが多いですが、桁端部には狭隘部や入隅部が多数あるため、ブラストにより鋼素地の品質を十分に確保することは難しくなります。特に、著しい腐食が生じた場合はほとんど不可能です。そのため、新しい方法として酸やレーザによる素地調整とブラストを併用する方法について基礎研究を行っています。レーザ処理についてはブラストできない部位であっても、レーザを対象部に適切に反射させることで狭隘部の素地調整も実現できると考えています。

 ――今後の研究の進め方について

 貝沼 鋼構造物の効率的かつ効果的な維持管理を実現するためには、まず、構造物の劣化状況を直接観察、調査、データ収集し、基礎的研究の結果と比較検討しながら、実用に耐えうる技術開発に繋げていく必要があります。この際、従来の土木鋼構造の視点では難しいため、化学、電気化学、材料科学などの異分野の専門知識や知見も活用することが不可欠になります。その活動の一環として、土木学会の鋼構造物の防食性能の回復に関する調査研究小委員会(委員長:貝沼重信准教授、委員:50名)や腐食防食学会の建設小委員会(委員長:同、委員:21名)を主軸として、活動しています。これらの委員会では、土木分野だけではなく、様々な分野の第一線で活躍する専門家で構成され,学際的視点で大気中の鋼構造物の腐食について議論しています。

 ――ありがとうございました