道路構造物ジャーナルNET

防食と景観を区別した維持管理を

鋼構造物の「適切な防食」とは何か

九州大学大学院
准教授

貝沼 重信

公開日:2017.02.28

 九州大学の貝沼重信准教授は、土木学会の鋼構造物の防食性能の回復に関する調査研究小委員会(委員長:貝沼重信、委員:50名)や腐食防食学会の建設小委員会(委員長:貝沼重信、委員:21名)を主軸として、活動している。これらの委員会は、土木分野だけではなく、様々な分野の第一線で活躍する専門家で構成され,学際的視点で鋼構造物の腐食について議論している。その内容も含め、鋼橋を主とした鋼構造物の「適切な防食」をどのように為すべきかということをテーマにインタビューした。その内容をお届けする。(井手迫瑞樹)

腐食の進行速度・部位の重要性に応じて塗替えを判断すべき
 重要な付着塩の雨洗作用

 ――道路構造物の抱えている防食上の課題とどういうアプローチで対応しようとしていますか
 貝沼 橋梁については、防食上と景観上の塗装を区別して維持管理していくべきだと思います。塗膜劣化やその後にさびが発生することで、塗装が塗り替えられてきましたが、今後の維持管理費の状況から考えると、ご承知のように、これまでのように、全面塗装を主とした塗り替えは難しくなります。そのため、部分塗装も推奨されていますが、腐食していたところが塗替え後の早期に塗膜下で腐食が再発するなど、うまくいかないことが少なくありません。また、全面足場を設置した場合、足場コストが塗替えコストに占める割合が大きいので、部分塗装ではなく、全面塗装が選択されるケースが少なくありません。
 塗膜劣化後に、重要部材の力学性能を損なう腐食が早く進行する部位と、塗膜が劣化しても腐食の進行が非常に遅い部位では、塗膜劣化にともなう腐食の意味合いが大きく違ってきます。これまで、塗膜劣化による光沢度低下,残存膜厚や発錆面積などの指標や主観的な評価によって、塗装塗り替え時期が判断されてきました。当たり前の話ですが、本来、塗装は構造物の安全性の観点から、部材の腐食による力学性能の低下を防ぎ、健全度を維持するための防食を主目的とすべきです。景観ももちろん重要なのですが、塗装が供用期間中の構造物の力学性能を維持するための防食なのか、景観のために必要な塗装なのかを考える必要があると思います。実際、景観を著しく損なう部材表面積は、橋梁形式にもよりますが、全部材表面積に比べて随分小さい場合もあります。

 腐食の進行性についてですが、例えば、海岸近くのⅠ桁橋の場合(写真1)、外桁の外面は紫外線などで塗膜劣化しやすいですが、降雨により付着海塩が雨洗され、濡れ時間も短いため、塗膜が劣化しても腐食の進行性が非常に遅いことが多々あります。逆に、日射の影響がほとんどない外桁の内側や中桁などでは、海塩が付着・蓄積し、雨洗浄作用もなく、濡れ時間が長くなりやすいため、腐食が著しく進行する場合があります。また、塗膜劣化前に、ピンホールなどの塗膜の微小傷から板厚方向に進行する局部腐食が多数発生して、部材強度が著しく低下する場合もあります。これらのことから部位によっては、塗膜劣化後も腐食が進行しにくく、供用中に橋梁の健全度に影響がほとんどない場合もあります。そのため、景観が問題とならない部位や橋梁では、塗膜劣化後の腐食の進行性を把握することで、効率的な維持管理につなげられると思います。
 その試みとして、関門橋などの長大橋や小中規模橋梁、水門、その他の様々な鋼構造物を対象にして、主に構造上の重要部位に小片裸鋼板を貼って大気暴露する試験をやってきました。塗膜劣化後に、対象部位の腐食の進行性がどの程度になるかを定量評価するための試験です。この結果から、塗膜劣化後に腐食が早く進行し、部材の健全度を著しく低下すると予想させると推定される部位については、塗膜劣化前の予防保全や維持管理レベルを上げることを提案しています。また、腐食の進行が遅くリスクが低い部位については、あまり手をかけず、維持管理レベルを下げることなどして、メリハリを付けて維持管理していくことを提案しています。

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