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12社400橋が不正、156橋が技量不足や溶接記号誤認識などによる不具合、自治体調査はこれから

落橋防止装置の溶接不良 45都道府県556橋に拡大

公開日:2015.12.06

久富産業以外新たに11社が関与
 地方自治体はこれから調査のため不良数は拡大する可能性

 国土交通省は12月4日、落橋防止装置等の溶接不良に関する有識者委員会(委員長=森猛法政大学教授)の第2回会合を開催した。その後の記者会見で落橋防止装置の鋼製治具の溶接において必要な強度を満たしていない橋梁は45都道府県で556橋に上ることが報告された。


溶接不良を起こした製作会社の特定フロー

 内訳は、久富産業が製造したことが判明した落橋防止装置の取付治具などを用いている国交省・高速道路管理下の205橋(国交省管理175橋、高速道路管理30橋)、地方公共団体管理下79団体352橋を調査した結果、国交省・高速道路管理下で169橋、地方公共団体管理下で60団体188橋において不良品が発見された。地方公共団体管理下の橋梁は220橋点検時点の数字であり、今後さらに数が増える可能性が高い。一方で、国道1号久能高架橋などの事案(リンク先参照)もあり、久富産業以外が製作した製品についても不良品の有無を確認するため、過去10年において、国土交通省および高速道路会社から耐震補強工事を受注した全ての元請会社1700社に溶接部材の品質確認に対する自社調査を行い、それと併行して落橋防止装置の製作に携わった製作会社をほぼ網羅できるように抜き取りによる非破壊検査を実施した。その結果、不正行為を行った製作会社11社(下表、国交省発表資料)を特定した。不正行為はガウジング工程の省略や手抜き、不正な検査報告書の策定、不適正な抽出検査に基づいた報告書の作成などが認められた。

 11社が落橋防止装置の一部を製作した橋梁は144橋に上り、現在までに54橋検査を完了したが43橋で不良が確認された。地方公共団体管理下の橋梁はまだ調査に入っておらず、これも数量の拡大が懸念される。加えて、不正行為は確認されていないが、技量不足により基準を満たさないもしくは溶接記号の確認不足による溶接の不具合などを156橋で確認した。
 国土交通省では、10年以内に施工し、不良が発見された少なくとも556橋について、元請に責任があるとして、必要な強度を満たすように補修補強を要請する方針だ。

 

目視できない、損傷が出にくい不良
 引張強度を期待する部分のみ補修
  落橋防止装置の機能が低下している可能性は小さい

 委員会では、こうした不正や不具合が起きた原因として、落橋防止装置の完全溶け込み溶接の特徴として、溶接内部の(溶け込み不足による空隙など)状況が目視できないこと、また常時荷重がかかる桁や鋼床版など構造部材とは異なり、損傷が出にくいことがその背景にあったのではないか、と推定した。その上で、「今回の溶接不良は、一定の開先をとって溶接されており、落橋防止装置としての機能が低下している可能性は小さく、深刻な問題ではない」と見なし、今後の耐久性や阪神・淡路大震災の以上の予想を超える震災など不確定要素を考慮して補修を行うものとした。補修対象は、設計計算上、引張強度を期待する溶接継手のみに限定している。

溶接記号は誤認識しないよう改善へ

 一方で会見に出席した記者の一部からは、設計図面に記載されている溶接記号の不明瞭さが、不正や不良など不具合を生じた引き金になったのではないか、という指摘がなされた。(活荷重で疲労が生じる鋼橋本体は専門ファブが製作するが、今回の鋼製治具のような製品は土木に精通しない建築物を専門とする製作会社が製造することも多いことが指摘の背景にある)。これについて森委員長は「不正については倫理観の欠如であり、(不正ではない)溶接記号を見て分からなかったことについては、製造会社の勉強不足である」と断じた。その上で「ルールとしては完全溶け込み溶接を指示しているわけであり、部分溶け込み溶接で良いと言っているわけではない。分からないのであれば、(鋼製治具の)製造会社は元請へ、元請は発注者へ確認すべきだった。設計会社は虚偽の表記をしているわけではなく責任は無い。しかし、分かりにくかったことはあり、今後は(表記方法を)改善していく必要がある」と述べた。


誤認識を招いた可能性のある溶接記号(国交省発表資料より)

補修補強方法
 補修補強方法は、設置した橋梁の特徴や不具合の状況に応じて、装置の取替、追加設置、溶接不良部分の完全溶け込み溶接による再溶接、当て板など補強部材の設置を基本とする案を示している。検討にあたっての条件は、①設計計算上引張応力を受ける溶接継手を是正の対象とする、②部分溶け込み溶接となっている溶接継手については、溶け込みの程度やビードの状態から判断して、隅肉溶接としては期待しても良い(せん断力は抵抗)、③既存部材に補強部材を追加する場合、既存部材の板厚によらず、必要な強度が確保できる溶接サイズまたはボルト接合としてよい(必ずしも母材強度以上の強度となる溶接またはボルト接合とする必要はない)という案を示している。

再発防止策
 再発防止策は、今回の製作会社と非破壊検査会社両者による不正という最悪の事態を念頭に提案されている。基本的な考え方としては、外部から品質確認ができず、かつ不良が時間の経過によっても露出しないものについては、重層的な品質管理体制を取るものとした。
 その上で「溶接線に直角な方向に引張応力を受ける溶接継手の内部きずの検査は、継手全長を対象として行うこととし、元請会社は当該検査を第三者検査で行うことを施工計画書に明記の上、発注者に提出すべきである。その上で、元請会社は、当該工事の製作会社に所属しないもので、かつ、当該工事の品質管理の試験(社内検査)を行っていないなど、公正性の疑われない第三者の検査会社と直接契約を行うべきである」とした。
 溶接業界や非破壊検査業界も含めた関係者に対しても、自浄努力や制度の改善等の取り組みを要請するよう求めている。
 発注者に対しては、抜き打ち検査の実施などを含めた検査強化のほか、検査に際して別途、非破壊検査の専門家を同行させることを求めている。
 設計図面についても誤認識が生じないよう、設計図書における溶接種別の明確化、施工計画書などを通した元請会社の認識の確認をすべきである、とした。

以下、会見後の国交省担当者への取材
 ――不正・不具合を全部調べて直すとおっしゃられましたが、元々安全率的にいえば非常に安全側に製作しているわけで、それを全部直すとすると非常に手間とお金もかかると思いますが、それでも直しますか
 担当者 専門家の先生方が話されていたのが、完全溶け込み溶接がきちんとなされていれば、おっしゃる通り、かなり大きな強度を有します。しかし部分溶け込み溶接で良いですよ、というと(現状の調査方法では)強度を管理できないのです。道路橋示方書にも引っ張りが働くところには完全溶け込み溶接にすべきであると、ルールとして決まっていますので、まず、それを行うことが必要であろうと考えます。今日の議事要旨に出ていましたように落橋の可能性はほとんどありませんが。これからの不確定要素を踏まえたり、今後の長い管理を考えれば、そうした傷ものを持っているのは不適当ですから、やはり直さざるを得ないということになりました。
――直すということですが、10年間の瑕疵担保ということを考えていますか。また全額元請負担と考えていますか
 担当者 おっしゃる通りです。
――溶接記号の不備についてどういう指導を行っていきますか
担当者 元請やコンサルタント協会などにも、きちんとルールを再決定して伝えます。しかし現在は森委員長が言われたように現行ルールでは慣用的にKマークを付けていましたが、これは部分溶け込み溶接でいいですよという風には、誰も、どこにも決めていません。それはキチンと確認しなければいけなかった。いろいろな表現があるから混乱したというのは仰る通りで、それは我々としても混乱しないように、今までも明確にしていたつもりですが、再度、更なる明確化をしていこうと考えています。
 ――今回のことに関してはコンサルタントには責任を問わない、と
 担当者 責任はありません。別に不正なことを書いていたわけではないですから。今(記者が)言われているのは、土木系のコンサルタントが作製した図面を、建築系の製造業者が見た時に戸惑ったということでしょうが、戸惑ったなら確認すべきだった。自分の判断で部分溶け込みで良いと判断したとしたらそれはいけません。契約書上、元請は発注者に確認しなくてはいけないということが明記されています(公共工事標準請負契約約款第18条)。図面に疑義があったり、契約書に疑義がある場合は、必ず確認する契約書上のルールになっていますので。
 そうした観点から、図面(溶接記号の誤認識)に起因する不良は「不正」ではなく「不具合」であるとみなしています。
 ――点検体制の更新は、他の分野にも拡大するのか
 担当者 落橋防止装置にフォーカスを当てて調査しています。委員長が言われましたように検査が外観では見えない。また、偶にしか働かないので、構造部材のように疲労のひびのようなものが進行してくれば、(不良による損傷が)分かりますがそういうこともわからない。今後はそうした個所に対しては重層的な検査を入れていくべきであろうと考えています。他全部にこの様な検査体制を入れていこうとは考えていません。基本は元請けが工事の品質を確保するということが基本ですので、それを我々は念のためにやるのも、元請けに100%、橋梁の主要構造物と同じように、100%検査をするという風に変えるべきであると、道路橋示方書も変えるべきであると、(識者の先生方も)言われていて、基本は元請けが100%やっているものを、我々が抜き打ちでやるのであって、我々が100%検査をやる必要はないと考えています。




久富産業が製作し、不良品が発生した橋梁一覧(国交省発表資料から)

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